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第三部 変貌
#03-02.論理 *
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ひとは、生まれながらに人間を差別する生き物である。
そうわたしが実感するに至ったのはつまり、わたしが生まれながらに美貌を兼ねそろえた人物だからである。父に似たこの顔を、……嫌悪していた。
『彼』に会うまでは。
彼は、父親と生き写しだった。見た瞬間、誰なのかが分かった。誰がどう見ても成岡雅哉の息子……あの二人を知る人間なら誰しもがそう断言するに違いない。
ときに、女に対する人間の反応は、どれもが残酷だ。醜く生まれれば女は愛されることを知らずに生きる羽目となり、他方、美しく生まれれば妬みや嫉みを買いやすく……、なる。
周りがちやほやしてくれるものだからわたしはそれに甘んじ、女王蜂のように、調子に乗って日々を過ごしていた。その一方で、父親と母親に対する酷い劣等コンプレックスを抱えてきた。この美貌があるからこそ、周りはもてはやしてくれるのに、この美貌こそが、わたしを悩ませた。
うちの家庭は空虚なもので。世間体を重んじる両親は、学校行事には張り切って顔を出すものの、終われば父はどこかに消え、粘着質の母だけが残った。まさちゃん、あなたどうして一等賞が取れなかったの? もうすこし頑張れたでしょう? ……母は、わたしに、常に、百点満点を期待した。それは昔っからで。九十五点を取れたことを喜ぶのではなく、取りこぼしの五点のことをいつまでもぐちぐち言う……一言でいえば『重い』女であった。父が、家庭の外に逃げ場を求めたのが分かる気がする。それでも、この状況を放置して他の女に逃げた罪を、正当化は出来ないが。わたしは当事者である。
「お母さん、昔っから母には、『おねえちゃんなんだから』とばかり……言われて。だから、まさちゃんにはそれ言わないって決めているの」あるとき、何気なく母が言った台詞。わたしはすかさず疑問を口にした。「……お母さんに、妹なんているの?」
「だからね、……従妹よ従妹。実家の近所に、……いたのよ」
釈然としないものを感じたものの、わたしは疑問を押し殺した。母を怒らせると後が――怖い。飯抜きの刑、一晩お仕置き部屋の刑、スマホ没収の刑、さぁ今回はいったいどれを選ぶのだろう?
母の論理は、妹とわたしを平等に扱うところに行き着いたものの、自己を投影することを拒否するところまでは至らなかったようだ。よってわたしは、ことあるごとに……いや、なくとも、なにかにつけて母に命令される日々を過ごしていた。お母さん大変なんだからこれ手伝って……宿題やって……ほら部屋散らかしてないで片づけて……あなたたちいつまでテレビ見てるのもう寝なさい……わたしと母の間に成り立つ会話とは常に、母が命ずる、或いは欠点を指摘する……一方向の命令や指摘、それに対するレスポンスだけで成立していて、よってわたしは「はい」と答える機械と化した。一時期、反抗した時期もあるが、母は、わたしたちに罰を与えるので、メリットを感じられずやめた。
そこには、なんの基本的人権もなかった。子育てという着ぐるみに隠された精神的虐待があった。わたしがそれを知るに至ったのは、単に――フィクションの世界に逃げ場を求めて、本を貪り読んだから。わたしの言葉遣いが同じ年の子とちょっと違うのは、わたしが活字から情報を得たことに――他ならない。本ばかり読んでいるとこういう言葉遣いになる。そういう女の子をわたしは同級生でひとり知っている。いまどき眼鏡でおさげで冴えない――女の子だけれど。
要するに、母は、自分の思い通りになる人形が欲しかったのだと思う。常に百点満点を取り、周りに笑顔を振りまき、親に反抗などすることのない、健やかな女の子……理想論だとわたしは一笑に付す。そんな子――そんな都合のいい娘が、この世に存在してたまるか。
反抗期を迎えたばかりの妹のほうは、母に反発することもあり、よって母はますますわたしに依存した。どこに誰と行ったかを事細かに報告せねば切れることもあったし――手をあげることも多々。妹はこの状況に怯えて、ますます殻に閉じこもった。この状況に対し、相変わらず父は無関心を貫いた。自分のせいで――自分が家庭を顧みぬせいで、妻が、娘が、どんな状況に置かれているのか――知るつもりがないのか、興味もないのか。淡々と外で仕事を続け、遅くに帰宅し、休日である平日はどこかに出かけるか部屋にこもる――これで、本当に、父親と言えるのか。
なのに、鏡を見るたびに、父はわたしを苦しめる。紛れもない、あの血の通っていない非道な人間の娘だと視覚が――訴えかける。
絶望した。鏡を叩き割っても、得られるものがなにもなかった。痛みだけだった。
リストカットにもハマる同級生がいた。興味がないわけではないが、痛い思いをするのはいやだったので、その道には走らなかった。
学校はある種のスクールカーストが存在しており、わたしは上の中辺りといったところか。幼稚園時代から一緒に過ごしている、なまじっか金持ちの家庭に育った人間だから、視野が狭く、彼女たちは貧乏人を見下した。ホームレスなんか集団で罵声を浴びせた――そんな話を聞いていやになった。同じ人間であることが。周囲から見ればあの子たちと同じ――人種だと思われることが。
親しい人間は、それなりに。でも、わたしはどの子相手にも、本心を晒さなかった。母が精神的虐待をしていることが大人に知れればどうなるか? ――貧しい、暮らしが、待っている。好きなものを好きなだけ買い与えられることに慣れていたわたしにとっては、考えられない選択肢であった。考えるまでもなかった。わたしの飢えたこころを口紅やスマホやぴらぴらの洋服が――親の愛情と引き換えに、満たしてくれた。
母の、日記を見つけたのは偶然だった。学校で絵の課題を出され、小さい頃の自分の写真を探そうと、屋根裏部屋の段ボールを漁っていたときだった。
『わたしは、ふみちゃんを、許さない。絶対に。
なにをどうしても許されるべきではない。
大好きな、雅哉さんと、わたしの知らないところでセックスをし、あろうことか子どもまで授かった女が――』
母がホワイトボードに書く字を知っているから、母の字だと分かったが、仮に、わたしが母の筆跡を知らなかったにしても、判別出来たであろう。母の日記は、実の妹への怨嗟に満ちていた。おどろおどろしいほどの、直視に耐えぬ、なにかが――ありありと迫った。
日記の存在を、妹には明かさなかった。知ったところでどうという話でもない。だからといって母の行為が正当化されるわけでは――ないのだから。
「ああ……すっごく、いい……雅男」彼の腰遣いに身を委ねるわたしは小さく喘ぎ、「すごい……気持ち、いいよ……雅男」
彼はわたしの唇を封じた。鬱蒼とした緑のなかで行われる行為――この瞬間だけは、なにも考えずにいられる。自分が疎ましがられる存在ということが。自分が、憎まれるべき存在だということが。
あるがままのわたしを受け止めてくれる雅男の行為は、どこまでも尊かった。仮にそれが、未熟な者同士の拙い行為であったとしても。
「いっぱい……出して」わたしは彼の背中に手を添え、より上半身を密着させ、「わたしの……なかを、雅男で、いっぱいに、して……」言いながら皮肉に思えた。雅男――明らかに父から一字を授かったと思えるその名前。それに対し、わたしは『正海』と来たものだ。
名は、体を表す。母がわたしに求めるのは、正しさであり、彼女の母親『正子』の姿であり、また海のように、すべてを受け止める母性だった。
だがわたしが受け止めたいのは母ではない。他にはない、雅男ただひとりだけだった。
射精したあともしばらく離れない、雅男のやさしさがわたしには嬉しかった。とびきりのキスをした。性を愛を知ったばかりの男女が睦みあう――そこには、なんの理性も論理も介在しなかった。必要もなかった。ただ、自分という個性さえあれば。
わたしはふと考える。部活を休部して大分経つが――母の耳に入るのも時間の問題か。ならば、打てる手はすべて打っておかねば。雅男に決意を打ち明けると、彼は同意してくれた。思いのほか彼は理性的で純粋な人間のようだ。親に愛されて育ったのだろう。わたしと違って。その太陽のように輝かしい笑みは、ときとしてわたしの胸を、妬いた。――ああこんなふうに愛されて育っていたら。もし――雅男の父親が生きていたら、どうしただろう。
たらればを考えることに、意味はない。わたしは――わたしたちは、親に決められたレールを進むのではない、自分という人生を生きるために築いた道を歩き進まなければならない。親が、最期まで寄り添ってくれるわけではないのだから。
判明するまでに、すこしの時間を必要とした。わたしはそれまでに母にばれないものか、ひやひやしていたが、判明するとそこからは、あっという間だった。未成年でしかも十五歳のわたしは、翌週、親と来るようにと医者に言われた。わたしは、待ち望んでいた結論が出されたことに、笑みを抑えきれなかった。待合にいる妊婦たちはきっと、中絶か――生理不順で来ただけの中高生、そう思っていたことだろう……。
決めるにもリスクがあり、違う選択をすればそれはそれで……後悔する。この道を選びたいのは分かっていた。あの母を欺くため――いや、これは、自分の人生は自分のものだと証明するために、必要なステップであった。そうとしか、言いようがない。
雅男のお母さんに協力を依頼した。こころよく引き受けてくれるお母さんは、きれいなひとで……うちの母は冷たい印象を与える美人なのだが、雅男のお母さんは、愛くるしい小動物のような可愛らしさを保ち、他方、顎が細く、頬の肉も薄く、愛くるしさに相反したシャープな印象を与える。そのコントラストは彼女独自のものだと思った。
体育の授業は、体調不良や生理など理由をつけて、休んだ。とうとうお腹が目立ちだしたその頃にはもう、手遅れだった。
ある日、風呂上がりのわたしが洗面所にいるところを、母が、ノックした。わたしはパジャマのうえだけを着て「なぁに?」と応じた。「……まさか、まさちゃん、あなた……」
扉を開くとわたしは自分のお腹を撫でて、
「うん。想像通りだよ。いま、……五ヶ月。
触って……みる?」
母の顔が歪んだ。次になにをしでかすのか。咄嗟にわたしはドアを閉ざし、鍵をかけた。激しく母がドアを叩き出す。「なに考えてるの! まさちゃん! あなた、……妊娠なんて! お母さん、恥ずかしくて外、……歩けないじゃないの! あなた、いったいどうするつもり! 学校は!」
聞いて呆れた。母は、どこまでも自分中心の世界に生きている。――となると、プランB。わたしは携帯を手に取ると電話をかけた。「うん。いま、家。……てか風呂上がり。
母親にカミングアウトしたら案の定、半狂乱でさぁ。……悪いんだけど、迎えに来て貰っていい?」わたしは風呂場の窓をちらりと見た。なんとか、出られなくもない構造だ。よしここから出よう。
泣きわめく母は、しばらくそうっとしておいたほうがよいだろう。騒ぎを聞きつけ、妹が出てきた気配。「――おねえちゃん?」
「照海(てるみ)には迷惑かけちゃうね……」そのことがわたしには心残りだった。「大変だろうけど、おねえちゃんは味方だから……負けないで。
もし、どうしても無理なら、おねえちゃんに、電話ちょうだい……そしたらすぐに、駆け付けるから……」
「心配しないで」母の喚き声に混ざりながらも毅然とした妹の声。「おねえちゃんの事情は、だいたい分かったから、……あとは、わたしに、任せて?」
「ありがとう」携帯が震えた。到着したようだ。思いのほか、早かった。「じゃあ、わたし、――行くから。さよなら」
「どこ行くつもり!?」母子手帳も必要だが、いまは、とにかくここを出るしか道はなかった。後で取りに行くか……どうにかなるだろう。
庭から塀をくぐったところで雅男と落ち合った。「なに。あの壁上ってきたの? すっげえなあ。てか……大丈夫?」
「大丈夫」
「家からなんかいろいろ聞こえてっけど……大丈夫?」
「もう、しょうがないよあれは……」夜道を歩くわたしの心境はさばさばしたものだ。「あのひとはね。昔っからそうなの。自分の思う通りに娘が動いてくんないとすぐ、切れるの。だからなにを言っても無駄。孫の顔見せて安心させるとかそのくらいしか思いつかない。ま要は、生まれてから、って話だね……」
「正海。おれが、おまえと、生まれてくる赤ちゃんを、守るから。大事に……するから」わたしの肩を抱く彼の腕の強さに浸り、ああ彼はわたしとは違う男なんだと改めて、認識した。彼は既に新聞配達の仕事をしている。中学は義務教育であるゆえに卒業せねばならないが、ひとまず、わたしの場合は休学せざるを得ないであろう。そのことは、諦めている。また落ち着いた頃に通えばいいかと。
雅男の家では雅男のお母さんが待ってくれていた。わたしのために急遽、ハンバーグを作ってくれたとのこと。母は母で、料理に手をかけてはいるのだが、なんというか、そのレシピも、……自分中心で。蒸し野菜やアヒージョとか、わたしの口には合わないレシピばかりを作っていた。大好きな料理にありつくわたしに、雅男のお母さんは、
「いっぱい食べて、……一緒に、頑張ろう、ね……?」
「赤ちゃん? 赤ちゃん生まれるんだ。やったー」
妹さんも一緒に喜んでくれる、あたたかい空気。部屋は狭く、ややみずぼらしいが、それがなんだというのだろう。金で買えないものをわたしは目の当たりにしている。
知らず、わたしの目からは涙がこぼれていた。みんな、大丈夫? 安心して? 怖いことはもう、なにもないから、……と口々に励ましてくれる。そのあったかさに、胸が、詰まった。
涙を拭いながらわたしは笑った。――変わるのだ。笑っていれば、運のほうが勝手にやってくる。への字の口をしているひとのところには不幸ばかりが集まるという。これから先、どんな状況に置かれようとも、わたしは、この子を、守り抜く。強くならなければ。誰になんと言われようとも毅然と応じられる強固な自己を構築せねば。きっと、……世間様はあれこれ言うだろうから。
涙を拭い、あたたかいお茶を一口飲むと、わたしは、ありがとうございます、と礼を言い、
「雅男さんのお母さん。雅男さん。文香(ふみか)ちゃん。いろいろご面倒をおかけしますが……よろしくお願い致します」
「詩文でいーわよぉ」
「ねぇね。おねえちゃんって呼んでいい? ずっと文香、おねえちゃん欲しかったんだー」
すり寄ってくる文香ちゃんに、悪い気はしなかった。うちの妹よりも素直な性格をしている。そりゃそうだ。わたしたちは、親によって歪められているから……。
居間以外に部屋は二つしかなく、四人並んで布団に入った。暗い、うちよりも低い天井を眺めながらわたしは、……ああ赤ちゃんが生まれたらみんな眠れなくなるのかなーとか、そんな心配をしていた。
起きているのが分かったのだろう。雅男が、わたしと手を繋いだ。その手をお腹に添え、
「こんなに、……おっきくなったんだな。おれが知らないあいだに……おれが、呑気に、学校なんか行っているあいだに。……ごめんな?」
「いいんだよ。義務教育なんだから。別に、……雅男が無理に、働かなくったって……」
「馬鹿」家族を気にして、声量を落とした雅男は、「赤ちゃんは、生まれてからが大変なんだぞ。金なんかいくらあっても足りねーくらいだ。卒業したらおれ、工場で技術職に就こうと思うんだ。まだ、就職活動はしていないけど。最初は派遣でそっから、正社員になれるみてーだ。
だから、正海は、自分のことに専念してな……? おれはおれで、出来ることをやっから……妹がいるからなんとなく、子育ての大変さはちょっとは……理解しているつもりだぞ」
わたしは雅男の頭を撫でた。大切な命を授けてくれたひと……ひとがなんというかは知らないが、雅男は、わたしという存在を照らし出してくれる、光であった。彼だからこそわたしは、からだもこころも許せたし、彼の子どもだから産もうと思った。そのためには手段を選ばないと思わせるほどに。
大好きなひとと、寄り添って眠る。ずっとずっと思い描いていた幸福だった。幸福がこんなに近くにあるなんて、ちょっと前までは、想像もつかなかった。幸福に浸るわたしの頭のうしろに手を回すと、
「正海。……やって?」
「馬鹿」とわたしは小突いた。「あのねー。こっちは、悪阻が大変で3kgも痩せたの。やー正直痩せるのは全然嬉しいんだけど、でもね、それどころじゃないっての――分かる?」
「でもさっきハンバーグぺろって食べたじゃん」
「あれは、ま……たまたまよ。肉臭くならないように、煮込みにしてくださってたじゃん? 詩文さん? がー、いろいろ気を遣ってくださると……思って」
「食えんなら無理に食うなよ。食べらんないものとかあったら、遠慮なく母さんに言いな?」
「そうする……」話したいことはまだまだあったけど、詩文さんも文香ちゃんも横で寝ている。ひとまず、休息を優先しよう……とお腹の重みを感じながら、手を繋いで、雅男と眠った。
分からないことも不安もあるけれど。中学生の出産はからだに負担がかかるという……でも、わたしは、この道を選んだのだ。この先なにが起きても恥じることのない、堂々とした母でありたい。わたしは。
「……正海ぃ」わたしの肩に手を添えると、胸に頭を乗せた。雅男の頭は正直重たかったから、首のあたりにずらした。すると彼は顔をおこし、ちゅっ、と音を立ててキスした。
「……おやすみ。愛してる」
「わたしも……」彼と指を絡ませ、彼を信じる自分を信じる。「明日、……帰ってきたら喋れるかな……いっぱい、話したいことが、あるの……」
「勿論だよ」薄闇の中で彼は白い歯を見せて笑い、「学校終わったらすっ飛んでくるから。……ておまえのお母さんが切れて乗り込んできたりすんのかな。今更だけど対策とか……考えといたほうがいいよな」
「そこは詩文さんに任せない? 姉妹同士の事情も、あるようだから……」
あー、と気の抜けたような声で雅男は、「確かに。並々ならぬ怨念つうもんがあるから、厄介だよな。でもうちの母昼間仕事でいないぜ? もし、母さんがいないときに乗り込まれでもしておまえに危険が及んだら……うし。
明日、電話を入れて、お父さんお母さんに、挨拶に行く約束を取り付けよう」
建設的なる雅男の提案に、即座に同意出来ない自分がいる。何故ならあのひとたちは――型に押し込め、思い通りにいかないと不平不満を溜め込み、まき散らす――家に外に。そういう人種だから……。
わたしの顔色で読み取ったらしい。わたしの頭を撫でると雅男は、「ま。おふくろの問題も絡んでるからそー一筋縄ではいかないと思うけど、焦らず、ゆっくり、行こうぜ……子育てみたいに」
「うん……」妊娠するとやたら眠くなる。意識がこぼれ落ちていくのを感じながらわたしは眠りに浸った。ベッドで眠る母を、二階から突き落とそうとしていた夢を見た。でも怖くて……怪我をさせることではなく、それで本当に『死ぬ』のか? わたしの疑問点はそこだった。目覚めたときに、そう感じる自分に、嫌気が差した。わたしは、母のことをそんなにも疎ましく思っていたのか? なにも言わずに、雅男にそっと抱きつくと、人肌に触れることを介して、鬱積した感情がすこしずつ癒されていくように、感じた。
*
そうわたしが実感するに至ったのはつまり、わたしが生まれながらに美貌を兼ねそろえた人物だからである。父に似たこの顔を、……嫌悪していた。
『彼』に会うまでは。
彼は、父親と生き写しだった。見た瞬間、誰なのかが分かった。誰がどう見ても成岡雅哉の息子……あの二人を知る人間なら誰しもがそう断言するに違いない。
ときに、女に対する人間の反応は、どれもが残酷だ。醜く生まれれば女は愛されることを知らずに生きる羽目となり、他方、美しく生まれれば妬みや嫉みを買いやすく……、なる。
周りがちやほやしてくれるものだからわたしはそれに甘んじ、女王蜂のように、調子に乗って日々を過ごしていた。その一方で、父親と母親に対する酷い劣等コンプレックスを抱えてきた。この美貌があるからこそ、周りはもてはやしてくれるのに、この美貌こそが、わたしを悩ませた。
うちの家庭は空虚なもので。世間体を重んじる両親は、学校行事には張り切って顔を出すものの、終われば父はどこかに消え、粘着質の母だけが残った。まさちゃん、あなたどうして一等賞が取れなかったの? もうすこし頑張れたでしょう? ……母は、わたしに、常に、百点満点を期待した。それは昔っからで。九十五点を取れたことを喜ぶのではなく、取りこぼしの五点のことをいつまでもぐちぐち言う……一言でいえば『重い』女であった。父が、家庭の外に逃げ場を求めたのが分かる気がする。それでも、この状況を放置して他の女に逃げた罪を、正当化は出来ないが。わたしは当事者である。
「お母さん、昔っから母には、『おねえちゃんなんだから』とばかり……言われて。だから、まさちゃんにはそれ言わないって決めているの」あるとき、何気なく母が言った台詞。わたしはすかさず疑問を口にした。「……お母さんに、妹なんているの?」
「だからね、……従妹よ従妹。実家の近所に、……いたのよ」
釈然としないものを感じたものの、わたしは疑問を押し殺した。母を怒らせると後が――怖い。飯抜きの刑、一晩お仕置き部屋の刑、スマホ没収の刑、さぁ今回はいったいどれを選ぶのだろう?
母の論理は、妹とわたしを平等に扱うところに行き着いたものの、自己を投影することを拒否するところまでは至らなかったようだ。よってわたしは、ことあるごとに……いや、なくとも、なにかにつけて母に命令される日々を過ごしていた。お母さん大変なんだからこれ手伝って……宿題やって……ほら部屋散らかしてないで片づけて……あなたたちいつまでテレビ見てるのもう寝なさい……わたしと母の間に成り立つ会話とは常に、母が命ずる、或いは欠点を指摘する……一方向の命令や指摘、それに対するレスポンスだけで成立していて、よってわたしは「はい」と答える機械と化した。一時期、反抗した時期もあるが、母は、わたしたちに罰を与えるので、メリットを感じられずやめた。
そこには、なんの基本的人権もなかった。子育てという着ぐるみに隠された精神的虐待があった。わたしがそれを知るに至ったのは、単に――フィクションの世界に逃げ場を求めて、本を貪り読んだから。わたしの言葉遣いが同じ年の子とちょっと違うのは、わたしが活字から情報を得たことに――他ならない。本ばかり読んでいるとこういう言葉遣いになる。そういう女の子をわたしは同級生でひとり知っている。いまどき眼鏡でおさげで冴えない――女の子だけれど。
要するに、母は、自分の思い通りになる人形が欲しかったのだと思う。常に百点満点を取り、周りに笑顔を振りまき、親に反抗などすることのない、健やかな女の子……理想論だとわたしは一笑に付す。そんな子――そんな都合のいい娘が、この世に存在してたまるか。
反抗期を迎えたばかりの妹のほうは、母に反発することもあり、よって母はますますわたしに依存した。どこに誰と行ったかを事細かに報告せねば切れることもあったし――手をあげることも多々。妹はこの状況に怯えて、ますます殻に閉じこもった。この状況に対し、相変わらず父は無関心を貫いた。自分のせいで――自分が家庭を顧みぬせいで、妻が、娘が、どんな状況に置かれているのか――知るつもりがないのか、興味もないのか。淡々と外で仕事を続け、遅くに帰宅し、休日である平日はどこかに出かけるか部屋にこもる――これで、本当に、父親と言えるのか。
なのに、鏡を見るたびに、父はわたしを苦しめる。紛れもない、あの血の通っていない非道な人間の娘だと視覚が――訴えかける。
絶望した。鏡を叩き割っても、得られるものがなにもなかった。痛みだけだった。
リストカットにもハマる同級生がいた。興味がないわけではないが、痛い思いをするのはいやだったので、その道には走らなかった。
学校はある種のスクールカーストが存在しており、わたしは上の中辺りといったところか。幼稚園時代から一緒に過ごしている、なまじっか金持ちの家庭に育った人間だから、視野が狭く、彼女たちは貧乏人を見下した。ホームレスなんか集団で罵声を浴びせた――そんな話を聞いていやになった。同じ人間であることが。周囲から見ればあの子たちと同じ――人種だと思われることが。
親しい人間は、それなりに。でも、わたしはどの子相手にも、本心を晒さなかった。母が精神的虐待をしていることが大人に知れればどうなるか? ――貧しい、暮らしが、待っている。好きなものを好きなだけ買い与えられることに慣れていたわたしにとっては、考えられない選択肢であった。考えるまでもなかった。わたしの飢えたこころを口紅やスマホやぴらぴらの洋服が――親の愛情と引き換えに、満たしてくれた。
母の、日記を見つけたのは偶然だった。学校で絵の課題を出され、小さい頃の自分の写真を探そうと、屋根裏部屋の段ボールを漁っていたときだった。
『わたしは、ふみちゃんを、許さない。絶対に。
なにをどうしても許されるべきではない。
大好きな、雅哉さんと、わたしの知らないところでセックスをし、あろうことか子どもまで授かった女が――』
母がホワイトボードに書く字を知っているから、母の字だと分かったが、仮に、わたしが母の筆跡を知らなかったにしても、判別出来たであろう。母の日記は、実の妹への怨嗟に満ちていた。おどろおどろしいほどの、直視に耐えぬ、なにかが――ありありと迫った。
日記の存在を、妹には明かさなかった。知ったところでどうという話でもない。だからといって母の行為が正当化されるわけでは――ないのだから。
「ああ……すっごく、いい……雅男」彼の腰遣いに身を委ねるわたしは小さく喘ぎ、「すごい……気持ち、いいよ……雅男」
彼はわたしの唇を封じた。鬱蒼とした緑のなかで行われる行為――この瞬間だけは、なにも考えずにいられる。自分が疎ましがられる存在ということが。自分が、憎まれるべき存在だということが。
あるがままのわたしを受け止めてくれる雅男の行為は、どこまでも尊かった。仮にそれが、未熟な者同士の拙い行為であったとしても。
「いっぱい……出して」わたしは彼の背中に手を添え、より上半身を密着させ、「わたしの……なかを、雅男で、いっぱいに、して……」言いながら皮肉に思えた。雅男――明らかに父から一字を授かったと思えるその名前。それに対し、わたしは『正海』と来たものだ。
名は、体を表す。母がわたしに求めるのは、正しさであり、彼女の母親『正子』の姿であり、また海のように、すべてを受け止める母性だった。
だがわたしが受け止めたいのは母ではない。他にはない、雅男ただひとりだけだった。
射精したあともしばらく離れない、雅男のやさしさがわたしには嬉しかった。とびきりのキスをした。性を愛を知ったばかりの男女が睦みあう――そこには、なんの理性も論理も介在しなかった。必要もなかった。ただ、自分という個性さえあれば。
わたしはふと考える。部活を休部して大分経つが――母の耳に入るのも時間の問題か。ならば、打てる手はすべて打っておかねば。雅男に決意を打ち明けると、彼は同意してくれた。思いのほか彼は理性的で純粋な人間のようだ。親に愛されて育ったのだろう。わたしと違って。その太陽のように輝かしい笑みは、ときとしてわたしの胸を、妬いた。――ああこんなふうに愛されて育っていたら。もし――雅男の父親が生きていたら、どうしただろう。
たらればを考えることに、意味はない。わたしは――わたしたちは、親に決められたレールを進むのではない、自分という人生を生きるために築いた道を歩き進まなければならない。親が、最期まで寄り添ってくれるわけではないのだから。
判明するまでに、すこしの時間を必要とした。わたしはそれまでに母にばれないものか、ひやひやしていたが、判明するとそこからは、あっという間だった。未成年でしかも十五歳のわたしは、翌週、親と来るようにと医者に言われた。わたしは、待ち望んでいた結論が出されたことに、笑みを抑えきれなかった。待合にいる妊婦たちはきっと、中絶か――生理不順で来ただけの中高生、そう思っていたことだろう……。
決めるにもリスクがあり、違う選択をすればそれはそれで……後悔する。この道を選びたいのは分かっていた。あの母を欺くため――いや、これは、自分の人生は自分のものだと証明するために、必要なステップであった。そうとしか、言いようがない。
雅男のお母さんに協力を依頼した。こころよく引き受けてくれるお母さんは、きれいなひとで……うちの母は冷たい印象を与える美人なのだが、雅男のお母さんは、愛くるしい小動物のような可愛らしさを保ち、他方、顎が細く、頬の肉も薄く、愛くるしさに相反したシャープな印象を与える。そのコントラストは彼女独自のものだと思った。
体育の授業は、体調不良や生理など理由をつけて、休んだ。とうとうお腹が目立ちだしたその頃にはもう、手遅れだった。
ある日、風呂上がりのわたしが洗面所にいるところを、母が、ノックした。わたしはパジャマのうえだけを着て「なぁに?」と応じた。「……まさか、まさちゃん、あなた……」
扉を開くとわたしは自分のお腹を撫でて、
「うん。想像通りだよ。いま、……五ヶ月。
触って……みる?」
母の顔が歪んだ。次になにをしでかすのか。咄嗟にわたしはドアを閉ざし、鍵をかけた。激しく母がドアを叩き出す。「なに考えてるの! まさちゃん! あなた、……妊娠なんて! お母さん、恥ずかしくて外、……歩けないじゃないの! あなた、いったいどうするつもり! 学校は!」
聞いて呆れた。母は、どこまでも自分中心の世界に生きている。――となると、プランB。わたしは携帯を手に取ると電話をかけた。「うん。いま、家。……てか風呂上がり。
母親にカミングアウトしたら案の定、半狂乱でさぁ。……悪いんだけど、迎えに来て貰っていい?」わたしは風呂場の窓をちらりと見た。なんとか、出られなくもない構造だ。よしここから出よう。
泣きわめく母は、しばらくそうっとしておいたほうがよいだろう。騒ぎを聞きつけ、妹が出てきた気配。「――おねえちゃん?」
「照海(てるみ)には迷惑かけちゃうね……」そのことがわたしには心残りだった。「大変だろうけど、おねえちゃんは味方だから……負けないで。
もし、どうしても無理なら、おねえちゃんに、電話ちょうだい……そしたらすぐに、駆け付けるから……」
「心配しないで」母の喚き声に混ざりながらも毅然とした妹の声。「おねえちゃんの事情は、だいたい分かったから、……あとは、わたしに、任せて?」
「ありがとう」携帯が震えた。到着したようだ。思いのほか、早かった。「じゃあ、わたし、――行くから。さよなら」
「どこ行くつもり!?」母子手帳も必要だが、いまは、とにかくここを出るしか道はなかった。後で取りに行くか……どうにかなるだろう。
庭から塀をくぐったところで雅男と落ち合った。「なに。あの壁上ってきたの? すっげえなあ。てか……大丈夫?」
「大丈夫」
「家からなんかいろいろ聞こえてっけど……大丈夫?」
「もう、しょうがないよあれは……」夜道を歩くわたしの心境はさばさばしたものだ。「あのひとはね。昔っからそうなの。自分の思う通りに娘が動いてくんないとすぐ、切れるの。だからなにを言っても無駄。孫の顔見せて安心させるとかそのくらいしか思いつかない。ま要は、生まれてから、って話だね……」
「正海。おれが、おまえと、生まれてくる赤ちゃんを、守るから。大事に……するから」わたしの肩を抱く彼の腕の強さに浸り、ああ彼はわたしとは違う男なんだと改めて、認識した。彼は既に新聞配達の仕事をしている。中学は義務教育であるゆえに卒業せねばならないが、ひとまず、わたしの場合は休学せざるを得ないであろう。そのことは、諦めている。また落ち着いた頃に通えばいいかと。
雅男の家では雅男のお母さんが待ってくれていた。わたしのために急遽、ハンバーグを作ってくれたとのこと。母は母で、料理に手をかけてはいるのだが、なんというか、そのレシピも、……自分中心で。蒸し野菜やアヒージョとか、わたしの口には合わないレシピばかりを作っていた。大好きな料理にありつくわたしに、雅男のお母さんは、
「いっぱい食べて、……一緒に、頑張ろう、ね……?」
「赤ちゃん? 赤ちゃん生まれるんだ。やったー」
妹さんも一緒に喜んでくれる、あたたかい空気。部屋は狭く、ややみずぼらしいが、それがなんだというのだろう。金で買えないものをわたしは目の当たりにしている。
知らず、わたしの目からは涙がこぼれていた。みんな、大丈夫? 安心して? 怖いことはもう、なにもないから、……と口々に励ましてくれる。そのあったかさに、胸が、詰まった。
涙を拭いながらわたしは笑った。――変わるのだ。笑っていれば、運のほうが勝手にやってくる。への字の口をしているひとのところには不幸ばかりが集まるという。これから先、どんな状況に置かれようとも、わたしは、この子を、守り抜く。強くならなければ。誰になんと言われようとも毅然と応じられる強固な自己を構築せねば。きっと、……世間様はあれこれ言うだろうから。
涙を拭い、あたたかいお茶を一口飲むと、わたしは、ありがとうございます、と礼を言い、
「雅男さんのお母さん。雅男さん。文香(ふみか)ちゃん。いろいろご面倒をおかけしますが……よろしくお願い致します」
「詩文でいーわよぉ」
「ねぇね。おねえちゃんって呼んでいい? ずっと文香、おねえちゃん欲しかったんだー」
すり寄ってくる文香ちゃんに、悪い気はしなかった。うちの妹よりも素直な性格をしている。そりゃそうだ。わたしたちは、親によって歪められているから……。
居間以外に部屋は二つしかなく、四人並んで布団に入った。暗い、うちよりも低い天井を眺めながらわたしは、……ああ赤ちゃんが生まれたらみんな眠れなくなるのかなーとか、そんな心配をしていた。
起きているのが分かったのだろう。雅男が、わたしと手を繋いだ。その手をお腹に添え、
「こんなに、……おっきくなったんだな。おれが知らないあいだに……おれが、呑気に、学校なんか行っているあいだに。……ごめんな?」
「いいんだよ。義務教育なんだから。別に、……雅男が無理に、働かなくったって……」
「馬鹿」家族を気にして、声量を落とした雅男は、「赤ちゃんは、生まれてからが大変なんだぞ。金なんかいくらあっても足りねーくらいだ。卒業したらおれ、工場で技術職に就こうと思うんだ。まだ、就職活動はしていないけど。最初は派遣でそっから、正社員になれるみてーだ。
だから、正海は、自分のことに専念してな……? おれはおれで、出来ることをやっから……妹がいるからなんとなく、子育ての大変さはちょっとは……理解しているつもりだぞ」
わたしは雅男の頭を撫でた。大切な命を授けてくれたひと……ひとがなんというかは知らないが、雅男は、わたしという存在を照らし出してくれる、光であった。彼だからこそわたしは、からだもこころも許せたし、彼の子どもだから産もうと思った。そのためには手段を選ばないと思わせるほどに。
大好きなひとと、寄り添って眠る。ずっとずっと思い描いていた幸福だった。幸福がこんなに近くにあるなんて、ちょっと前までは、想像もつかなかった。幸福に浸るわたしの頭のうしろに手を回すと、
「正海。……やって?」
「馬鹿」とわたしは小突いた。「あのねー。こっちは、悪阻が大変で3kgも痩せたの。やー正直痩せるのは全然嬉しいんだけど、でもね、それどころじゃないっての――分かる?」
「でもさっきハンバーグぺろって食べたじゃん」
「あれは、ま……たまたまよ。肉臭くならないように、煮込みにしてくださってたじゃん? 詩文さん? がー、いろいろ気を遣ってくださると……思って」
「食えんなら無理に食うなよ。食べらんないものとかあったら、遠慮なく母さんに言いな?」
「そうする……」話したいことはまだまだあったけど、詩文さんも文香ちゃんも横で寝ている。ひとまず、休息を優先しよう……とお腹の重みを感じながら、手を繋いで、雅男と眠った。
分からないことも不安もあるけれど。中学生の出産はからだに負担がかかるという……でも、わたしは、この道を選んだのだ。この先なにが起きても恥じることのない、堂々とした母でありたい。わたしは。
「……正海ぃ」わたしの肩に手を添えると、胸に頭を乗せた。雅男の頭は正直重たかったから、首のあたりにずらした。すると彼は顔をおこし、ちゅっ、と音を立ててキスした。
「……おやすみ。愛してる」
「わたしも……」彼と指を絡ませ、彼を信じる自分を信じる。「明日、……帰ってきたら喋れるかな……いっぱい、話したいことが、あるの……」
「勿論だよ」薄闇の中で彼は白い歯を見せて笑い、「学校終わったらすっ飛んでくるから。……ておまえのお母さんが切れて乗り込んできたりすんのかな。今更だけど対策とか……考えといたほうがいいよな」
「そこは詩文さんに任せない? 姉妹同士の事情も、あるようだから……」
あー、と気の抜けたような声で雅男は、「確かに。並々ならぬ怨念つうもんがあるから、厄介だよな。でもうちの母昼間仕事でいないぜ? もし、母さんがいないときに乗り込まれでもしておまえに危険が及んだら……うし。
明日、電話を入れて、お父さんお母さんに、挨拶に行く約束を取り付けよう」
建設的なる雅男の提案に、即座に同意出来ない自分がいる。何故ならあのひとたちは――型に押し込め、思い通りにいかないと不平不満を溜め込み、まき散らす――家に外に。そういう人種だから……。
わたしの顔色で読み取ったらしい。わたしの頭を撫でると雅男は、「ま。おふくろの問題も絡んでるからそー一筋縄ではいかないと思うけど、焦らず、ゆっくり、行こうぜ……子育てみたいに」
「うん……」妊娠するとやたら眠くなる。意識がこぼれ落ちていくのを感じながらわたしは眠りに浸った。ベッドで眠る母を、二階から突き落とそうとしていた夢を見た。でも怖くて……怪我をさせることではなく、それで本当に『死ぬ』のか? わたしの疑問点はそこだった。目覚めたときに、そう感じる自分に、嫌気が差した。わたしは、母のことをそんなにも疎ましく思っていたのか? なにも言わずに、雅男にそっと抱きつくと、人肌に触れることを介して、鬱積した感情がすこしずつ癒されていくように、感じた。
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