【完結】真っ暗聖女と白い結婚を 〜女神様の体を整えてこの結婚から貴方を解放するはずが、なぜか執着されています〜

オトカヨル

文字の大きさ
上 下
27 / 72
第八章 真っ暗聖女、企みを知る

4

しおりを挟む
 そうしてそれからずっと馬の上で揺られている。

 どのくらい時間が経ったかわからない。段々と腕が痺れてくる。今はなんとか治癒の力で持ち堪えているけどいつまでもつか。でも弱音を吐くわけにはいかない。
 まったく馬の速度を落とさず走り続けているルルタの疲労は私の比ではないはず。
 掴まっている手を通して治癒の力を少しずつ流しているけど、疲労が軽減できているかもわからない。

 本当に聖女だというのなら、このくらいの疲労や痛み、いっぺんに消せるくらいの力が欲しかった。正直、聖女として女神と相対する中でも、村で治癒術士をしていた頃と力は変わらないままだったから。
 
 でも今は嘆いても何の役にも立たない。できる事をやるしかないんだと自分に言い聞かせ、私は馬にも本日何度目かの治癒の力を流し込んだ。

「もうすぐ着く、ここで馬を降りよう」
 ルルタの言葉と共に、馬が駆け足から、ゆるやかな歩みに変わる。
 そうしてやっと馬が足を止めると、ルルタが先に降りて近くの木に馬を繋ぎ、両手をこちらに向けてくれた。
 私が戸惑っていると、ルルタは疲労の色なんて顔に出さずに微笑む。
「ずっと掴まっていたから、降りる力も無いでしょ?」
 その言葉通り、ずっとルルタに捕まっていた手には力が入らず、上手に鎧に足をかけて降りるなんて事ができる気はしなかった。
 そっと手を伸ばすと、ルルタが私を捕まえて抱き上げ、地に下ろしてくれる。
「ありがとうございます、ルル様」
「メイにはこの後で沢山がんばってもらわないといけないからね。それまでは、ちょっとだけ下がって待っててくれる?」

 そう言いながら、ルルタは白い手袋を片方ずつ装着する。そうして一度目を閉じて、深く息をついた。呼吸が整った所で両手を打ち鳴らすと手の間で光が弾ける。それは神官が使う浄化の力にそっくりだった。

「武器を持ってこれなかったから、ちょっと時間がかかるかもしれないけど、ごめんね」

 言葉と共にルルタがそっと目を開く。琥珀の瞳の奥でも、キラキラと光が弾けていた。
 私はそれを見た瞬間に、雷に撃たれた様な衝撃を覚える。

 だって、私は、その光を知っている。

 下がって待っていてと言われていなかったら、きっと私はその背を追いかけていた。

「ルル様、ご無事で……」

 私はせめてもと、両手を組み合わせて祈る。
 今は、ただ、ルルタの戻りを待つことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...