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第十二章 聖女と聖女

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「二人とも、話は移動しながらにしろ」

 黒神官の手を縛り上げながらこちらに投げたイウリスの声。私はルルタと見つめ合っていた事に気づき、慌てて振り返った。何故かエウジェがイウリスの背を小突いている。

「仕方ないだろう、今はきちんとカタをつけておかないと」
「わかっております!」
 エウジェは悔しそうにそう言い、ちらちらと私とルルタを見た。
 何か意見を求めているのかと思い、私は力強く答える。

「まずはケイナーン様が教えてくれた場所に戻って魔力の巡りを整え、女神様の胸に刺さった杭を取り除きましょう!」
 私はそこで気づく。ケイナーンから託された杖を、攫われた場所に落としてきてしまったのだ。まだあの場所にあるだろうか。
 焦る私の様子に気づき、ルルタは優しく、 
「安心して。今のメイなら杖はなくても大丈夫だよ」
 そう言い、少し考える様に言葉を止めて……小さく呟く。
「それに、あの杖は……」
 そこまで口にしてから、ルルタは何でも無いとでも言う様に、にこりと笑う。
「さ、行こうかメイ」
「転移門はもう使えませんので、外の馬車を使いましょう」
 
 門を吹き飛ばした張本人であるエウジェが、まるで他人事の様にそう言う。

「港から移動してくる時にコイツが使っていた馬車か。4頭立てだから、まあ速いし良いだろう」
 そう言いながら、イウリスは黒神官の手から繋がっている縄を部屋の隅にある柱に結びつけた。
「とりあえず、邪魔になりそうなコイツはここに置いていくぞ」
「貴方、間違っても逃げようなどと考えない事ね」
 エウジェの言葉に、黒神官が小さく震えて何度も頷いていた。



 馬車は頑丈な作りではあったけれど、乗り心地は二の次だった。ただ確かに速い。
 ガタガタと揺れる車内でも私を除く三名は優雅に会話をしている。

 私も慣れたら、そんな風に涼しい顔ができるのだろうか。

 しばらく話を聞く一方だったけど、少し揺れが落ち着いた辺りで私は気になっている事を聞いてみた。
「あの、イウリス殿下とエウジェ様は申し合わせて動いていたようでしたが、ルル様はどうしてあの場に? 普通だったら一番近い転移門へ向かうと思うんですが」
「ああ、それならこれのおかげだね」
 ルルタはそう言うと、赤い石の嵌まった耳飾りを見せてくれる。
「馬が何か痛そうにしているなと思ったら、鞍にこの伝信の魔法道具が隠してあったんだよ。それで義姉上と連絡がついた」
「アイツの目を盗んで仕込んでおいた。エウジェは船を制圧次第、港に近い転移門で待ち構えるという手筈でな。俺の方は、万が一、他の仲間がいた場合を考えてアイツに従うフリをしながら聖女を保護し、企みを聞き出してからルルタに合流すればいいだろうと」
 なるほど、と頷くメイナの横で、ルルタが冷たい声で一言。

「メイナに傷一つでもついていたら許しませんでしたけどね」
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