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15 理性を崩してしまいましょう。

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 幸成が「いれて」と言ってくれたときには、正直(助かった)と思った。本当の本気で限界だったんだ。

 これでやっと幸成のなかに入れる。俺がどれだけこのときを待ち望んでいたことか。
 禁欲していたこの二週間もそうだが、ここ数時間のキツさといったら……しまいには、あれだけ敵対視していた日向のことなど、脳裏を掠めもしなかった。

 ぐずぐずで力の入らない幸成を、そっとベッドの壁際に誘導する。
 選んだ体位は、俺が壁に寄りかかって座り、そこへ幸成が跨がる対面座位だ。これなら日向の位置から一番遠いし、アナルにハメられている最中の幸成を見られないで済む。
 あの表情はヤバいからな。色っぽいなんてもんじゃない。あれは視覚の愛撫だ。日向になんか、もったいなくて見せられるか。


 幸成が跨りやすいよう俺の腰は壁から離して幸成の真下に位置づけた。あとは幸成が腰をおろすだけでいい。

 だけど幸成は、俺を跨ぐだけ跨いだまま、なかなか腰をおろさなかった。
 片手を壁に着いて身体を支え、もう一方の手は俺のペニスに添えている。軽く腰を引いて狙いだけは定めているようだが、最後の一歩を幸成は躊躇っていた。俯いた頭の先を壁に押しつけて、目を閉じ、眉を顰めて、じっと何かに耐えている。

 紅潮した頬に、あがり気味の息遣い。引き結んだ唇以外は明らかに発情して見える。アナルもすっかり解れて、きっと俺以上に決定的な快感が欲しくてたまらないだろうに。
 幸成は何を躊躇っているんだろう。


「ゆきなり?」
 至近距離にある発情しきったその顔を見あげ呼びかけると、幸成が睫毛を震わせながらうっすらと目蓋をひらいた。
 潤んだ瞳が、幸成の迷いを表すようにわずかに揺れる。その視線が俺に焦点を結ぶなり、幸成の眉間の皺が深くなった。つらそうな幸成の様子に俺の胸までがぎゅっとなる。

「嫌なら、ここでやめるか?」
 ここまでの前戯だけでも、恋人同士が睦み合う素晴らしさは十分日向に示してやれただろう。あとのことは田崎に任せていれば、どうにかなるんじゃないだろうか。

 あの二人がどうにかなってさえくれれば、俺の目論見のひとつは達成されたも同然だ。軽薄な田崎も日向を想う気持ちだけは本物のようだし、本命との念願が叶えばよそ見だってしなくなるだろう。それでもヤツがよそ見を……幸成にちょっかいをかけてくるようであれば、そのときはまた別の手を考えるだけだ。

 幸成がこれ以上つらい思いをする必要はない。
 そう思って申し出た中断の提案だったが、幸成はゆるゆると首を振った。


「キスして。だいご」
 囁くような小さな声だった。わずかに震えて、泣き声のようにも聞こえる。
 何を躊躇っているのかはわからないが、その躊躇いを振り捨ててでも日向のために続きをすると決めたらしい。

 どうしてそこまでして、と、せつなくなりながらも、ここで中断できるだけの余裕などないことはわかっていた。互いを求める身体の叫びが、もはや嫉妬よりもずっと切迫してしまっている。

 幸成の腰に沿えていた両手のうち、片方だけを幸成の頬へと伸ばした。熱くなった頬を指の背でそっと撫で、そのままうなじまで手のひらをまわす。
 引き寄せるほどの力は込めていない。幸成のほうからゆっくりと顔を寄せてくれた。それにしたがって幸成の腰もおりてくる。

 唇が触れるのと同時だった。さっき追加したばかりのローション越しに、ペニスの先が熱いアナルにぷちゅりと触れた。

 俺が伸ばした舌先を、幸成が口を開いて迎え入れる。熱い舌を絡め合いながら互いの口を深く咬み合せていると、幸成の脚から力が抜けたのか、ペニスの先端がやわらかなアナルにずぶずぶと飲み込まれていった。


 熱く蕩けた柔肉に亀頭を包まれた途端、ペニスの根元へ向かって甘い痺れが伝播する。ローションに濡れた肉筒の感触と、柔肉の誘い込むような動きとに、まだ挿入途中だというのに射精感が込みあげてくる。

 しまった。射精を堪えようにも、キスをしていたんじゃ歯を食いしばれない。
 幸成の腰に沿えていた手をぐるりと伸ばして細い腰を抱きしめる。その腰にすがりつくようにして、ひたすら下腹に力を込めた。

「んんーッ、ふあっあああっ」
 幸成が咬み合わせていた唇をふわりとひらいて艶声をあげた。たちまちギュギュギュッと亀頭を絞られ、吸っていた幸成の舌先を慌てて放棄する。断続的に締めつけてくるアナルに、今度こそ奥歯を噛みしめずにはいられなかった。


 間を置かずに、下腹にあたっていた幸成のペニスからさざ波のような振動が伝わってくる。続いて、じわりと熱く濡れた感触がシルクの布越しに広がっていった。これは、もしや。

「も、だいごが、ぎゅってするからっ」
 俺の肩口に顔を伏せた幸成が、荒い吐息に混ぜて文句をこぼす。その口調は、恥ずかしさ半分、恨みがましさ半分といったところだ。

「責任とれよなっ」
 よほど悔しかったんだろう。文句だけじゃ足りなかったらしい。幸成が顔をあげたかと思えば、俺の頬を両手で挟み、正面から睨みつけてきた。
 潤みきった瞳を懸命に尖らせて苦情を訴えるその表情に、胸の奥をグッと掴まれる。
 ああ、どうしよう。可愛くてたまらない。


 幸成が怒ってるのは、やっと望みのものを手に入れて、さあこれからだという矢先に気を削がれてしまったからだ。

 幸成はセックスの途中で性欲や体力が削られることを気にかけて、毎回、セックス途中で射精することをひどく嫌う。
 過去に何があったかは知らないが、いまだ射精を嫌う割に、俺とのセックスで幸成が満足できずに終わったことなど一度もない。当然、俺がそうさせないから。

「責任くらいいくらでもとるよ。そんなことより、ゆきなり……もしかして、」
 聞きたい言葉が口を突いてでるのを、寸でのところで踏み留まった。

 でも、幸成にはバレバレだったらしく、
「『初めて』だよ。決まってんじゃん」
 と、俺の欲しかった言葉を拗ねた口調で告げられてしまった。


 口調の割には、さっきよりも表情がやわらかい。幸成から貰える『初めて』という言葉に、俺が喜ぶとわかっているからだ。いまだにこんなことに拘っているなんてカッコ悪いことこの上ないが、嬉しいものは嬉しいんだから仕方がない。

 それに今回のコレは、ただの『初めて』とは訳が違う。
 これまで幸成は、挿れられた途端に善がり狂うことはあっても、うっかり射精してしまうことなんてなかった。どんなに激しいセックスをしていてもどこかで理性が働いていて、射精コントロールだけはきっちりとできていたんだ。

 自分の身体に耳を澄ませて余すことなく快感を拾いあげ、そうしたなかで最高の瞬間を手に入れるまでは決して射精しないだなんて、性に貪欲な幸成らしい。

 そんな幸成が、挿れるなりイッてしまった。ということは、いつものストッパーが利かないくらいセックスに餓えていて、理性が働きにくくなっているということだ。
 もっと理性を崩したい。もっともっとセックスに、俺に夢中になって欲しい。


 欲や期待が顔にでてしまっていただろうか。俺の顔を覗き込んでいた幸成が、ふわりとほほ笑んだ。
 その笑顔にふたたび胸を掴まれて、堪らない気分にさせられる。幸成は、どこまで好きにさせれば気が済むんだろう。

「ゆきなり、見たい。見せて」
 俺のほうも、ちょっと拗ねた口調になってしまった。
 カッコ悪さを見透かされたせいもあるが、果ての見えない幸成の吸引力に、俺ばかりが夢中にさせられていることへの不満もあった。

「見せて、って、なにを」
 と戸惑いつつも、幸成は真っ赤になっている。俺が何を要求しているのか、ちゃんと思い当っているようだ。

「ゆきなりが、挿れられた途端にイッちゃった『初めて』の証拠が見たい」
 せっかく幸成が言葉にしないで済ませようとしていたことを赤裸々にして訴えると、幸成はひどく複雑な顔をした。きっと、恥ずかしい反面、俺を喜ばせたい気持ちもあって怒りきれないんだ。


「証拠って……こんなの見たって」
「見たいよ。ね、ガウンをまくって見せて?」
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