【完結】真っ暗聖女と白い結婚を 〜女神様の体を整えてこの結婚から貴方を解放するはずが、なぜか執着されています〜

オトカヨル

文字の大きさ
上 下
36 / 72
第十一章 真っ暗聖女、聖女の騎士

1

しおりを挟む
「いいからさっさと入ってください」

 黒神官は冷たくそう言い、構わず私を転移門へ押し込もうとする。
「え、待って、待ってください、ちょっと!」
 私は押し込まれまいと抵抗する。
「すぐ船でこの大陸から出ないといけないんでしょう? だから今、ちょっとだけでいいんです!」
「手を離しなさい。港で少しくらいなら時間を与えましょう」
「嫌です! 今がいいんです!」
 私は必死だった。片手で入り口の柱、もう片手でイウリスを捕まえて、絶対に動かないんだと粘る。

「わかった、何が聞きたいんだ?」
「殿下!」
 咎める黒神官の声に、イウリスはため息で返す。
「仕方ないだろう、さっさと話を済ませた方が早い」
「ありがとうございます! 聞きたいのは一つだけです。ルル様は、小さな頃はウルと名乗っていましたか?」
「そうだ。それ以上は、俺の口からは語れん」
「それで十分です……」
 私は手を離し、黒神官に促されるままに転移門へと足を踏み入れた。
 


 ルルタはやっぱりウルだった。

 私は、それを知って胸がぎゅっと苦しくなる。

 あの時の約束をきっとウルは後悔したんじゃないかと思っていた。だから姿を現さなくなったんだって。
 最初の内は冗談だよって、笑って無かったことにしてくれていいから、また会いたいと思っていた。でも時間が経って、段々と腹が立って。

 だから約束なんて忘れる事にした。『いつまででも待つよ』なんて言ったくせに、ウルが私を裏切ったんだと思い込んで、悲しくて、悔しくて、記憶の奥に仕舞い込んだ。

 でもウルは……いや、ルルタはあの時の約束を守るつもりでいてくれたんだ。ずっと考えていてくれたんだ。

 嬉しくて、申し訳なくて。

 この後、大陸を去ることになるなら、最後にもう一度だけでもルルタに会いたかった。会って、『ありがとう』と『ごめんなさい』を伝えたかった。
 もしできるなら、なんで再会した時に教えてくれなかったのか、『白い結婚』を誓ってくれたのかも聞きたかった……。

「おかしいですね」
 出口側の扉に手をかけて、不意に黒神官が声を上げた。考えに沈み込んでいた私は、その声にはっと我に返る。
 確かにおかしい、転移門は通常入ったらすぐに転移先の門に繋がる。繋がれば、出口側の扉は自然と開くのに。

 何度かガタガタと扉を揺らし、開けようとするがまったく開く気配がない。
「俺が試してみる、少し退いておけ」
 イウリスはそう言うと、黒神官を後方に追いやった。
 そして扉に手をかけたイウリスが、一瞬ちらりと私をみる。

 次の瞬間、グッと腰に腕が回った。

「え?」

 扉が開くと同時に、私の体が宙に浮く。何が起こっているのか分からないが、イウリスが叫ぶ声が聞こえた。
「緊急時だ! 見逃せ二人とも!」
 声と共に、轟音と炎が走り、私は目を瞑り必死に頭を抱える。

「メイー!」
 名前を呼ばれて、私は恐る恐る目を開いた。
「ルル様!」
 一番会いたかった人が、そこに立っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました

富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。 転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。 でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。 別にそんな事望んでなかったんだけど……。 「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」 「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」 強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。 ※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。

処理中です...