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10-覆い被さってくればコッチのものです。

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 大悟が俺を抱き締める。その腕が強くなる。
 うれしい。終わりじゃなかった。
 腰の奥からゆるゆると湧きつづける快感と、先のセックスから連なる期待とともに、大悟を思うさま抱き締めた。

 大悟の匂い。硬い筋肉。アナルを塞ぐ圧迫感。
 もうしばらくは俺のものだと、それらに陶然と酔っていたら、突然視界がグラリと揺れた。

「え? うわっ、なにっ? どうしたっ?」
 慌てて大悟の首に腕を巻きつけ、抱きついた。大悟の力強い腕にキツく抱き返されて、やっと安心できたけど。
 なあ、大悟? なんで急に立ってんの? ペニス嵌まったままなんだけど。

 俺があまりの事態に愕然としているうちに、大悟がソファーを離れて歩き出す。両足が半端にぶらさがり、ゆらゆら揺れた。
「ちょっと待て、大悟っ。は、うぅんっ」
 不安定な脚先が心許なくて大悟の腰に巻きつけたのは、はっきり言って失敗だった。アナルにあったペニスを、みしりと根元まで咥え込んでしまった。


 腰の奥の奥に感じた鈍い突きに、大悟の首に回していた腕から力が抜けて、肘ががくりと伸びる。そのせいで重心が変わり局所が加重されて、アナルのふちが大悟の下生えに強く擦れる。

「ああっ、だいごッ。待ってッ、や、ああッ」
 大悟が足を踏み出すたびに、俺の身体が上下左右にゆさゆさ揺れる。併せて大悟のペニスも、アナルのなかで上下左右に。
 普通のセックスじゃ擦られないような場所まで、ぐりりと強く抉られる。アナルの奥で暴れる亀頭を追うように、太いペニスの根元がぐいぐいと前立腺を押しあげた。

 浅い場所と深い場所。その両方を一度に刺激され、不安定な姿勢も相まってクラクラと視界が揺れる。
「ああッ、だいごっ、やあっ、も、掻き混ぜ、んなぁっ」
 俺が恐慌のなかで悶えていると、背中からそっとベッドに降ろされた。アナルへの恐ろしい刺激はやんだけど、そのときにはもう俺は息絶え絶えで……。


 なんちゅうことをしてくれるんだ、大悟のヤツっ!
 いまのは、俗に言う『駅弁ファック』だ。

 興味本位でやりたがる奴はいるが、挿入側の負担が大きい体力勝負の体位で、数あるセックス体位のなかでもマニアックな部類に入る。
 不安定な姿勢に集中できないせいか、受ける側もあまり気持ちよくはないらしい。
 と、以前茂兄が言ってたが…………あの、うそつき。

 俺のアナルは、暴れ馬の名残を受けて甘く鋭い快感にひくつき、いまだ嵌まったままの大悟のぺニスに、きゅうきゅうと断続的に縋りついている。
 未知の体感に痛いほどに勃起させられた俺のぺニスも同様、射精後だというのに、おびただしい先走りを溢れさせていた。


 大悟のヤツ、『駅弁』だと知っててやったのか? それとも知らずに?
 知っててやったのであれば、これを大悟に教えた犯人を恨んでやりたい。知らないでやったのであれば、無茶をするなと叱ってやる!

 あまりの無体に苛立ちながら、強制的にイカされそうになった暴挙の余波を瞑目してやり過ごしていると、ふいに頬へとぬくもりを感じた。
 目を開けると、大悟の少し心配そうな瞳と出逢う。身を伏せて俺の顔を覗き込んだその姿勢のまま、指の背でそろりと頬を撫でてきた。

 駅弁なんて、大悟が知るわけないか。こんなことになると知っていればしなかったと訴えてくるその瞳を単純にも信じられるほど、その指先にはやさしさが滲んでいる。


 そう言えば、以前もこうして、よく頬を撫でられた。あれも、中学のときだったか。
 必ず頬を抓るのとセットで、抓ったあとに『痛そうだったから』と、その痕を撫でられたんだ。

 当時は、『痛くしてるのはお前だろ?』と、照れ隠しに怒ってみせたけど、本当はちゃんとわかってた。
 俺が、引き攣ったような作り笑いをしてたからだ。

 あの頃の俺は、男友達との他愛ない戯れ合いにひどい緊張を強いられていて、それを誤魔化すため必要以上に笑ってた。貼りついたような作り笑いが元に戻らなくなることもしばしばで、ときには、自分がそんな状態にあることにも気づけないような有り様だった。

 そんなとき、決まって大悟が抓ってくれたんだ。強張る頬の理由には一切触れず、『痛そうだ』と、抓って撫でてくれるだけのやさしさに、俺が何度助けられたか……。

 懐かしい指の背の感触にふたたび目を閉じながら、抓られなくなったのはいつからだっけ、と考える。
 高一の、夏? いや、秋か?
 茂兄に抱かれて、ゲイの自覚を持ってからは、作り笑いをするのも減った。大悟が抓らなくなったのは、そのせいか?


 確かな記憶を辿れないまま大悟を見あげれば、いつもの仏頂面がそこにあった。
 大悟は口数が少ないだけじゃなく、表情も乏しい。たぶん、ずっと自分を圧し殺してきたせいで、思ったことをどう表していいかわからなくなったせいだろう。

 無理もない。母親が出ていった幼稚園の頃から、ずっとだったらしいから。
 中学のとき、俺が辛抱強く聞き出したときも、大悟はずっと無表情だった。父親に強いられた理不尽な要求について、自分がどう思ってるかもよくわかってないみたいだったんだ。

 大悟の無口や無表情は、不器用どころの話じゃない。欠落とか、壊れてるとかって言葉のほうが、もしかしたら正解なのかもしれないけど……。

 それでも、お前が大事だよ、大悟。
 自分で『駅弁』をしておきながら、悶絶した俺を心配するような天然体質でも。心配なのに、かける言葉も見つけられないで、ただ見守ることしかできなくても。
 しょうがないヤツだな。
 出会った中学の頃から、あまり変わってない大悟に思わず小さな笑いが漏れた。


 すると、珍しいことに、大悟の顔色がサッと変わった。
 男らしい真っ直ぐな眉がわずかに歪み、顎に食い縛るような力が入って強張りだす。それから、唯一大悟の感情を映すその瞳が、まるで何かに縋るみたいに陰っていって……なんだかつらそうだ。

「大悟?」
 どうかしたのか? って、聞くつもりだった。だって、そんな顔をされたら気になるじゃないか。俺まで胸が苦しくなってくる。

 なのに、俺が問いかける前に、
「ふ、んっ、ぅんんッ!?」
 大悟がいきなり屈み込んできて、俺の唇をその唇で塞いできた。
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