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78-少年人魚の知らなかったこと
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あんまりびっくりして、思わずキングの耳元で叫んでしまった。
咄嗟に耳を遠ざけるようにして、それでも痛そうな顔をしているキングには気の毒だったけど、でも、本当に驚いたんだ。
キングと交尾……本当にできるの?
人魚の里でクリスに迫られた時に少しだけ想像したけど、オス同士じゃ交尾できないと思ってたから……。
「ど、どうやってやるの?」
「え、そこ食いつく?」
抱きついていた腕を緩め、キングの顔を覗き込みながら質問したら、今度はキングの方が驚いたみたいだった。
「え……だ、だめだった?」
もしかして交尾の仕方について質問するなんて、はしたないことだったかな。
そう思ったら、頬がカッと熱くなった。
「いや……まったく。大歓迎だよ……」
柔らかく微笑んでくれたキングにホッとする。なのに、頬の熱だけがなくなってくれない。
「じゃあ、さっさとシャワーを終わらせてしまおう」
そう言いながらキングが僕の腰から片手を外したから、キングが支えやすくなるようにと思って、もう一度キングの首に抱きついた。
でも、びしょ濡れになったTシャツを脱がされかけてキングにおなかを触られたとき、僕はあることを思い出しだんだ。
「そうだ……キング! 目は大丈夫!?」
忘れてた。僕の裸は、キングの目には毒だった。
一瞬、ポカンとしたキングが、苦笑いをしてから教えてくれた。
『目に毒』というのは『見たら欲しくなるから見ない方がいい』という意味だったらしい。
「ほ、欲しくなるの?」
「ああ。すごく欲しくなる。俺にくれるだろ?」
僕にあげられるものなら、キングにはなんだってあげたい。だから躊躇わずに頷いた。
嬉しそうに笑ったキングが、いそいそと僕の頭からTシャツを抜き去っていく。
でも、僕の裸なんて、そんなにイイものだろうか?
その疑問に対する答えは、服を脱いだキングを見たときに少しだけわかった気がした。
ふたりで協力しながらキングのシャツを脱がせたとき、キングは惜しげもなくその裸体を晒した。
キングの腕が動くたび、胸や肩の筋肉が隆起の影を変えていく。
僕はその様を本当にきれいだと見入ってしまったけど、本人はどうとも思ってないみたいだった。
もしかしたら……自分の身体の価値は、自分にはわかりにくいのかもしれない。
キングは僕のことを何度も褒めてくれる。僕にはとてもそうは思えないようなことでも、真剣に伝えてくれる。
自分にそんな価値はないのに……と、たとえ彼の言うことでも、なかなか信じられずにいたけど……。
本人はなんとも思っていないキングの身体を、僕がとてもきれいだと思うのと同じで、キングの目には、欲しくなるほど価値あるものとして僕が映っているのかもしれない。
僕には理解できない価値観だけど、それがキングを僕へと繋いでくれているのなら、それは僕にとっても貴重なものだ。
キングにはそう見える。
そのことだけは信じたいと思った。
シャワーの雫に濡れて光るキングの素肌は艶やかで……とても触り心地がよさそうだった。
でも、手を伸ばして撫でてみる勇気はない。
うずうずしてしまう手に、『目に毒』という意味も少し理解できた。
キングがボトムと下着を足元に脱ぎ捨てたときには、なぜだか慌てて目を逸らしてしまった。
僕のとは少し違ってた……。
でも、どこがどう違うのか、もう一度確かめる勇気もやっぱりない。
ドキドキだけがどんどん激しくなっていく。
堪らずに抱きつくと、なにも纏っていない互いの身体がぴたりと合わさった。
そのあいだを天井から降るシャワーの雫が伝い落ちていく。
それが少しくすぐったい。水をくすぐったいだなんて感じたのは初めてだった。
キングの自由な方の手が、短くなった僕の髪を梳いていく。
やっぱりキングの手は気持ちいい。大きな手で受けたお湯を地肌に押しつけられるのが特に気に入った。
自分からも喉を反らして、キングの手に頭を押しつけた。
顔に浴びるシャワーもいい。きゅうっとしていた気持ちがふわっとなって、ドキドキも少し収まった。
水の流れと、キングの手と、キングの……僕の好きなもの尽くしでうれしくなる。
「海水をざっと流すだけでいいかな? シャンプーやボディーソープがベリルの鱗にかかっても大丈夫なのか、不安なんだけど」
「……うん、それでいい……」
ふわふわといい気分の中からぼんやり答えると、キングが顔を覗き込んできた。
「あれ……ベリル、ひょっとしてのぼせたのか?」
「ううん、気持ちいいだけ……」
頬の熱はまだ去らないけど、それも別にイヤじゃない。
まだ平気なのに、キングがすばやくシャワーを止めた。
「ちょっと待ってろ。すぐ涼しくなるからな」
キングが心配してる。僕は大丈夫なのに。
バスルームのドアを開けたキングが、僕を首からぶらさげたまま手を伸ばす。
なにをするのかと思ったら、ドアの正面にあったストッカーからバスタオルを取り出してきた。
すぐさまバスタオルで上半身を包み込まれた僕は、ふたりのあいだを伝い落ちていた雫がなくなって、ちょっと物足りなくなる。
ほどなくして僕の尻尾は人間の足に戻ったけど、キングから離れるのはもったいない気がして、抱きついた腕は解かなかった。
そんな僕がさらに心配になったのか、キングは僕を抱き上げてベッドまで運んでくれた。
ベッドなんていつ用意したんだろう。船に乗ったときはたしかソファーの形をしてたのに。
さらりとしたシーツは冷たくて、火照った頬には心地よかった。
でも、それよりも。
「ね、キング、どうやるの? 教えて?」
交尾できるんだ、ということが頭から離れない。気になって仕方がない。一瞬でも早く知りたくて堪らなかった。
「……大丈夫か? まだのぼせてるみたいだけど」
身体を捻って、ベッド横の小さな冷蔵庫から水の入ったボトルを取ったキングに不満だった。
離れてほしくなくて腕を解かなかったのに、僕の腕をするりと抜け出すなんてズルいと思う。
でも、すぐに僕を抱き起して、デッキでしてくれたみたいに背中から抱き直してくれたから……やっぱりキングが好きだ。
口元に差し出されたボトルから素直に水を飲んだ。
飲み込んだ冷たい水が、胸の真ん中を滑り落ちていくのがよくわかる。きっと身体が火照っているせいだろう。
水が美味しい。美味しいよ。
でも、そんなことより……。
「ねえ、キング……」
「ベリル……もしかして、発情してるのか?」
咄嗟に耳を遠ざけるようにして、それでも痛そうな顔をしているキングには気の毒だったけど、でも、本当に驚いたんだ。
キングと交尾……本当にできるの?
人魚の里でクリスに迫られた時に少しだけ想像したけど、オス同士じゃ交尾できないと思ってたから……。
「ど、どうやってやるの?」
「え、そこ食いつく?」
抱きついていた腕を緩め、キングの顔を覗き込みながら質問したら、今度はキングの方が驚いたみたいだった。
「え……だ、だめだった?」
もしかして交尾の仕方について質問するなんて、はしたないことだったかな。
そう思ったら、頬がカッと熱くなった。
「いや……まったく。大歓迎だよ……」
柔らかく微笑んでくれたキングにホッとする。なのに、頬の熱だけがなくなってくれない。
「じゃあ、さっさとシャワーを終わらせてしまおう」
そう言いながらキングが僕の腰から片手を外したから、キングが支えやすくなるようにと思って、もう一度キングの首に抱きついた。
でも、びしょ濡れになったTシャツを脱がされかけてキングにおなかを触られたとき、僕はあることを思い出しだんだ。
「そうだ……キング! 目は大丈夫!?」
忘れてた。僕の裸は、キングの目には毒だった。
一瞬、ポカンとしたキングが、苦笑いをしてから教えてくれた。
『目に毒』というのは『見たら欲しくなるから見ない方がいい』という意味だったらしい。
「ほ、欲しくなるの?」
「ああ。すごく欲しくなる。俺にくれるだろ?」
僕にあげられるものなら、キングにはなんだってあげたい。だから躊躇わずに頷いた。
嬉しそうに笑ったキングが、いそいそと僕の頭からTシャツを抜き去っていく。
でも、僕の裸なんて、そんなにイイものだろうか?
その疑問に対する答えは、服を脱いだキングを見たときに少しだけわかった気がした。
ふたりで協力しながらキングのシャツを脱がせたとき、キングは惜しげもなくその裸体を晒した。
キングの腕が動くたび、胸や肩の筋肉が隆起の影を変えていく。
僕はその様を本当にきれいだと見入ってしまったけど、本人はどうとも思ってないみたいだった。
もしかしたら……自分の身体の価値は、自分にはわかりにくいのかもしれない。
キングは僕のことを何度も褒めてくれる。僕にはとてもそうは思えないようなことでも、真剣に伝えてくれる。
自分にそんな価値はないのに……と、たとえ彼の言うことでも、なかなか信じられずにいたけど……。
本人はなんとも思っていないキングの身体を、僕がとてもきれいだと思うのと同じで、キングの目には、欲しくなるほど価値あるものとして僕が映っているのかもしれない。
僕には理解できない価値観だけど、それがキングを僕へと繋いでくれているのなら、それは僕にとっても貴重なものだ。
キングにはそう見える。
そのことだけは信じたいと思った。
シャワーの雫に濡れて光るキングの素肌は艶やかで……とても触り心地がよさそうだった。
でも、手を伸ばして撫でてみる勇気はない。
うずうずしてしまう手に、『目に毒』という意味も少し理解できた。
キングがボトムと下着を足元に脱ぎ捨てたときには、なぜだか慌てて目を逸らしてしまった。
僕のとは少し違ってた……。
でも、どこがどう違うのか、もう一度確かめる勇気もやっぱりない。
ドキドキだけがどんどん激しくなっていく。
堪らずに抱きつくと、なにも纏っていない互いの身体がぴたりと合わさった。
そのあいだを天井から降るシャワーの雫が伝い落ちていく。
それが少しくすぐったい。水をくすぐったいだなんて感じたのは初めてだった。
キングの自由な方の手が、短くなった僕の髪を梳いていく。
やっぱりキングの手は気持ちいい。大きな手で受けたお湯を地肌に押しつけられるのが特に気に入った。
自分からも喉を反らして、キングの手に頭を押しつけた。
顔に浴びるシャワーもいい。きゅうっとしていた気持ちがふわっとなって、ドキドキも少し収まった。
水の流れと、キングの手と、キングの……僕の好きなもの尽くしでうれしくなる。
「海水をざっと流すだけでいいかな? シャンプーやボディーソープがベリルの鱗にかかっても大丈夫なのか、不安なんだけど」
「……うん、それでいい……」
ふわふわといい気分の中からぼんやり答えると、キングが顔を覗き込んできた。
「あれ……ベリル、ひょっとしてのぼせたのか?」
「ううん、気持ちいいだけ……」
頬の熱はまだ去らないけど、それも別にイヤじゃない。
まだ平気なのに、キングがすばやくシャワーを止めた。
「ちょっと待ってろ。すぐ涼しくなるからな」
キングが心配してる。僕は大丈夫なのに。
バスルームのドアを開けたキングが、僕を首からぶらさげたまま手を伸ばす。
なにをするのかと思ったら、ドアの正面にあったストッカーからバスタオルを取り出してきた。
すぐさまバスタオルで上半身を包み込まれた僕は、ふたりのあいだを伝い落ちていた雫がなくなって、ちょっと物足りなくなる。
ほどなくして僕の尻尾は人間の足に戻ったけど、キングから離れるのはもったいない気がして、抱きついた腕は解かなかった。
そんな僕がさらに心配になったのか、キングは僕を抱き上げてベッドまで運んでくれた。
ベッドなんていつ用意したんだろう。船に乗ったときはたしかソファーの形をしてたのに。
さらりとしたシーツは冷たくて、火照った頬には心地よかった。
でも、それよりも。
「ね、キング、どうやるの? 教えて?」
交尾できるんだ、ということが頭から離れない。気になって仕方がない。一瞬でも早く知りたくて堪らなかった。
「……大丈夫か? まだのぼせてるみたいだけど」
身体を捻って、ベッド横の小さな冷蔵庫から水の入ったボトルを取ったキングに不満だった。
離れてほしくなくて腕を解かなかったのに、僕の腕をするりと抜け出すなんてズルいと思う。
でも、すぐに僕を抱き起して、デッキでしてくれたみたいに背中から抱き直してくれたから……やっぱりキングが好きだ。
口元に差し出されたボトルから素直に水を飲んだ。
飲み込んだ冷たい水が、胸の真ん中を滑り落ちていくのがよくわかる。きっと身体が火照っているせいだろう。
水が美味しい。美味しいよ。
でも、そんなことより……。
「ねえ、キング……」
「ベリル……もしかして、発情してるのか?」
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