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「3」 ムスタカス家の子息

(13) あの方の婚約者

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ジュリエッタは、マルグリットに泣きついてきた。


「嫌なのだー、絶対なのだ。海坊主の婚約者なんかだ。変わって欲しいのだ!」


驚きです、イーグルとジュリエッタの婚約が正式に決まりました。勿論、決めたのはミリエネッタ令嬢です。

ムスタカス家は商家としては貴族と変わらない位置に居る。代々、王家の政に関わっているからだ。かなりの出資もしており、婚家としては申し分ない。


「とても、お似合いだと思わない?ジュリエッタさんの家の借金も、彼の家なら簡単に片付くわ。」

「お金持ちだ、化け物だ。だから、嫌だ。あんなのとチューしたくないのだ。我慢できないのだ!」

「まあ、お断りになれば?」

「断れないのだ、ジュリエは!」

「断れない?」

「ミリエネッタお嬢様に従わなくては駄目らしいのだ。そうしないと。」

「そうしないと?」

「殺されるのだ!」


目の前で青ざめるジュリエの様子にマルグリットはかける言葉を失った。本当に、そうなるのだろうか。怖い人だ、ミリエネッタ令嬢は。


『恐怖の政治を行っていた女帝』


教師の言葉が頭に響く。魔物や妖精との契約により魔力を手に入れた後、自分に逆らう者を容赦なく処罰していったと歴史書には残されている。

でも、確認しないと分からない。マルグリットはジュリエの婚約の話をミリエネッタ令嬢にしてみた。


「ジュリエッタさんの婚約は、あの人の為に考えたの。良い縁談よ、ムスタカス家は喜んでたわ。幸せよ、あんな富豪の子息の妻に迎えられるのですもの。」

「でも、ジュリエッタさんは。」

「好きも嫌いも、結婚してしまえば同じよ。私だって、嫌だったんだから。」

「私だって?」

「いえ、婚約する前は嫌だったの。本当はね、内緒ですよ。ホホホのホホ。」


今、誤魔化しましてね。怪しい。大丈夫と言われれば、そう思えるし。あんな大金持ちが息子の嫁として認めたのも、ミリエネッタ令嬢の推薦だろうし。

でも、何か引っかかるんです。ジュリエッタの婚約など、結局は他人事だったのだ。


「そうだわ、お話があるのよ。マルグリットさん。あなた、コムの扱いに気をつけてくださいな。」


来ました、火花が飛んでくる。ミリエネッタ令嬢は、気に食わないらしい。大事な奴隷だから。1目惚れで手に入れたという噂だ。


「あなたも、ジュリエッタさんと同じに私と契約してるんですの。私の魔紋の入った契約を。」


部屋の隅から痩せこけた男が立ち上がるのにマルグリットは気がついた。満面に笑顔の男は嬉しそうだ。

マルグリットを見つめて挨拶してくる。


「はじめまして、マルグリットお嬢様。貴女様は知らなくても、私は知っています。貴女が、ミリエネッタ令嬢との契約の中へ入れられた時から。貴女は、私の紋の中に。」


男の骨のよな手が腕に触れてくる。人の物では無い魔物のヒンヤリとした手が。



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