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24-彼の隠しきれない想い
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アレコレ考えを巡らせてみたけど、どれがベリルを警戒させている根源なのか、的を絞ることができなかった。
…………思い当たる節がありすぎだ。
メアリーの言っていた『挙動不審な態度』という言葉にも、やっと合点がいった。
以後、しっかり改めねば。
「あら、ベリルは?」
開け放していた部屋のドアをノックして、ルークを抱いたメアリーが部屋へ入ってきた。
ベリルの部屋として用意したのは、二階のゲストルームだ。
メアリーが使っている部屋のつぎに大きい。
ベッドとデスク、チェストにクローゼット、ユニットバスにミニキッチン、加えてソファーコーナーもついている。
左隣が子ども部屋、その向こうにメアリーの部屋。
右側にリネン庫や収納庫を挟んで、その奥には俺のベッドルームがあった。
ここなら、ベリルが困ったときは、いつでも誰かが対処してやれる。
「ベリルならシャワー中だ。で、どうだった?」
メアリーには寝起きで機嫌の悪かったルークの気晴らしを兼ねて、警察へ行ってもらっていた。
もちろん、ベリルの捜索願が出ているかどうかの確認のためだ。
ソファに座ったメアリーの膝から、ルークが足も届かないのに降りようとしている。
母親の膝にうつ伏せて足をジタバタさせる姿はいつもなら笑いを誘うが、いまはそんな気分にはなれなかった。
「捜索願いは出てなかったわ。海上保安にも問い合わせてもらったけど、ベリルが関わっていそうな事故もナシ」
そう言ったメアリーは、ついに膝からおりたルークをもう一度膝に引き上げた。
「ベリルの写真を置いてきたから、なにか情報が入れば連絡が来るはずよ」
ということは、いまのところベリルの身元に繋がる情報はひとつもないということだ。
俺は、その報告を聞いて秘かに胸を撫でおろし、直後にまた自己嫌悪に陥った。
記憶を失くして不安にならない人間なんていない。
自分を探してくれてる人がいたとわかれば、それだけで心強いじゃないか。
いくらベリルが連れ去られるような事態が先延ばしになったからって、ベリルの家族に繋がる情報がなかったことを喜んでどうする。
……俺は最低だ。
あまりに身勝手な自分に、地の底までめり込んでしまいそうなくらい気が重たくなった。
「はぁ……まさかあんたが男に転ぶとはね~」
メアリーの妙に感心したような声にドキリとする。
「な、なにを……」
「隠そうったってムダよ。態度でバレバレなんだから」
また態度!? 俺そんなに!?
「ベリルが好きなんでしょ?」
……メアリーはいつもそうだ。
迷いなく斬り込んでくる。
きっと自分の人生もそうやって迷いなく勝ち取ってきたに違いない。
ぐずぐずと悩みながら、やっと動く俺とは正反対だ。羨ましいことこの上ない。
隠しても無駄なら素直に白状するしかないが……。
「……たぶん」
それでも、まるで曾祖父が体験したような突然のロマンスが自分の身に起きたとは信じきれずに、俺の返事は自然と濁った。
メアリーから、「『たぶん』だなんて、往生際が悪いわね!」と、苛立たしげな呆れ声が飛んでくる。
自覚がある分だけ、突き刺さるものがあった。
思わず視線を落とした俺に、メアリーは『しょうがないわね』とでも言いたげな溜め息をつく。
「まぁ、いいんじゃないの? ベリルはいい子だし。あんたみたいな絶賛売り出し中の高級物件が、老いぼれた廃屋と化してるよりはね」
「ひどいな、老いぼれって……」
「本当のことじゃない。それに比べたら、たとえ男の子でも誰かを好きになった方が断然いいわよ」
相変わらず口が悪い。
まあ、メアリーらしいって言えばそれまでだけど。
「人魚に人生狂わされてないで、ちゃんとしたパートナーと人生送ってよ。頼むからさ」
その言葉は重かった。
曾祖父と祖父が家族に負わせた負担の大きさと、彼らの叶えることのできない夢への悲哀……。
それらを踏まえた上で、メアリーは姉として弟の俺を気に掛けているんだ。
「メアリー……」
口は悪いけど、本当は家族思いのいい姉だと改めて思う。
ときどきは、この上なく腹立たしくもなるけど、こんな姉に恵まれた俺はきっとラッキーなんだろうな。
そんなことを思いながら俺がしんみりしていると、メアリーが急にきょろきょろと辺りを見回しはじめた。
「ねえ、キング。ルーク、知らない?」
言われて初めて気がついた。
ルークの姿が見えない。
しまった……二度と目を離さないと誓ったばかりなのに。
つい昨日のことを思い出して、鳩尾がヒヤリと冷える。
部屋のドアはメアリーが入ってきたときに閉めたから、この部屋にいることは確かなんだが。
あいつ……どこ行った?
ルークの姿を求めて俺がソファから立ち上がったとき、背後から「だあー」とご機嫌な声が聞こえてきた。
…………思い当たる節がありすぎだ。
メアリーの言っていた『挙動不審な態度』という言葉にも、やっと合点がいった。
以後、しっかり改めねば。
「あら、ベリルは?」
開け放していた部屋のドアをノックして、ルークを抱いたメアリーが部屋へ入ってきた。
ベリルの部屋として用意したのは、二階のゲストルームだ。
メアリーが使っている部屋のつぎに大きい。
ベッドとデスク、チェストにクローゼット、ユニットバスにミニキッチン、加えてソファーコーナーもついている。
左隣が子ども部屋、その向こうにメアリーの部屋。
右側にリネン庫や収納庫を挟んで、その奥には俺のベッドルームがあった。
ここなら、ベリルが困ったときは、いつでも誰かが対処してやれる。
「ベリルならシャワー中だ。で、どうだった?」
メアリーには寝起きで機嫌の悪かったルークの気晴らしを兼ねて、警察へ行ってもらっていた。
もちろん、ベリルの捜索願が出ているかどうかの確認のためだ。
ソファに座ったメアリーの膝から、ルークが足も届かないのに降りようとしている。
母親の膝にうつ伏せて足をジタバタさせる姿はいつもなら笑いを誘うが、いまはそんな気分にはなれなかった。
「捜索願いは出てなかったわ。海上保安にも問い合わせてもらったけど、ベリルが関わっていそうな事故もナシ」
そう言ったメアリーは、ついに膝からおりたルークをもう一度膝に引き上げた。
「ベリルの写真を置いてきたから、なにか情報が入れば連絡が来るはずよ」
ということは、いまのところベリルの身元に繋がる情報はひとつもないということだ。
俺は、その報告を聞いて秘かに胸を撫でおろし、直後にまた自己嫌悪に陥った。
記憶を失くして不安にならない人間なんていない。
自分を探してくれてる人がいたとわかれば、それだけで心強いじゃないか。
いくらベリルが連れ去られるような事態が先延ばしになったからって、ベリルの家族に繋がる情報がなかったことを喜んでどうする。
……俺は最低だ。
あまりに身勝手な自分に、地の底までめり込んでしまいそうなくらい気が重たくなった。
「はぁ……まさかあんたが男に転ぶとはね~」
メアリーの妙に感心したような声にドキリとする。
「な、なにを……」
「隠そうったってムダよ。態度でバレバレなんだから」
また態度!? 俺そんなに!?
「ベリルが好きなんでしょ?」
……メアリーはいつもそうだ。
迷いなく斬り込んでくる。
きっと自分の人生もそうやって迷いなく勝ち取ってきたに違いない。
ぐずぐずと悩みながら、やっと動く俺とは正反対だ。羨ましいことこの上ない。
隠しても無駄なら素直に白状するしかないが……。
「……たぶん」
それでも、まるで曾祖父が体験したような突然のロマンスが自分の身に起きたとは信じきれずに、俺の返事は自然と濁った。
メアリーから、「『たぶん』だなんて、往生際が悪いわね!」と、苛立たしげな呆れ声が飛んでくる。
自覚がある分だけ、突き刺さるものがあった。
思わず視線を落とした俺に、メアリーは『しょうがないわね』とでも言いたげな溜め息をつく。
「まぁ、いいんじゃないの? ベリルはいい子だし。あんたみたいな絶賛売り出し中の高級物件が、老いぼれた廃屋と化してるよりはね」
「ひどいな、老いぼれって……」
「本当のことじゃない。それに比べたら、たとえ男の子でも誰かを好きになった方が断然いいわよ」
相変わらず口が悪い。
まあ、メアリーらしいって言えばそれまでだけど。
「人魚に人生狂わされてないで、ちゃんとしたパートナーと人生送ってよ。頼むからさ」
その言葉は重かった。
曾祖父と祖父が家族に負わせた負担の大きさと、彼らの叶えることのできない夢への悲哀……。
それらを踏まえた上で、メアリーは姉として弟の俺を気に掛けているんだ。
「メアリー……」
口は悪いけど、本当は家族思いのいい姉だと改めて思う。
ときどきは、この上なく腹立たしくもなるけど、こんな姉に恵まれた俺はきっとラッキーなんだろうな。
そんなことを思いながら俺がしんみりしていると、メアリーが急にきょろきょろと辺りを見回しはじめた。
「ねえ、キング。ルーク、知らない?」
言われて初めて気がついた。
ルークの姿が見えない。
しまった……二度と目を離さないと誓ったばかりなのに。
つい昨日のことを思い出して、鳩尾がヒヤリと冷える。
部屋のドアはメアリーが入ってきたときに閉めたから、この部屋にいることは確かなんだが。
あいつ……どこ行った?
ルークの姿を求めて俺がソファから立ち上がったとき、背後から「だあー」とご機嫌な声が聞こえてきた。
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