【完結】真っ暗聖女と白い結婚を 〜女神様の体を整えてこの結婚から貴方を解放するはずが、なぜか執着されています〜

オトカヨル

文字の大きさ
上 下
33 / 72
第十章 真っ暗聖女、二人の王子

2

しおりを挟む
「メイ、メイナ?」
 戻って来たルルタは、メイナが待っているはずの場所に姿を見つけきれず、戸惑う。
「メイ? 何処にいるの?」
 繰り返し呼んでも答えはない。ルルタはその場に膝を着くと、地面の足跡を確認する。

「メイ以外の足跡が二つ、いや三つかな」
 ここに来ていることは知られないように動いた筈だった。地図については、カルス、ラウミには見られないようにとケイナーンにも頼んだというのに。

 唇を噛む。だけど今はそこについて考えている場合じゃない。
 今はメイナを取り戻す事が最優先。

 ルルタは異常がないかを確認してから、残されて居た馬に飛び乗った。
「メイに少しでも傷をつけていたら、一生後悔させてあげるよ」
 手綱を強く握り、ルルタは低い声で呟く。
 声に呼応する様に、小さく火花が散る。
 馬が怯えたように嘶くが、ルルタはかまわず踵で前進せよと合図を送る。

 ルルタは馬上で体を低くし、出来るだけ速度を出した。走りながら頭の中で地図を開く。
 どこに向かうにしても、急ぐのなら転移門を使うだろう。それなら一番近い設置場所はわかる。

「待ってて、メイナ!」

 そう呼ぶ声は風に攫われて、あっという間に遠くに消えた。





 目が覚めたら、真っ暗な部屋の中だった。

 暗闇で、『聖女の証』だけがチカチカと小さく光っている。
 手で探ってみると、どうも固い木の床へ直に寝かされていたみたい。
 でも、自分がどうしてこんな所に居るのかを思い出せなくて、私はぐるりと辺りを見回す。

 真っ暗だ。……それにしても自分が真っ暗だからって、暗いところで物が見えるとかそういう特典はないんだなあとぼんやり考えてから、急に頭がはっきりして、自分に何が起こったかを思い出した。
「そうだ! 人攫いに遭って!」
 慌てて自分の状況を確認する。拘束されているわけでもなく、そこはほっとした。
 でも、なんで攫われたんだろう? 相手は盗賊の類には見えなかったし、何よりルルタを知っていた。
 
 思い返せば、手入れの行き届いた美しい金の髪といい、人に命令を下すことに慣れていた様子といい、ルルタを敬称も無しで呼んだ所といい……。
「もしかしてとんでもなく偉い人、とか」
「……さっきも思っていたが、お前は自国の王太子の顔も知らないのか?」

 光と共に、声が降ってきた。
 振り返ると扉の隙間から、外の光と先ほどの青年が男性を一人連れて入ってくる。

 私は、言われた言葉が一瞬理解できず、目を何度か瞬いた。
「王太子、殿下なのですか?」
「そうだ」

 鷹揚にそう答え、青年はゆっくりと歩み寄ってくると私を見下ろす。
「本当にお前が聖女なのか?」
 私が返事に詰まっていると、王太子だという青年は私の手を強引に掴んで無理矢理に立ち上がらせると、小さく光る『聖女の証』を確認する。
「証らしきものはあるが、何かの間違いではないのか? 聖女は光に愛される筈だろう。なんだこの闇の凝ったような姿は」
「残念ながら、イウリス殿下。その聖女は本物にございます」
 後方に控える男性がそう言う。
 二人して酷い言い様だけど、私は言い返す言葉が見つからなかった。もやもやする気持ちを噛み殺しながら、せめて後方の男性を睨みつける。
 男性は神官のような衣服を身につけているが、ちょっとこの国とは形式が違った。
 神殿で学んだ時に見たことがある、海の向こう、隣国の神官服ではなかっただろうか。

「私を一体どうするつもりなんですか?」
 王太子妃と共に視察に出ていると聞いていたイウリスと隣国の神官、そしてここにいる私自身。
 関係性がわからず問いかけるしかない私に、王太子イウリスはぶっきらぼうに一言。
「お前を隣国に引き渡す」

 そう答えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない

nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...