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05 この先もずっと
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もし、あの場面を盗撮されてたら……。
アレは過去の出来事だ。いまさらなかったことにはできないし、隆志の記憶を消すこともできない。
別にそれはいいんだ。隆志だって当事者なんだから。
でも、アレの写真が残っているとなると、話は変わる。
もし盗撮されてたっていうんなら、母さんたちは知ってたってことになる。この『ひなまつりシリーズ』みたいに、あえて知らないふりをしてたってことになるだろう。
あの春の日の、オレたちのやくそくを。
大人しかしちゃいけないことをした、マセガキたちの秘密を。
もし、そんな恥ずかしい思い出まで、母親たちからずっと気遣われていたのだとしたら……。
だめだ。いますぐこのアルバムを葬りさってしまいたい。
それを、いまここで見ちゃうのか?
母さんも横から覗き込んでる、いまここで?
当の隆志と俺が揃って見てる、いまここでか?
アルバムをめくろうとしてるこの大きな手を、止めるべきだろうか。
いや、それも不自然すぎる。
いったいどうすれば……と、オレが迷っていると。
「けーちゃーん、うちのも持ってきたよー」
と、玄関が開く音とともに、暢気な声がした。隆志の母親だ。
「もー、しーちゃん、おそいぃー」
すかさず母さんが玄関へと飛んでいく。
よかった。これで少しは気が楽になる。
わぁいっぱいだねぇ、という母さんの歓声を耳にしながらアルバムに視線を戻した。すると、玄関の様子に気を取られていた隆志が、中断していた作業をいままさに終えようとしていたところだった。
瞬間、思わず目を瞑る。
いや、だって。
イヤじゃんか。いまになってあのときの場面を目にするなんて。
女もののドレスを着た幼い自分たちが、かつて交わしたやくそくのためにしたことを、母親のファインダー越しで見るんだぞ? 絶対、気まずい雰囲気になるって。
でも、いまそれを見てるだろう隆志は、うんともすんとも言わなかった。むしろ、しみじみとアルバムに見入っている様子だ。
もしかして、アレの写真はなかったのか? 母さんたちにも知られてない?
閉じてしまった目をどうするか悩んでみたけど、俺ひとりが見なかったところで結果は何も変わらない。すでに隆志は見ちゃってるし、盗撮があってもなくても覚えてるんだから気まずくなるときはなるだろう。
それに、気まずくなったところでオレたちなら、きっとほんの一瞬だ。
隠し撮りされていたのかどうかを確かめるなら、母さんが席を外したいましかない。往生際の悪い自分を奮い立たせて、思いきって目を開けた。
そこには、ほかのものより大きめに引き延ばした一枚の写真があった。
春のやわらかな陽が当たるラグの上で、顔を寄せ合い気持ちよさそうに眠っている二人のアップだ。
隣のページには、その場面を引きで撮った写真もある。二人があどけなく投げだした手足の先には、たくさんのトランプや絵本が散らばっていた。
どうやら遊び疲れて寝てしまったところを激写されたらしい。仲良く手を繋いだままで眠る姿は、起こすのが忍びないほど安らかだ。
そういえばあのあと、目が覚めたときにはすでに夕方だった。きっと母親たちもこの寝顔を前に起こすのを断念したに違いない。
その次のページをめくると、写真の背景は隆志の家へと戻っていた。
夕方にずれ込んだおやつタイムのようで、顔をピンクと白のクリームだらけにしたオレや、そんな顔のままケーキの乗ったスプーンを隆志に「あーん」と差し出してるシーンが、これもまた盗撮視点で写されていた。
自分の顔を拭くのが先だろうっていう、これはこれで恥ずかしい写真はあったが、見たところカメラマンは脱走直後のオレたちを追いかけては来なかったらしいな。
助かった。オレがそう胸を撫で下ろしていると、
「なんだ。ないのか」
と、隆志がつぶやいた。
ギョッとして隣を振り返る。
やっぱりコイツ、覚えてるんだ。いや、覚えてるだろうとは思ってたけど、なんだ、その残念そうな口振りは。
まるでアレの盗撮をされたかったような言い方だ。
しかも、敬語じゃなかった。ということは、それが隆志の本心からこぼれた言葉ってことだ。
いつからだったか、隆志は大人にだけじゃなく、俺に対しても敬語を使うようになった。距離を置かれているようでイヤだとか、似合いすぎてて嫌味だとか、敬語をやめるよういろいろ言ったけど聞かなくて、結局はそのまま定着してしまってる。
それでもときどきこうして素が出ることがあるんだ。驚いたり嬉しかったり、感情が強く動いたときに、仮面が剥げるようにポロリと本当の隆志が素顔を見せる。
隆志は、アレの写真が欲しかった?
写真があるってことは盗撮されたってことで、つまりはアレを親に知られてる前提なんだぞ?
お前、それでいいのか?
オレが信じがたい気持ちで隆志を見あげていると、
「ね、ね、しーちゃんにも見せたげてー。君らの最後の女装写真」
と、いつのまにかテーブルについていた母親たちが、オレたちに向かって手を差し出していた。
「女装とか言うな。無理やり着せたくせに」
ひどい言われように文句を垂れながら、母親たちの前にアルバムを置いてやる。
「ちゃんとねー、笑えるくらい男っぽくなったら、さすがにやめようって考えてたのよー。でもあっくんてば、まだまだいけたのにこの写真を最後に、絶対着てくれなくなったじゃない」
年長さんのときも小一のときも、ちゃんと衣装を用意してあったのにぃ、と母さんがぼやいた。
思春期の息子たちに対する配慮なんてのは、もしかしたらオレが見た幻だったのかもしれないな。
っていうか、何歳まで女装を強要する気だったんだよ。まったく。
「ナオ、似合ってましたよね。かわいかったな……」
などといって、アルバムを眺め続けている隆志は、オレら親子のいつものやりとりには関知せず、ひとりで思い出に浸っているようだった。
そんな隆志のつぶやきに、
「まぁ、いまでも違和感なさそうだけどねー」
と、母さんが懲りもせずに暴言をはく。
「いや、それ言っちゃうと……」
機嫌悪くなりますから、とか言いたげな隆志を思いきり睨んでやった。
「隆志も似合ってたぞ、女装。このくらいの頃はオレより小さかったからな。どこをどうしたら、そんなに可愛げなく育つんだ?」
嫌味のつもりで、そう言ってやったら、
「それはほら、遺伝ですよ。うちの父親もこんな感じで、十歳くらいからいきなり大きくなったって言ってましたし」
いい加減諦めてください、みたいに返された。
幼い頃、オレよりも小さかったあのカワイイたーちゃんは、小四くらいからメキメキと背が伸びはじめて、高三の今では大人の男を感じさせる逞しい隆志になってしまった。
学業優秀、スポーツ万能、家事全般までさらりとこなすいまの隆志には、不器用さの欠片も残っていない。敬語の似合う精悍な顔もあいまって、遠巻きにする女子たちの言う通り、かわいいと言うよりは、やっぱりかっこいい部類になるんだろう。
べっつにぃ、いいんだけどさぁ。
ちぇ。ひとりだけ大きくなりやがって。
オレはと言えば、身長も体重も、標準範囲のど真ん中から一向に抜け出せないままだった。
まあ、標準なんだから文句はない。オレはスポーツマンを目指してるわけじゃないからな。本が読めればそれでいい。
ただ、異様にモテる隆志が気に入らないだけなんだよな。
「わあ、やっぱりけーちゃんの写真はいいねぇ」
隆志の母親が、ページを繰りながらうっとりと溜め息をついた。
「でしょでしょ。この写真は特に気に入ってて、おっきく伸ばしてみたのー」
オレの母親と、二人仲良くアルバムを覗き込みながら思い出に浸っている。
この二人は、いくつになっても本当に仲がいい。オレらと同じ、幼馴染で大親友。かれこれ四十年の付き合いだそうだ。
高校までは同じ学校だったらしいが、大学からは別々の道を歩んでいる。生き方もそれぞれ全然違った。
隆志の母親、静子さんは、医者の嫁で、専業主婦で、三児の母だ。
それに対して、オレの母親、敬子は、バツイチで、カメラマンあがりで、いまではティーン向けファッション誌の編集長を務めるシングルマザーだ。
性格も違うし、生活も違うし、目指すものも違う。
なのに四十年だ。素直にスゴいと思う。
「あーもーかわいいっ。ね、ね、しーちゃんのムービーも見ようよ」
今度はテレビの前に陣取って、幼い息子たちの動く女装姿に興じはじめた。
そんな母親たちに呆れつつも、ちょっとだけ羨ましくも思う。
隆志とオレも、こんなふうにずっと一緒にいられるかな……。
この春、大学に進学するオレたちは、進む大学は同じでも見据える将来は別々の道だ。
たとえ違う道を選んでも、ずっと一緒にいられるといい。この二人を見るたびにそう思う。
「あ、」
急に聞こえてきた驚きを含んだ隆志の声に振り返ると、さっきまで母さんたちが座ってた椅子に座り込んで、隆志がアルバムの続きを見ていた。
本当に写真が好きなんだな。自分で撮ってるのは見かけないから、きっと観る専門なんだろう。
半ば微笑ましい気分になってその様子を見ていたら、隆志がやけに熱心に一枚の写真を覗き込んでいることに気がついた。
そういえば、さっき何かに驚いてたな。いったい何を見つけたんだ?
不思議に思ってその手元を見ると、どうやら最後のページらしく、写真が一枚、隅っこに貼られているだけだった。
その写真の中に、人物らしき姿はない。薄いレースのカーテンが三分の一ほどひかれた、空っぽなオレの部屋が写っているだけだった。
これは、隆志の家の窓から撮ったものだ。この角度からすると、おそらく二階のゲストルームからだな。
ゲストルームの下は台所で、その対面にはオレの家のリビングがある。台所の窓はポジションが取りにくいから撮影には不向きだ。
きっと、脱走したオレたちがオレの家のリビングに現れると踏んで、よりポジションの取りやすいゲストルームから狙ってたんだろう。
ん? 脱走したあと?
アレは過去の出来事だ。いまさらなかったことにはできないし、隆志の記憶を消すこともできない。
別にそれはいいんだ。隆志だって当事者なんだから。
でも、アレの写真が残っているとなると、話は変わる。
もし盗撮されてたっていうんなら、母さんたちは知ってたってことになる。この『ひなまつりシリーズ』みたいに、あえて知らないふりをしてたってことになるだろう。
あの春の日の、オレたちのやくそくを。
大人しかしちゃいけないことをした、マセガキたちの秘密を。
もし、そんな恥ずかしい思い出まで、母親たちからずっと気遣われていたのだとしたら……。
だめだ。いますぐこのアルバムを葬りさってしまいたい。
それを、いまここで見ちゃうのか?
母さんも横から覗き込んでる、いまここで?
当の隆志と俺が揃って見てる、いまここでか?
アルバムをめくろうとしてるこの大きな手を、止めるべきだろうか。
いや、それも不自然すぎる。
いったいどうすれば……と、オレが迷っていると。
「けーちゃーん、うちのも持ってきたよー」
と、玄関が開く音とともに、暢気な声がした。隆志の母親だ。
「もー、しーちゃん、おそいぃー」
すかさず母さんが玄関へと飛んでいく。
よかった。これで少しは気が楽になる。
わぁいっぱいだねぇ、という母さんの歓声を耳にしながらアルバムに視線を戻した。すると、玄関の様子に気を取られていた隆志が、中断していた作業をいままさに終えようとしていたところだった。
瞬間、思わず目を瞑る。
いや、だって。
イヤじゃんか。いまになってあのときの場面を目にするなんて。
女もののドレスを着た幼い自分たちが、かつて交わしたやくそくのためにしたことを、母親のファインダー越しで見るんだぞ? 絶対、気まずい雰囲気になるって。
でも、いまそれを見てるだろう隆志は、うんともすんとも言わなかった。むしろ、しみじみとアルバムに見入っている様子だ。
もしかして、アレの写真はなかったのか? 母さんたちにも知られてない?
閉じてしまった目をどうするか悩んでみたけど、俺ひとりが見なかったところで結果は何も変わらない。すでに隆志は見ちゃってるし、盗撮があってもなくても覚えてるんだから気まずくなるときはなるだろう。
それに、気まずくなったところでオレたちなら、きっとほんの一瞬だ。
隠し撮りされていたのかどうかを確かめるなら、母さんが席を外したいましかない。往生際の悪い自分を奮い立たせて、思いきって目を開けた。
そこには、ほかのものより大きめに引き延ばした一枚の写真があった。
春のやわらかな陽が当たるラグの上で、顔を寄せ合い気持ちよさそうに眠っている二人のアップだ。
隣のページには、その場面を引きで撮った写真もある。二人があどけなく投げだした手足の先には、たくさんのトランプや絵本が散らばっていた。
どうやら遊び疲れて寝てしまったところを激写されたらしい。仲良く手を繋いだままで眠る姿は、起こすのが忍びないほど安らかだ。
そういえばあのあと、目が覚めたときにはすでに夕方だった。きっと母親たちもこの寝顔を前に起こすのを断念したに違いない。
その次のページをめくると、写真の背景は隆志の家へと戻っていた。
夕方にずれ込んだおやつタイムのようで、顔をピンクと白のクリームだらけにしたオレや、そんな顔のままケーキの乗ったスプーンを隆志に「あーん」と差し出してるシーンが、これもまた盗撮視点で写されていた。
自分の顔を拭くのが先だろうっていう、これはこれで恥ずかしい写真はあったが、見たところカメラマンは脱走直後のオレたちを追いかけては来なかったらしいな。
助かった。オレがそう胸を撫で下ろしていると、
「なんだ。ないのか」
と、隆志がつぶやいた。
ギョッとして隣を振り返る。
やっぱりコイツ、覚えてるんだ。いや、覚えてるだろうとは思ってたけど、なんだ、その残念そうな口振りは。
まるでアレの盗撮をされたかったような言い方だ。
しかも、敬語じゃなかった。ということは、それが隆志の本心からこぼれた言葉ってことだ。
いつからだったか、隆志は大人にだけじゃなく、俺に対しても敬語を使うようになった。距離を置かれているようでイヤだとか、似合いすぎてて嫌味だとか、敬語をやめるよういろいろ言ったけど聞かなくて、結局はそのまま定着してしまってる。
それでもときどきこうして素が出ることがあるんだ。驚いたり嬉しかったり、感情が強く動いたときに、仮面が剥げるようにポロリと本当の隆志が素顔を見せる。
隆志は、アレの写真が欲しかった?
写真があるってことは盗撮されたってことで、つまりはアレを親に知られてる前提なんだぞ?
お前、それでいいのか?
オレが信じがたい気持ちで隆志を見あげていると、
「ね、ね、しーちゃんにも見せたげてー。君らの最後の女装写真」
と、いつのまにかテーブルについていた母親たちが、オレたちに向かって手を差し出していた。
「女装とか言うな。無理やり着せたくせに」
ひどい言われように文句を垂れながら、母親たちの前にアルバムを置いてやる。
「ちゃんとねー、笑えるくらい男っぽくなったら、さすがにやめようって考えてたのよー。でもあっくんてば、まだまだいけたのにこの写真を最後に、絶対着てくれなくなったじゃない」
年長さんのときも小一のときも、ちゃんと衣装を用意してあったのにぃ、と母さんがぼやいた。
思春期の息子たちに対する配慮なんてのは、もしかしたらオレが見た幻だったのかもしれないな。
っていうか、何歳まで女装を強要する気だったんだよ。まったく。
「ナオ、似合ってましたよね。かわいかったな……」
などといって、アルバムを眺め続けている隆志は、オレら親子のいつものやりとりには関知せず、ひとりで思い出に浸っているようだった。
そんな隆志のつぶやきに、
「まぁ、いまでも違和感なさそうだけどねー」
と、母さんが懲りもせずに暴言をはく。
「いや、それ言っちゃうと……」
機嫌悪くなりますから、とか言いたげな隆志を思いきり睨んでやった。
「隆志も似合ってたぞ、女装。このくらいの頃はオレより小さかったからな。どこをどうしたら、そんなに可愛げなく育つんだ?」
嫌味のつもりで、そう言ってやったら、
「それはほら、遺伝ですよ。うちの父親もこんな感じで、十歳くらいからいきなり大きくなったって言ってましたし」
いい加減諦めてください、みたいに返された。
幼い頃、オレよりも小さかったあのカワイイたーちゃんは、小四くらいからメキメキと背が伸びはじめて、高三の今では大人の男を感じさせる逞しい隆志になってしまった。
学業優秀、スポーツ万能、家事全般までさらりとこなすいまの隆志には、不器用さの欠片も残っていない。敬語の似合う精悍な顔もあいまって、遠巻きにする女子たちの言う通り、かわいいと言うよりは、やっぱりかっこいい部類になるんだろう。
べっつにぃ、いいんだけどさぁ。
ちぇ。ひとりだけ大きくなりやがって。
オレはと言えば、身長も体重も、標準範囲のど真ん中から一向に抜け出せないままだった。
まあ、標準なんだから文句はない。オレはスポーツマンを目指してるわけじゃないからな。本が読めればそれでいい。
ただ、異様にモテる隆志が気に入らないだけなんだよな。
「わあ、やっぱりけーちゃんの写真はいいねぇ」
隆志の母親が、ページを繰りながらうっとりと溜め息をついた。
「でしょでしょ。この写真は特に気に入ってて、おっきく伸ばしてみたのー」
オレの母親と、二人仲良くアルバムを覗き込みながら思い出に浸っている。
この二人は、いくつになっても本当に仲がいい。オレらと同じ、幼馴染で大親友。かれこれ四十年の付き合いだそうだ。
高校までは同じ学校だったらしいが、大学からは別々の道を歩んでいる。生き方もそれぞれ全然違った。
隆志の母親、静子さんは、医者の嫁で、専業主婦で、三児の母だ。
それに対して、オレの母親、敬子は、バツイチで、カメラマンあがりで、いまではティーン向けファッション誌の編集長を務めるシングルマザーだ。
性格も違うし、生活も違うし、目指すものも違う。
なのに四十年だ。素直にスゴいと思う。
「あーもーかわいいっ。ね、ね、しーちゃんのムービーも見ようよ」
今度はテレビの前に陣取って、幼い息子たちの動く女装姿に興じはじめた。
そんな母親たちに呆れつつも、ちょっとだけ羨ましくも思う。
隆志とオレも、こんなふうにずっと一緒にいられるかな……。
この春、大学に進学するオレたちは、進む大学は同じでも見据える将来は別々の道だ。
たとえ違う道を選んでも、ずっと一緒にいられるといい。この二人を見るたびにそう思う。
「あ、」
急に聞こえてきた驚きを含んだ隆志の声に振り返ると、さっきまで母さんたちが座ってた椅子に座り込んで、隆志がアルバムの続きを見ていた。
本当に写真が好きなんだな。自分で撮ってるのは見かけないから、きっと観る専門なんだろう。
半ば微笑ましい気分になってその様子を見ていたら、隆志がやけに熱心に一枚の写真を覗き込んでいることに気がついた。
そういえば、さっき何かに驚いてたな。いったい何を見つけたんだ?
不思議に思ってその手元を見ると、どうやら最後のページらしく、写真が一枚、隅っこに貼られているだけだった。
その写真の中に、人物らしき姿はない。薄いレースのカーテンが三分の一ほどひかれた、空っぽなオレの部屋が写っているだけだった。
これは、隆志の家の窓から撮ったものだ。この角度からすると、おそらく二階のゲストルームからだな。
ゲストルームの下は台所で、その対面にはオレの家のリビングがある。台所の窓はポジションが取りにくいから撮影には不向きだ。
きっと、脱走したオレたちがオレの家のリビングに現れると踏んで、よりポジションの取りやすいゲストルームから狙ってたんだろう。
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