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25-少年人魚の秘密
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……ヤバかった。
本当に、どうなるかと思った。
バスタブに転がったままの姿勢で、僕を気にかけてくれるキングをなんとか追い払ったあと……。
コレ……どうしよう?
僕は、バスタブからはみ出す尻尾の先を見つめながら、途方に暮れていた。
人魚のままでは浴室から出ていけないし、ずっと浴室に籠っていることも当然できない。
なかなか出てこないとなれば、やさしいキングのことだ。
きっとまた僕の様子を見に来るだろう。
銀色に輝くこの尻尾を、もう一度人間の足に……果たして、そんなことができるんだろうか?
おばあさまにもらった薬はもうない。
人魚に戻ってしまった原因もわからない。
あれこれ考えてみたけど、薬や魔術の知識がない僕にはどうしようもなかった。
とりあえず……シャワーを止めなくちゃ。
バスタブの中でなんとか向きを変え蛇口を捻ると、バスタブの中で上を向いて噴き出していたシャワーが、やっととまった。
バスタブに溜まってたお湯も、少しずつなくなっていく。
さて、次はどうしよう?
なんて考えていると……まだなにもしていないのに、僕の下半身は、人魚の尻尾から人間の足へと勝手に戻っていった。
それは、とても不思議な光景だった。
銀色の鱗は見る見る間に薄くなって、艶々と輝く人間の素肌になった。
下腹にある腹びれと腰の下にある背びれは、どんどん小さくなって、そのうち消えてなくなった。
それとほぼ同時に、尾びれの先から少しずつ……足先、脛、膝と、順に人間の足へと変貌していく。
最後に、下腹部にあった排泄腔が股を挟んで縦長に伸び、人間の、おしっこの出るあの器官と、お尻の方にあった孔になった。
すごい……。
人間になるときって、こんな風になるんだ。
初めて人間になったときは眠っちゃってたから、どうやって自分が人間に変身したのか、まったく知らなかった。
バスタブの中でそっと立ちあがり、自分の足を確認する。
ちゃんと動くし痛くもない。
どうして人魚に戻ってしまったのか。
それから、どうしてもう一度人間になれたのか……。
よくわからないいけど、とにかく助かった。
これで浴室から出ていける。
さっきキングは、驚くほどの速さで駆けつけてくれた。
困ったら呼ぶと言った僕のお願い通り、ちゃんとそばで待機していてくれたんだ。
音が大きかったせいでかなり心配をかけてしまったから、早く出て、キングを安心させてあげないと。
でも、シャワーの試練はまだクリアできたとは言えない。
さっさと終わらしてしまおうと、蛇口を捻ったら……。
また人魚に戻ってしまった。
なんでっ!?
咄嗟に手をついたから、今度は大きな音を立てずに済んだけど、どうしてまたこんなことに?
戸惑いながらシャワーを止めたら、またまた人間へ……。
そうして、僕の身体はシャワーの蛇口を捻るたび変身を繰り返した。
どうやら……下半身にかかる水の量が多いと、人間から人魚に戻ってしまうらしい。
少しの水なら、人魚にならずにいられるようだ。
そういえば、おばあさまが『なにかの不具合があるかもしれない』と言っていた。
それって、もしかしたらこのことだったのかも……。
この不具合が人前で起こらないで済んだのは、本当に運がよかった。
これからは、水には十分気をつける必要がある。
かかる水の量を調整しながら、やっとのことで身体を洗い終えた。
苦労しながらなんとか服も着て、洗面スペースへと戻ると、服を取るときにはいなかったルークが壁にへばりつくようにして立っていた。
「やあ、ルーク。こんなところでどうしたの?」
ルークのそばにしゃがんで彼の顔を覗き込むと、海で会ったときみたいに、にっこりと笑ってくれる。
ルークの瞳はキングのそれよりも明るい空色をしているけど、笑ったときの目の形がそっくりだ。
キングと同じかわいい笑顔に、僕もつられて笑顔になった。
手を差し出され、ねだられるままに抱きあげると、やっぱりぷよぷよしてて柔らかい。
少し重いけど、海の中を自在に泳いでいたせいか力だけはあるみたいで、ルークくらいなら楽に抱えることができる。
頭のタオルが気になるのか、ルークが僕によじ登ろうとするのをやんわり宥めていると、部屋へと続く扉の隙間からメアリーの声が聞こえてきた。
「人魚に人生狂わされてないで、ちゃんとしたパートナーと人生送ってよ。頼むからさ」
ギクリと、大きく身体が揺れた。
まず、『人魚』という単語が。
それから、そのあとに続いた『人生狂わされて』という言葉が脳裏にこびりつく。
人魚に人生を狂わされるって……どういう意味?
本当に、どうなるかと思った。
バスタブに転がったままの姿勢で、僕を気にかけてくれるキングをなんとか追い払ったあと……。
コレ……どうしよう?
僕は、バスタブからはみ出す尻尾の先を見つめながら、途方に暮れていた。
人魚のままでは浴室から出ていけないし、ずっと浴室に籠っていることも当然できない。
なかなか出てこないとなれば、やさしいキングのことだ。
きっとまた僕の様子を見に来るだろう。
銀色に輝くこの尻尾を、もう一度人間の足に……果たして、そんなことができるんだろうか?
おばあさまにもらった薬はもうない。
人魚に戻ってしまった原因もわからない。
あれこれ考えてみたけど、薬や魔術の知識がない僕にはどうしようもなかった。
とりあえず……シャワーを止めなくちゃ。
バスタブの中でなんとか向きを変え蛇口を捻ると、バスタブの中で上を向いて噴き出していたシャワーが、やっととまった。
バスタブに溜まってたお湯も、少しずつなくなっていく。
さて、次はどうしよう?
なんて考えていると……まだなにもしていないのに、僕の下半身は、人魚の尻尾から人間の足へと勝手に戻っていった。
それは、とても不思議な光景だった。
銀色の鱗は見る見る間に薄くなって、艶々と輝く人間の素肌になった。
下腹にある腹びれと腰の下にある背びれは、どんどん小さくなって、そのうち消えてなくなった。
それとほぼ同時に、尾びれの先から少しずつ……足先、脛、膝と、順に人間の足へと変貌していく。
最後に、下腹部にあった排泄腔が股を挟んで縦長に伸び、人間の、おしっこの出るあの器官と、お尻の方にあった孔になった。
すごい……。
人間になるときって、こんな風になるんだ。
初めて人間になったときは眠っちゃってたから、どうやって自分が人間に変身したのか、まったく知らなかった。
バスタブの中でそっと立ちあがり、自分の足を確認する。
ちゃんと動くし痛くもない。
どうして人魚に戻ってしまったのか。
それから、どうしてもう一度人間になれたのか……。
よくわからないいけど、とにかく助かった。
これで浴室から出ていける。
さっきキングは、驚くほどの速さで駆けつけてくれた。
困ったら呼ぶと言った僕のお願い通り、ちゃんとそばで待機していてくれたんだ。
音が大きかったせいでかなり心配をかけてしまったから、早く出て、キングを安心させてあげないと。
でも、シャワーの試練はまだクリアできたとは言えない。
さっさと終わらしてしまおうと、蛇口を捻ったら……。
また人魚に戻ってしまった。
なんでっ!?
咄嗟に手をついたから、今度は大きな音を立てずに済んだけど、どうしてまたこんなことに?
戸惑いながらシャワーを止めたら、またまた人間へ……。
そうして、僕の身体はシャワーの蛇口を捻るたび変身を繰り返した。
どうやら……下半身にかかる水の量が多いと、人間から人魚に戻ってしまうらしい。
少しの水なら、人魚にならずにいられるようだ。
そういえば、おばあさまが『なにかの不具合があるかもしれない』と言っていた。
それって、もしかしたらこのことだったのかも……。
この不具合が人前で起こらないで済んだのは、本当に運がよかった。
これからは、水には十分気をつける必要がある。
かかる水の量を調整しながら、やっとのことで身体を洗い終えた。
苦労しながらなんとか服も着て、洗面スペースへと戻ると、服を取るときにはいなかったルークが壁にへばりつくようにして立っていた。
「やあ、ルーク。こんなところでどうしたの?」
ルークのそばにしゃがんで彼の顔を覗き込むと、海で会ったときみたいに、にっこりと笑ってくれる。
ルークの瞳はキングのそれよりも明るい空色をしているけど、笑ったときの目の形がそっくりだ。
キングと同じかわいい笑顔に、僕もつられて笑顔になった。
手を差し出され、ねだられるままに抱きあげると、やっぱりぷよぷよしてて柔らかい。
少し重いけど、海の中を自在に泳いでいたせいか力だけはあるみたいで、ルークくらいなら楽に抱えることができる。
頭のタオルが気になるのか、ルークが僕によじ登ろうとするのをやんわり宥めていると、部屋へと続く扉の隙間からメアリーの声が聞こえてきた。
「人魚に人生狂わされてないで、ちゃんとしたパートナーと人生送ってよ。頼むからさ」
ギクリと、大きく身体が揺れた。
まず、『人魚』という単語が。
それから、そのあとに続いた『人生狂わされて』という言葉が脳裏にこびりつく。
人魚に人生を狂わされるって……どういう意味?
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