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第二章 真っ暗聖女、新しい生活

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「本当に私が聖女なのでしょうか?」
 神官長が到着したとの知らせを受けて、ラウミの案内で別室へ。挨拶を受けてからの開口一番、後方に控えているラウミに届かない様に小さな声で聞いてみると、神官長だというお爺さんはほっそりとした体を揺らして意外に大きな声で笑った。
「貴方様が聖女でないなら、他の誰が聖女だというのでしょう、証をご覧なさい」
 目の皺に少し涙が溜まるまで笑ってから声を潜めてそう言われる。目をやると、手の甲の光は一層大きくなっていた。

ちょっと派手ではないだろうか。

「それに貴方様のご様子は、代々伝わっている『聖女は光に愛される』という言葉とも合致するのですよ」
 私は、影の塊にしか見えない自分の手をじっと見る。
 村では『光に愛されている』と言い張っていたけど、まさか大神官様からお墨付きをいただくとは。
「先代の聖女様は、常に背後から光が差し、周辺が照らされていたとも伝わっております」
「その女神様の愛は夜道では便利かもしれないですが、不眠になりそうですね……」
「ご安心ください。女神様が与えたお役目が済めば、自然と元に戻るとも伝わっておりますから」
 私はその言葉にほっとした、ずっと強がっていたけれど、さすがに自分の顔を見ることもできない状態が一生続くのは、少し辛いなと思っていたので。

「そして聖女である貴方様は『魔力の巡りを整える』のがお役目です」
「魔力の巡りを整える?」
 初めて聞く言葉に、私は首を傾げた。
「この国の大地には網の目のように魔力が広がり巡っていますね」
 私は頷いた。それはこの国に住むものなら小さな子供でも知っている事。

 遥か遠い昔。女神シウナクシアは、実り少ない荒れた大地で懸命に生きる人の子の姿を哀れに思い、自らの体を大地に変えて与えたといわれている。だから大地にはいまだ女神の魔力が巡っており、私たちはその魔力をわけていただいて魔法を使えるのだと。 

「ところが、様々な要因でその巡りが滞る場所が出て来ます。そして、魔力の巡りが滞った土地からは、魔物が生まれやすい。通常は神殿から派遣された神官が魔物の浄化に各地を回っています。大抵は魔物を浄化すれば自然と魔力の巡りも元に戻るのです。その辺りは貴方様も治療術士であればご存じでしょう」
 治療院を運営しているのは神殿であり、治癒術士も神官も、神殿で学んだ者。
 だから当然、神官が行っている『浄化』の事も学んで知っている。

 ちなみに、光の魔力を治癒方向に発揮できれば治癒術士、浄化方向に発揮できれば神官として活躍する者が多い。

「その滞りが百年周期で大きくなるのです、今はまだ神官による魔物の浄化で対応できていますが、既にその兆しが見えており、いずれ普通の浄化では追いつかない程になるでしょう。それを解消できるのは聖女だけであり、その方法については聖女にのみ神託が下るのだと言われています」
「まだちょっと実感がありませんが、今は神託を待てば良い、という事ですか?」
「ええ、心配なさらずとも、じきに女神様からお声がかかりますよ」
 にこにこと孫を見守るお爺ちゃんといった顔で笑う神官長に、私はどんな顔をして良いかわからず、とりあえず曖昧に笑って見せた。
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