親友をセフレにする方法

藍栖 萌菜香

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44-【ダメ見本】焦らすのもほどほどに。

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「あっ、あッ、」
 甘く濡れた声が絞った喉奥から漏れていく。
 ベッドヘッド側に積んだ枕やクッションに凭れて崩れた俺は、その胸元を撫でていく自分の吐息にさえも、どうしようもなく感じて震えていた。

「だいご、もう、もう、」
 もう、どうだと言いたいのか。続くはずの言葉が見つからない。
 この責め苦が始まってから、どのくらい経ったんだろう。まだ二十分くらいか……いや、そろそろ一時間を越える頃かもしれない。ゆるゆると与え続けられる快感のせいで、時間の感覚がおかしくなってる。

 『ゆきなりのおちんちんを開発する』と言いだした大悟が楽しそうだからと、おとなしく付き合っていたけど、これはちょっと失敗だったかもしれない。

 大悟は、徹底してぺニスにしか触れてこなかった。たまに睾丸や足のつけ根へと大きな手のひらが彷徨うことはあっても、ほかの場所にはいっさいノータッチだ。大悟の手はどこまでもやさしくて、ペニスの胴を指先でそっと摘まんで緩く扱いては、裏筋やカリ首を指一本でそろりとなぞる。ときどき亀頭ごと鈴口をぐりりと潰される以外には、強い刺激を与えてもらえない。

 もどかしいほどに終わりの見えない快感に浸るところは、淡い濃度のアナニーに似てると言えなくもないけど……。


 さっき自分でペニスを弄ったときには、こんなに濡れることもなかったし、ここまで滾ることもなかった。アナルを弄ってるわけでもないのに、大悟はどんな魔法を使ってるんだろう。

 最初は、ゆるゆるとぺニスに触れながらおしゃべりをしていただけだった。アナニーグッズの話や、身体が疼いてくるとどうしたくなるのかといった事情聴取紛いのものだったり、大悟のオナニーのおかずについて聞かされたりもした。
 そのせいで、大悟が俺の媚態を想像しながら、あの逞しいぺニスを扱くのかと妄想が膨れあがって、目のやり場に困ってしまった。

 オナニー嫌いの原因も、いつの間にか白状させられていた。それどころか、『オナニーよりアナニーが好きだなんて、男として変だよな?』なんて、訊くつもりもなかったことまで口にしていた。

 聞かなかったことにしてくれと慌てて取り消す俺を尻目に、大悟は『性的嗜好なんて千差万別だ。一般的な大別なんて意味ないよ』と素っ気なく言い放った。ずっと抱えてきた後ろめたさを、大悟にバッサリと切り捨てられて、泣きたくなるほどうれしくなった。堪らなく大悟に感謝のキスがしたくなって、やっぱり困ってしまった。

 大悟は『アナニーをしてるつもりでリラックスして』なんて言ってたけど、そんなことできるわけがないんだ。アナニーだろうがオナニーだろうが、いまのこの状況とは決定的な違いがある。セックスしたいと切望する相手が、すぐ目の前にいるということだ。

 その相手から、遠火でじりじりと炙られていくみたいに緩い快感を延々と与えられるなんて……こんなの、ヘビの生殺し以外の何ものでもない。大悟が直接触れくるペニスだけじゃなく、まったく触れてもいない乳首やアナル、ほかの他愛ない場所までが、チリチリと熱をあげてせつなく疼いていた。


「ああ、ゆきなり。さきが濃いピンクになってきたよ」
 きれいだな、とつぶやいた大悟が、俺のペニスの先端をくるくると撫でまわす。

「やあっああっ」
 指の動きに澱みがない。もうすっかりぬるぬるだ。睾丸まで滴っていた先走りが、たらりと糸を引きながらそこを離れ、とろりと会陰に垂れ落ちたのがわかった。その雫が、さらにゆうるりと伝い落ちていく。辿り着くだろうその先を思うと、あっちでもこっちでも、疼きがいっそうひどくなった。

「ゆきなりは、興奮してくると本当にきれいに染まるよね。目元も、頬も、唇も。耳の先や、乳首まで」
 大悟がそう言いながらそれらの場所を目で追っているのが、目を逸らしていてもわかる。強い視線を受けた箇所が、軽くひりつくから。

「ここの赤いの、なかなか治まらないな。もしかしたら、何日か痕が残るかもな」
 『ここの』というのは、乳首のことだ。興奮して尖っているという点で左右差はなかったが、『舐めて』とねだった果てに嬲られたほうの乳首とその周辺は、放置されて長いのに、いまだに色濃く歯形も健在だった。

「乱暴だったよな。ごめんな。ゆきなりの乳首舐めてるあいだ、俺、嫉妬でわけがわからなくなってたんだ」
「嫉妬?」
 あの流れのどこに嫉妬するような要素があったんだ?
 意外な言葉に、つい大悟の顔を振り返ってしまった。俺の股間に身を伏せ見あげてくる大悟の不満げな表情から、その向こうの広背筋へと目が吸い寄せられる。

 ああ、くそ……この位置じゃ大悟のぺニスは見えないのか。自分ばかりがいいように興奮させられてるんじゃなくて、大悟も興奮してるんだと確認したかった。何よりも、あのきれいで逞しいペニスが見たい。


「ほかの男にも乳首を舐めさせたのかと想像したら……頭が煮えた」
 一瞬、ギリリと鋭くなった大悟の視線にドキリとする。
 確かに、相変わらず大悟以外のセックスは思い出せないけど、こうまで敏感な乳首なんだ。相手に舐めてもらうことも当然あったと思う。でも。

「ここまでされたことはないと思うよ?」
 そう言いながら、大悟の視線を受けてよけいに疼きはじめた赤い乳首を片手で覆った。
 凝った乳首の先が手のひらにツンと当たる。その小さな刺激が、思いのほか尖った痺れをもたらした。乳輪にも手のひらにも広がるそれに、熱い溜め息がこぼれていく。

「ああ、そうだろうと思ってやった」
 鋭い視線はそのまま、満足そうに口元をゆるめた大悟に、手のひらの下の有り様が嫉妬に狂った末の確信犯だったと知って、ふたたびドキリと鼓動が跳ねた。

「俺、たぶん嫉妬深いよ」
 告白とも警告ともつかない大悟の言葉は、『たぶん』どころじゃなく疑いようもない。でも、だからどうした。そんな大悟もひっくるめて大悟だろ。

 それこそたぶん、俺はそんな大悟が好きなんだと思う。玄関先で『ほかの男に渡したくない』と言われたときの、見えない何かで縛られて恍惚としてしまったのがいい証拠だ。いまもほら、大悟の強い視線に射抜かれて、鼓動がどきどきとやけにうるさい。


「ゆきなり。本当に俺の親父とは何ともないんだよな?」
「は? 大悟の親父さん?」
 いきなり何の話だ?
「病院のエレベーターホールで、おかしなこと言ってただろ?」
「あ、あれは、入院したのが大悟だと思ってたんだよ」

 大悟が体調を崩したのは、セックス初心者に抜かずの二発だなんて無理をさせた俺のせいだと思い込むなんて……パニックを引きずりながらだったとはいえ、なんとも恥ずかしい勘違いだった。

「病室でも、親父に色目使ってたよな?」
「なッ、色目なんてっ……あ、いや。あれは、」
 色目を使った覚えなんかなかったけど、そう誤解されても仕方ない心当たりを思い出してしまった。

「『あれは』?」
 あからさまに嫉妬の色を瞳に宿して、大悟がずいっと俺に身を寄せてきた。至近距離から顔を覗き込まれて、胸の奥がきゅうっと甘い音を立てる。

「親父さんと大悟がよく似てたから、数十年後の大悟を想像してたんだよ」
 親父さんのことを渋かっこいいと思ってたことは黙っておいた。けど、隠し事の通じない大悟には、伏せるまでもなく悟られていたらしい。

「もう、ゆきなりに親父は会わせない」
 拗ねたようにそう言われて、胸の奥から甘くて痛い何かがぶわっと湧きあがった。そのまま勢いよく広がって、指先までじんじんと満ちていく。それが気持ちよくて、せつなくて……どうしていいかわからないほどキツかった。


「大悟。好きだよ、だいご。嫉妬深いところも全部、ぜんぶ好き」
 気持ちのままに言葉を吐き出した。
 ああ、大悟を思いきり抱き締めたい。あの長い腕に、苦しくなるほど抱き締められたい。それから、キスして、重なって、繋がって……ああ、もう。ああもうっ、だいごっ。

「ひあっ」
 ふいに、やんだと思っていたペニスへの刺激が再開された。鈴口をぐりくりと親指の腹で刮がれて、途端にとぷりと先走りが溢れていく。さっき会陰を流れていた雫が、その後発の雫に押されて流れて、とうとうそこへ辿り着いてしまった。

 あ、ダメ。ダメだよ、だいご。
 そう口にする前に、頭の隅でカチリと何かのスイッチが入る音を聞いた。
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