親友をセフレにする方法

藍栖 萌菜香

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33-すべてを曝け出すことも必要です。

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 うぅ。なんか、いまさらベッドには戻りにくいな。
 アナル洗浄を済ませたあと、勝手知ったるバスルームで湯にたっぷりと浸かった俺は、寝室のドアの前まで戻っていながら二の足を踏んでいた。

 いつもは、自宅で洗浄を済ませたあとに相手と会うから、盛りあがった気分そのままにベッドへと雪崩れ込めた。いったん盛りあがったのをぶった切って、相手を待たせたまま洗浄するなんて、初めてのことだ。いったい、どんな顔して戻ればいいんだろう?

 湯あがりの格好についても、どうしたものかと馬鹿みたいに悩んだ。
 素っ裸なんて論外だ。腰タオル姿もちょっと心許ない。棚に大悟のガウンを見つけて勝手に拝借してみたものの、まるで『彼シャツ』状態のサイズ差に恥ずかしくなって慌てて脱いだ。

 結局、自分が着てきたシャツに着直したけど、下着とボトムを前にして、また悩む。
 さて、穿くべきか、穿かざるべきか……。

 そこまで考えて急にバカバカしくなり、下半身には何も纏わないまま脱衣所をあとにした。
 大悟は、俺が何をしにサニタリールームへ向かったか知っている。一度全裸になったことを知られてるのに、完全防御するように着込んで戻ったんじゃ、それはそれで恥ずかしいじゃないか。


 それにしても、あの大悟が『シャワ浣』なんて言葉を使うとは。潤滑剤もネット購入したっていうし、本当にその手の情報をネットで漁りまくったんだな。

 できることなら、大悟にはアナル洗浄の具体的な方法は伏せておきたかった。洗浄自体が、ビジュアル的に美しいとは言えないものだ。それをしなきゃならない当人としては、手伝われるなんてもってのほかだし、そのシーンを想像されるのも御免だった。

 いや、頭ではちゃんとわかってる。これは、安全、礼儀、快楽のための必須作業で、アナルセックスを望む限り否定できるものじゃない。わかってはいるんだけど……。
 洗浄しないと繋がれない。それが、いかにも不自然なことに思えて、自分はやっぱり特殊な人種なんだと痛感してしまう。そんな気分を、大悟に共有させたくはない。


 胸の奥のもやもやを小さな溜め息に混ぜて吐き出し、寝室のドアノブに手をかける。いまさらベッドに戻るのが気まずいからって、いつまでもこうしてはいられない。
 このドアを開けて、大悟のところへ行くんだ。行って、それから。

 二の足を踏んでるわりに、このあとのことを考えるだけで、頭が煮えそうだった。つい一昨日に抱かれたばかりの身体は、いくらか落ち着いていてもいいはずなのに、むしろ抱かれた記憶のせいで余計に落ち着きをなくしてる。湯に浸かっているあいだも、大悟に抱かれた夜のことを反芻しては、ひとり身悶えていた。

 そろそろ湯冷めしてもよさそうな頃合いなのに、淫靡な期待に身体が勝手に熱をあげるから、逆にのぼせてしまいそうだった。

 どきどきと走る心臓の鼓動に押されるようにしてドアをそっと開けると、上半身裸の大悟がこちらに背を向けてベッドに腰かけているのが見えた。窓からやわらかく差し込んだ夕日に照らされて、輪郭がぼんやりと光ってる。
 その光景に、いつかの寂しげな茂兄の背中を少しだけ思い出したけど、ふいに振り向いた大悟がふわりと笑うから、寂しい影はすぐになりを潜めた。


「幸成、風呂で温まってきたなら、水分摂っとけよ」
 言うなり、用意しておいてくれたらしいペットボトルを差し出されたおかげで、あれだけ踏みあぐねていた足が自然と前に出た。
 礼を言いながらボトルを受け取り、大悟の隣に腰をかけてから勢いよく水を飲む。火照った身体の中心をするすると水が滑り落ちていくのが気持ちいい。

 でも、そんな気持ちよさは、すぐにわからなくなった。飲んでいる途中で、気づいてしまったからだ。

 大悟が見てる。なんて視線を寄越すんだ。
 ボトルに触れた唇、嚥下する喉のライン、ボタンをふたつ外した襟元まで、撫でるように、舐めるように、視線が往復していくのが見なくてもわかる。
 まだ指のひとつも触れ合っていないのに、とてつもなくやらしいことをされてる気分になってしまった。

 そんなに見られてたんじゃ、飲めなくなるじゃないか。
 大悟の熱い視線から逃れるように少しだけ身体をずらすと、長い腕がぬうっとのびてきてボトルを持っていたほうの手首を掴まれた。

 慌ててボトルから口を離したけど、ほんの数滴間に合わず、唇から顎を伝って喉元へと水が零れてしまう。
 ほとんど空になったボトルをサイドテーブルに戻され、掴まれた手首を引かれるままに大悟へと向き合った。もう大悟の視線から逃れる道もない。


「やっぱり一緒にしたかったな、幸成のシャワ浣」
 いつもの真っ直ぐな視線で俺を捕らえておいて、そんなことを言う。
「おまっ、まだそんなことっ」
 羞恥に尖る俺を宥めるように、喉元に垂れた雫をやさしい親指でそっと拭われた。

「見逃したくないんだ。幸成の全部を知っていたい」
 思ったことをそのまま伝えてくる大悟の言葉は、見栄とかプライドとか、余計な飾りがないぶん赤裸々で聞いてるこっちが面映ゆくなる。まるで、大悟の視線そのものだ。

「だ、だからって、そんなことまで」
 だめだ。あんな姿は、見せられないし、見られたくない。
「幸成の抱えるしんどいことも、苦しい顔もちゃんと知っておきたい。そんな幸成を見れば、たぶん俺もしんどくなるだろうけど、それでもちゃんと全部を知ったうえで、幸成と一緒に耐えたいんだ」

 喉元から顎へと滴りを拭っていた親指が唇に辿り着く。下唇を撫でられて、上唇も拭われた。唇の弾力を確かめるみたいに、何度も何度も繰り返し。


 大悟の言葉は、ゆっくりと頭に沁み込んでいった。大悟は、俺自身も見たくない、隠したいと思ってる暗い陰の奥にも、手を繋いで寄り添いたいと言ってるんだ。

「大悟、」
 うれしい。そんなことを言われてうれしくないわけがない。大悟になら、何を見られても、何を知られても大丈夫だ。親友として、恋人として、ずっと離れずにいられると、心から信じられた。
 さきほどよぎった寂しい影の名残が、淡く霞んで消えていく。

 もはや大悟を押し留める言葉を失ってしまった俺を、大悟がさらに引き寄せた。ふいのことでバランスを崩し、ベッドに座る大悟の膝の上に片足を床についた状態で半ば乗りあがるという変な格好になってまう。でも、片手を引かれたままでは、姿勢を立て直すこともできなかった。

「それに、どんなゆきなりも、きっときれいで可愛いよ」
 俺の頬を撫でながら顔を覗き込んだ大悟が、色っぽく潜めた声でそんなことを言うから、うっかり俺の脳内では、あやしい洗浄プレイが展開されてしまった。
 苦しげに顔を歪めた俺が大悟に縋りつき、「おねがい、もう」と許しを請うている。

 うわっ、いやっ、違うからっ。洗浄なんか慣れてしまえばそんなに苦しくもないし、色っぽくもない。それに、あんな姿を大悟に見られるなんて、どんなに望まれてもやっぱり無理だからっ。


 俺が暴走気味な妄想に混乱をきたしているあいだに、頬にあったはずの大悟の手がおりてきて、俺のシャツの三つ目のボタンをするりと撫でた。
「ゆきなり、脱がせてもいいか? ゆきなりをもっとよく見たい」

 そういえば、この前の夜は、大悟が俺を脱がせようとしたのをやめさせたんだった。確か、勃ってしまった乳首を見られたくなくて。

 このシャツを脱いで、今度こそ、俺のすべてを大悟に見られるのか?
 そう意識した途端、薄い布の下で乳首がきゅっと勃ちあがるのを感じた。
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