上 下
53 / 72
第十四章 女神と魔女

1

しおりを挟む
 当然、神域からの声は向こうに届かない。
 ルルタの動きは止まらず、私は真っ赤になって両目を手で覆った。……両目を手で?

 気づけば、何故か両手が自由になっていた。体を捕らえていた鎖が消えている。ちらりと横目で様子を伺うと、ケイナーンも同じ様に真っ赤な顔を両手で覆っていた。
「なんて破廉恥な事を……」
 手を離したせいで、足元に杖が落ちている。
 
 と、いうことは。

『今です! 体に戻るのです、メイナ!』
 拘束を解かれた女神シウナクシアが叫ぶ。
 声で我にかえったケイナーンが杖を拾い上げる間に、私に手を差し伸べた。駆け寄りなんとかその手に触れると、女神の指先に眩しい光が宿り、光は私を膜の様に包んだ。

 目を開けていられないくらいの光。

 そうして、次に目を開けた時には、目の前にルルタの瞳の琥珀色が広がっていた。
「わー! 止まって、止まってください、戻って来たから!」
 唇が触れる寸前で、私はルルタの顔を押し留める。ルルタは、ちょっと残念そうに動きを止めた。
「ただいま、ルル。院長も!」
 私の声に、カルスは片手を上げて応える。
「おう、戻って来たか、メイナ」
 名残惜しそうにしているルルタに下ろしてもらい、私はぐるりと辺りを見回す。
「聖堂にあった杭は無事に取れたの?」
「さっきメイナが流し込んだ光の魔力で、無事に消えたみたいだよ」
 そう言い、ルルタは女神像のある辺りを指差した。
 そこには二人の女性の姿。

 一人が床に座り込み、泣きじゃくっている。
 その傍に腕組みをして立っているのは、ラウミのようだった。

「貴女がこんなに浅慮であったとは思いませんでした。よりによって、聖女様を貶め、女神様を害する事に手を貸そうとは……」
「だって姉様はルルタ殿下の為にと、あれほど妃教育にも一生懸命でいらしたのに、あんな急に現れた聖女などに!」
 座り込んだままの女性が、必死にそう言い募る。ラウミは、深くため息をついた。

「貴女にも父様にもきちんと説明しておくべきでしたね。私が教育に懸命だったのは、今後一人で生きていくための糧となるからですし、聖女様に誤解を受けてもいけませんから言っておきますが、私はルルタ殿下にはこれっぽっちも興味がありません」
 きっぱり言い切ると、ラウミはこちらに目をやり、私が自分の足で立っている事を確認すると安心した様に笑った。

「レイリ、ルルタ殿下にとって聖女様以外の女性など、私が出会う前から目に入っていないのですよ。急に現れたのはこちらの方なのです」
「そんな……」
 レイリと呼びかけられた女性は、服や化粧で見た目が随分変わっていたが、言われてみれば以前一度ラウミに代わって世話に付いてくれた事がある女性だった。

「誤解だったでは済まない事ですよ。私達、ロウデル伯爵家の者は、二度と表舞台に出ることはないでしょう。大人しく沙汰を待ちましょう」
 ラウミがこちらに深く一礼し、レイリに手を貸して立ち上がらせた。

 そして無理矢理、レイリにも頭を下げさせ、ゆっくりと聖堂から姿を消した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

死に戻りの魔女は溺愛幼女に生まれ変わります

みおな
恋愛
「灰色の魔女め!」 私を睨みつける婚約者に、心が絶望感で塗りつぶされていきます。  聖女である妹が自分には相応しい?なら、どうして婚約解消を申し込んでくださらなかったのですか?  私だってわかっています。妹の方が優れている。妹の方が愛らしい。  だから、そうおっしゃってくだされば、婚約者の座などいつでもおりましたのに。  こんな公衆の面前で婚約破棄をされた娘など、父もきっと切り捨てるでしょう。  私は誰にも愛されていないのだから。 なら、せめて、最後くらい自分のために舞台を飾りましょう。  灰色の魔女の死という、極上の舞台をー

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

氷の騎士は、還れなかったモブのリスを何度でも手中に落とす

みん
恋愛
【モブ】シリーズ③(本編完結済み) R4.9.25☆お礼の気持ちを込めて、子達の話を投稿しています。4話程になると思います。良ければ、覗いてみて下さい。 “巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について” “モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語” に続く続編となります。 色々あって、無事にエディオルと結婚して幸せな日々をに送っていたハル。しかし、トラブル体質?なハルは健在だったようで──。 ハルだけではなく、パルヴァンや某国も絡んだトラブルに巻き込まれていく。 そして、そこで知った真実とは? やっぱり、書き切れなかった話が書きたくてウズウズしたので、続編始めました。すみません。 相変わらずのゆるふわ設定なので、また、温かい目で見ていただけたら幸いです。 宜しくお願いします。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

処理中です...