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第六章 真っ暗聖女、初めてのデート!
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別室には、大勢の店員が商品を並べて待っていた。
彼らは部屋にドレスや宝飾品をずらりと並べると静かに部屋を出る。
入れ替わりで別の馬車でやってきたのか、ラウミが顔を出す。
「試着の為には、マントを外さないといけないからね」
ルルタの言葉に、なるほどと頷く。
さすがに、認識阻害の魔法道具がなければ、私の姿で店員達をびっくりさせてしまう。
「男性陣は、お話もあるでしょうから席を外してくださいませ」
言われるまま二人が部屋を出て行くと、ラウミはいつものようにスッと背筋を伸ばして、私を見た。
「私みたいな……」
「お顔が見えないから、どんなドレスでも良いというようなお言葉でしたら、聞き流すことにいたします」
ラウミに言葉の先を取られて、私は目を瞬く。
「本当にどんなドレスでも良いと思っておられますか? 好きなお色、好きな形、好きな装飾。毎日見ておりましたので、少しは私も分かってきたと思うのですが、例えば」
ラウミはそう言うと私の前に、形はシンプルだけど鮮やかな花の刺繍があしらわれたドレスを持ってきた。
裾はあまり広がらず、上品に見える。
「このようなドレスは、お好きでは無いでしょうか?」
そう聞かれて、頷くしかなかった。
「好き……です」
「では、まずはこちらから」
私の返事に、ラウミはドレスを手にして微笑んだ。
それから、次々といろんなドレスを試着してみた。
店員達が揃えてくれたドレスはどれも私好みで、そしてサイズもぴったりで。
陽の光のように輝くドレス、花びらのように重なる裾のドレス、宝石を飾ったドレス……。
女神の加護により段々と『真っ暗』に、自分の顔カタチもわからなくなってから、着る物には正直興味を持てなかった。
だって何を着ても、似合うか似合わないか本人にだってわからないのに。
でも今は、着てみるだけでもこんなに楽しくて仕方がない。
「服を選ぶのって、楽しかったんですね」
思わずこぼした言葉にラウミはただ静かに頷いた。
それから色々と試着して、今日の記念というのならこれが良い、そう思った一着があった。
ラウミの提案で、私はそれを着てルルタに声をかけてみる事に。
緊張しながら隣室への扉を軽く叩くと、向こうからルルタが顔を出す。でもその肩越しに見える室内には誰もいない。
「院長はどうしたんでしょう?」
「神官長に挨拶に行くから先に帰るって」
言われてみれば、カルスも神殿所属。王都に来たならやはり挨拶は欠かせないのだろう。
「メイ、そのドレス、すごく似合うね」
ルルタは私の姿をゆっくりと見て、にこりと微笑む。
私は少し恥ずかしいと思いながらも、ゆっくりと回ってみせる。
艶のある赤みがかった黄色いドレスの、薄手の布を何枚も重ねた裾が膨らみ、赤金の裾飾りが動きに連れて揺れる。
「こちらがとても気に入りました」
「じゃあ、約束通り僕にプレゼントさせて」
ドレスを纏う私を見て、私以上に嬉しそうなルルタ。早速、商品の手配について店員と話をするために部屋を出る。
そこで、ラウミが私に耳打ちを一つ。
「こちらのドレス、殿下の色でございますね」
私は返事ができず、逃せない熱に両手でぎゅっと頬を押さえた
彼らは部屋にドレスや宝飾品をずらりと並べると静かに部屋を出る。
入れ替わりで別の馬車でやってきたのか、ラウミが顔を出す。
「試着の為には、マントを外さないといけないからね」
ルルタの言葉に、なるほどと頷く。
さすがに、認識阻害の魔法道具がなければ、私の姿で店員達をびっくりさせてしまう。
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「私みたいな……」
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「本当にどんなドレスでも良いと思っておられますか? 好きなお色、好きな形、好きな装飾。毎日見ておりましたので、少しは私も分かってきたと思うのですが、例えば」
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裾はあまり広がらず、上品に見える。
「このようなドレスは、お好きでは無いでしょうか?」
そう聞かれて、頷くしかなかった。
「好き……です」
「では、まずはこちらから」
私の返事に、ラウミはドレスを手にして微笑んだ。
それから、次々といろんなドレスを試着してみた。
店員達が揃えてくれたドレスはどれも私好みで、そしてサイズもぴったりで。
陽の光のように輝くドレス、花びらのように重なる裾のドレス、宝石を飾ったドレス……。
女神の加護により段々と『真っ暗』に、自分の顔カタチもわからなくなってから、着る物には正直興味を持てなかった。
だって何を着ても、似合うか似合わないか本人にだってわからないのに。
でも今は、着てみるだけでもこんなに楽しくて仕方がない。
「服を選ぶのって、楽しかったんですね」
思わずこぼした言葉にラウミはただ静かに頷いた。
それから色々と試着して、今日の記念というのならこれが良い、そう思った一着があった。
ラウミの提案で、私はそれを着てルルタに声をかけてみる事に。
緊張しながら隣室への扉を軽く叩くと、向こうからルルタが顔を出す。でもその肩越しに見える室内には誰もいない。
「院長はどうしたんでしょう?」
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言われてみれば、カルスも神殿所属。王都に来たならやはり挨拶は欠かせないのだろう。
「メイ、そのドレス、すごく似合うね」
ルルタは私の姿をゆっくりと見て、にこりと微笑む。
私は少し恥ずかしいと思いながらも、ゆっくりと回ってみせる。
艶のある赤みがかった黄色いドレスの、薄手の布を何枚も重ねた裾が膨らみ、赤金の裾飾りが動きに連れて揺れる。
「こちらがとても気に入りました」
「じゃあ、約束通り僕にプレゼントさせて」
ドレスを纏う私を見て、私以上に嬉しそうなルルタ。早速、商品の手配について店員と話をするために部屋を出る。
そこで、ラウミが私に耳打ちを一つ。
「こちらのドレス、殿下の色でございますね」
私は返事ができず、逃せない熱に両手でぎゅっと頬を押さえた
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