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第十二章 聖女と聖女

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「兄上には、それから随分と良くしてもらってますね」
「当たり前だろう、償っても償いきれん」
 軽くそう返すルルタに、低く唸る様に言うイウリス。

「小さな頃から体が弱かった俺を次期王にしたかった母が血迷い、側室であったルルタの母上が子を宿したと知ると毒を盛った。それが全ての原因だからな。毒に侵されながらも何とかお腹の子だけは無事に産み落とそうと持てる魔力を使い果たし亡くなった姿を見て、初めて母は自分が何をしたのか思い知ったのだと言っていた」
 怒りと悔恨を抑えつける様に、爪が食い込むほどに強く握りしめたイウリスの拳。
 それをエウジェの手がそっと包む。 
 
「それなのに母は、なお俺を王にする事を諦めきれず、産まれたルルタを秘密裡に俺の乳母に託し田舎に帰したのだ。侍医には、死産であったと報告を出させてな……本当に、馬鹿な事をしたものだ」
「既にどちらも亡くなってますから、もういいでしょう。恨みが無いわけじゃないですが、僕としては王になり国を背負うなんて面倒でしかないですし」
 そこに小さな小さな声でルルタが言葉を続ける。
 
「そう、生まれる前に言えれば良かったんですけどね」

 私はルルタが小さな子供に見えて、ぎゅっと抱きしめたくなった。でも、実際はそっと寄り添うだけに留める。
 肩越しに気持ちが少しでも伝わればいいと思った。
 
「メイと最初に会った時には、外に出る時は魔法道具で姿を偽るようにと言い聞かされてたんだよ。まあ、お陰で色んなメイの姿が見られて、それはそれで幸運だったけど」
 空気を変える様に殊更明るくそう言うルルタ。

「あの頃、一緒に水浴びもしていたような……」
 私の言葉に、ルルタはすいっと目を逸らす。
「服は着てたよ、うん」
 ルルタがごまかす様にそう言う。私は色々と思い出される日々の記憶に悶えた。

……ルルタと一緒の寝台にあんなに緊張してたけど、とっくにそれどころじゃない事もしてた訳で。

「あの日々にも楽しい事はちゃんとあったんですよ、兄上」
 羞恥に震える私を楽しそうに眺めてからのルルタの言葉に、イウリスはやっと少し笑った。
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