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第十四章 女神と魔女
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私は、カルスの言葉の意味が理解できず、そのまま問い返す。
「『真っ暗』に戻る、ですか?」
こんな時に悪い冗談を、とも思ったけどカルスは至って真剣な顔をしている。
それなら説明を聞かせて欲しいと願うと、カルスは少し待つ様にと手でこちらに示してから、何処からか瓶を取り出し中身を辺りに振りまいた。
「これで暫くは、向こうからは見えなくなったはずだ」
何をしているのだろうと思っていたのがお見通しだったのか、カルスはそう言ってから私を真っ直ぐに見た。
「なあ、今『魔女』ってのが、女神様の神域に居座ってるんだろう?」
「『魔女』かどうかはわかりませんが、本当の先代聖女だと言っていました。ケイおばさんと女神様に人生を盗まれた復讐をしてるって。そして私の力と体を奪う、とも」
私の答えにカルスは頷き、言葉を続ける。
「やっぱりな。その『魔女』は、ケイの体から離れた魂だけの存在だ。今はいいが、紐付く体がなければどうあれ長く存在できない上、『魔女』の魔力量はかなり多いようだから、メイナくらい大きな魔力を溜め込める体が欲しいんだ」
私はあの魔女ケイナーンにとって、格好の餌というわけだ。
「だからこそ、メイナの体を奪おうとした所で、二度と出られないように封じ込めたい」
「それが、どうして『真っ暗』に戻る事になるんですか?」
そこまでの流れは、受け入れ難いけれど理解はできた。でもそこからの繋がりがわからない。
「『魔女』をメイナの中に閉じ込める為には、光の魔力を吸い込み続け、外に出せない『真っ暗』だった時の状態に戻ってもらうしか無い。そして、『魔女』が中にいる限り、ずっとそのままという事になる」
息を飲んだ。それでも構いません、と即答すべきだと分かっていたのに言葉が出ない。
戻っていなければ、すんなりと受け入れられたかもしれない。でも、こうやって元の自分を知ってしまってからまた戻れと言われるのは、一度目以上に辛かった。
失うかもしれないものに比べたら、私の姿を、顔を二度と見ることができないくらい何でもない事のはずなのに……。
「院長。……少しだけ、ルルと二人にしてもらえますか?」
「ああ、わかった」
カルスは一刻を争う事態とわかっていて、それでも頷き、その場から離れてくれる。
私は、カルスとの話の間、側で見守ってくれていたルルタの顔を見上げた。
「『真っ暗』に戻る、ですか?」
こんな時に悪い冗談を、とも思ったけどカルスは至って真剣な顔をしている。
それなら説明を聞かせて欲しいと願うと、カルスは少し待つ様にと手でこちらに示してから、何処からか瓶を取り出し中身を辺りに振りまいた。
「これで暫くは、向こうからは見えなくなったはずだ」
何をしているのだろうと思っていたのがお見通しだったのか、カルスはそう言ってから私を真っ直ぐに見た。
「なあ、今『魔女』ってのが、女神様の神域に居座ってるんだろう?」
「『魔女』かどうかはわかりませんが、本当の先代聖女だと言っていました。ケイおばさんと女神様に人生を盗まれた復讐をしてるって。そして私の力と体を奪う、とも」
私の答えにカルスは頷き、言葉を続ける。
「やっぱりな。その『魔女』は、ケイの体から離れた魂だけの存在だ。今はいいが、紐付く体がなければどうあれ長く存在できない上、『魔女』の魔力量はかなり多いようだから、メイナくらい大きな魔力を溜め込める体が欲しいんだ」
私はあの魔女ケイナーンにとって、格好の餌というわけだ。
「だからこそ、メイナの体を奪おうとした所で、二度と出られないように封じ込めたい」
「それが、どうして『真っ暗』に戻る事になるんですか?」
そこまでの流れは、受け入れ難いけれど理解はできた。でもそこからの繋がりがわからない。
「『魔女』をメイナの中に閉じ込める為には、光の魔力を吸い込み続け、外に出せない『真っ暗』だった時の状態に戻ってもらうしか無い。そして、『魔女』が中にいる限り、ずっとそのままという事になる」
息を飲んだ。それでも構いません、と即答すべきだと分かっていたのに言葉が出ない。
戻っていなければ、すんなりと受け入れられたかもしれない。でも、こうやって元の自分を知ってしまってからまた戻れと言われるのは、一度目以上に辛かった。
失うかもしれないものに比べたら、私の姿を、顔を二度と見ることができないくらい何でもない事のはずなのに……。
「院長。……少しだけ、ルルと二人にしてもらえますか?」
「ああ、わかった」
カルスは一刻を争う事態とわかっていて、それでも頷き、その場から離れてくれる。
私は、カルスとの話の間、側で見守ってくれていたルルタの顔を見上げた。
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