5 / 72
第二章 真っ暗聖女、新しい生活
1
しおりを挟む
ふわりと花の香りがした。
私はゆっくりと目を開け、まだうまく働かない頭を動かして、現状を把握しようとする。
と、視界の端にピシリと背筋を伸ばして立つ見知らぬ女性が。
「わっ!」
飛び起きようとするも、柔らかい寝台の上で勢いをつけたため、ぐらり落ちそうになる。
「聖女様!」
慌てて女性がこちらに駆け寄ってくるのを手で制し、私はなんとか体を起こす。
「だ、大丈夫です」
表情では伝わらないので、大袈裟に手を振って無事を伝えると、女性はほっとした様子。
「まだお辛いでしょうに、失礼致しました。私はロウデル伯爵家次女ラウミと申します。本日より聖女であるメイナ様のお側付きとなりました」
優雅に礼をする美しい女性に思わず平伏しそうになり、私はなんとか踏みとどまった。
以前の自分基準でいけば大変に貴いお方なのだけど、昨夜の事が夢でないなら、私は王子妃になったという事。こちらがへりくだるとルルタの評判にも影響してしまうはず。
それにしても、『まだお辛い』とは?
「ルルタ殿下は執務へ向かわれましたが、メイナ様は、その……初めてでございましょうから、なるべくゆっくり寝ていただく様に、と」
ラウミの言葉に私は昨夜、二人で決めた事を思い出した。
初夜は滞りなく済ませた事にしよう、と。
「入浴が必要でしょうから、侍女を呼びますね」
「大丈夫です! あの、そちらも殿下がきちんと……」
寝台の乱れや汚れについては、見られるのを恥ずかしがった私を気遣い、ルルタが魔道具で綺麗にしたという説明をしてくれているはず。
だから、体も魔道具で綺麗にしてくれたと言いたかったのだが、ラウミは「まあ」と上品に口元を押さえて、微笑む。
「急な事ではございましたが、お二人の仲睦まじいご様子に安心いたしました」
私は下品にならない程度の声で笑って誤魔化す。
都合がいいので今後も『仲良く二人で入浴している』という事にしよう。入浴中に何をしていると思われたのかについては、考えない事にした。
どうせ全身良く見えないんだから、入浴を手伝ってもらっても本当は何もしていない事はわからないとは思うけど、念の為。
「では、軽い朝食をご用意いたしますね」
寝台の傍らにある小さなテーブルに、ラウミがお茶とフルーツを切ったものを並べてゆくのを見ながら、私はこれからの予定を聞いてみる。
「落ち着かれましたら、神官長がご挨拶をと申しておりましたが、いかがでしょうか?」
「はい、ぜひお願いします」
私の返答に、ラウミは後方の扉を少しだけ開けて、控えている衛兵に声をかけた。
そうか、こちらから行くんじゃなくて神官長が出向いてくる。そんな立場なんだと、私はどこか他人事の様に思っていた。
私はゆっくりと目を開け、まだうまく働かない頭を動かして、現状を把握しようとする。
と、視界の端にピシリと背筋を伸ばして立つ見知らぬ女性が。
「わっ!」
飛び起きようとするも、柔らかい寝台の上で勢いをつけたため、ぐらり落ちそうになる。
「聖女様!」
慌てて女性がこちらに駆け寄ってくるのを手で制し、私はなんとか体を起こす。
「だ、大丈夫です」
表情では伝わらないので、大袈裟に手を振って無事を伝えると、女性はほっとした様子。
「まだお辛いでしょうに、失礼致しました。私はロウデル伯爵家次女ラウミと申します。本日より聖女であるメイナ様のお側付きとなりました」
優雅に礼をする美しい女性に思わず平伏しそうになり、私はなんとか踏みとどまった。
以前の自分基準でいけば大変に貴いお方なのだけど、昨夜の事が夢でないなら、私は王子妃になったという事。こちらがへりくだるとルルタの評判にも影響してしまうはず。
それにしても、『まだお辛い』とは?
「ルルタ殿下は執務へ向かわれましたが、メイナ様は、その……初めてでございましょうから、なるべくゆっくり寝ていただく様に、と」
ラウミの言葉に私は昨夜、二人で決めた事を思い出した。
初夜は滞りなく済ませた事にしよう、と。
「入浴が必要でしょうから、侍女を呼びますね」
「大丈夫です! あの、そちらも殿下がきちんと……」
寝台の乱れや汚れについては、見られるのを恥ずかしがった私を気遣い、ルルタが魔道具で綺麗にしたという説明をしてくれているはず。
だから、体も魔道具で綺麗にしてくれたと言いたかったのだが、ラウミは「まあ」と上品に口元を押さえて、微笑む。
「急な事ではございましたが、お二人の仲睦まじいご様子に安心いたしました」
私は下品にならない程度の声で笑って誤魔化す。
都合がいいので今後も『仲良く二人で入浴している』という事にしよう。入浴中に何をしていると思われたのかについては、考えない事にした。
どうせ全身良く見えないんだから、入浴を手伝ってもらっても本当は何もしていない事はわからないとは思うけど、念の為。
「では、軽い朝食をご用意いたしますね」
寝台の傍らにある小さなテーブルに、ラウミがお茶とフルーツを切ったものを並べてゆくのを見ながら、私はこれからの予定を聞いてみる。
「落ち着かれましたら、神官長がご挨拶をと申しておりましたが、いかがでしょうか?」
「はい、ぜひお願いします」
私の返答に、ラウミは後方の扉を少しだけ開けて、控えている衛兵に声をかけた。
そうか、こちらから行くんじゃなくて神官長が出向いてくる。そんな立場なんだと、私はどこか他人事の様に思っていた。
0
お気に入りに追加
213
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
今日も聖女は拳をふるう
こう7
ファンタジー
この世界オーロラルでは、12歳になると各国の各町にある教会で洗礼式が行われる。
その際、神様から聖女の称号を承ると、どんな傷も病気もあっという間に直す回復魔法を習得出来る。
そんな称号を手に入れたのは、小さな小さな村に住んでいる1人の女の子だった。
女の子はふと思う、「どんだけ怪我しても治るなら、いくらでも強い敵に突貫出来る!」。
これは、男勝りの脳筋少女アリスの物語。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる