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番外編6 認められること――多幸な莉子SIDE
#EX06-01.そんなあなたをまるごと
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「今更ですよ……課長」
わたしは、あなたの頬に手を添えた。
「どんな過去があっても、……あなたは、あなたです。
そこそこ女遊びをしてきたことくらいは……分かりますし。だからといって、あなたへの愛が覆る……そんな、簡単な恋のプロセスを経て、あなたを選んだわけでは……ありません」
力強くわたしは言い切った。
「自分のなかに、もうひとり自分がいる。それが、なんだっていうんです。
わたしだって、性犯罪被害者なので、いつまでも……膝を抱えてうずくまり、孤独をもてあます子どもを有しています。
いま、わたしは……幸せです。
でも。どんなに幸せになっても……あの子を、わたしの内側から消し去ることは出来ない。
課長にとって、裏の顔の課長が同じ。大切な、課長の一部なのだから、わたしは、課長を愛する者として……理解します。
誰にだってひとには言えない秘密のひとつやふたつくらい、ありますよ。
夫婦なんですから。縁あって一緒になったんですから、それを分かち合えたら……と、思います」
「莉子……」やさしくわたしの髪を撫でるこのひとは誰だろう、とわたしは思う。いや……紛れもない、わたしの最愛のひと。三田遼一。「おれ……自分の話したら引かれんじゃないかとすごく……不安で」
「もっと。いっぱい、課長の話をしてください……なにもかも」
にじんだ視界のなかで、わたしはあなたへと手を伸ばした。
* * *
――子ども。
子ども。子ども。そうか……欲しい。
欲しくないといえば嘘になる。けども……それよりもいまは、あなたが、大事。
守りたいものを守り抜きたい。あなたの……正義を。純情を。純真を。
「――幸せがあれば叩き潰したいとおれは思う」
そんな、あなたを。
「可憐な花を見れば握り潰したいと思う、そんな自分が恐ろしい……」
どんな、あなたも。
「醜い。本当は醜い自分を曝け出すのが怖くて……逃げてばかりいる」
受け止めたい。だから――わたしのなかに、入って。
あらゆる嘆きをも受け止めるから。
あらゆる悲しみをも癒すから――わたしは、幸せの器。あなたをただ、癒すだけの。
「どんな……あなたも、愛している……」
海の底よりも深く、あなたと分かり合えた夜だった。静かに――わたしたちは、肌を、重ねた。
* * *
「莉子ぉー。大丈夫?」
それから、二年半が経過した、ある冬の夜。
なにかが出そうなのに出ない感覚を持て余し、わたしは、トイレに引きこもっていた。気がつけば……三時間も籠城していた。あなたが心配するのも、無理からぬ話。
「や……なにか出そうなのに。でも、出ないの」
「病院行ってみようよー」わたしを心配するあまり、会社を休んだあなたはそう言う。「それって、産気づいてるって意味なんじゃない? とにかく、その状態はおかしいし、……電話して行ってみようよ」
――だってわたし、空振りで三回病院に行っているのよ! 恥ずかしいよー! てっきりこれが産気づくって感覚なのかと思って、夜中に三回も病院に行って……お恥ずかしい! 病院関係者のみなさんごめんなさい!!
妊娠後期に入ってから、ずっとお腹が圧迫されてるって感覚が続いていて、いったいどの感覚が、『産気づく』なのかさっぱり分からない!
ともあれ、課長の進言を受け、わたしは無事病院に行き……それから三時間後には出産した。
三キロ足らずの、元気な女の子の赤ちゃんに……愛良(あいら)と名付けた。
*
わたしは、あなたの頬に手を添えた。
「どんな過去があっても、……あなたは、あなたです。
そこそこ女遊びをしてきたことくらいは……分かりますし。だからといって、あなたへの愛が覆る……そんな、簡単な恋のプロセスを経て、あなたを選んだわけでは……ありません」
力強くわたしは言い切った。
「自分のなかに、もうひとり自分がいる。それが、なんだっていうんです。
わたしだって、性犯罪被害者なので、いつまでも……膝を抱えてうずくまり、孤独をもてあます子どもを有しています。
いま、わたしは……幸せです。
でも。どんなに幸せになっても……あの子を、わたしの内側から消し去ることは出来ない。
課長にとって、裏の顔の課長が同じ。大切な、課長の一部なのだから、わたしは、課長を愛する者として……理解します。
誰にだってひとには言えない秘密のひとつやふたつくらい、ありますよ。
夫婦なんですから。縁あって一緒になったんですから、それを分かち合えたら……と、思います」
「莉子……」やさしくわたしの髪を撫でるこのひとは誰だろう、とわたしは思う。いや……紛れもない、わたしの最愛のひと。三田遼一。「おれ……自分の話したら引かれんじゃないかとすごく……不安で」
「もっと。いっぱい、課長の話をしてください……なにもかも」
にじんだ視界のなかで、わたしはあなたへと手を伸ばした。
* * *
――子ども。
子ども。子ども。そうか……欲しい。
欲しくないといえば嘘になる。けども……それよりもいまは、あなたが、大事。
守りたいものを守り抜きたい。あなたの……正義を。純情を。純真を。
「――幸せがあれば叩き潰したいとおれは思う」
そんな、あなたを。
「可憐な花を見れば握り潰したいと思う、そんな自分が恐ろしい……」
どんな、あなたも。
「醜い。本当は醜い自分を曝け出すのが怖くて……逃げてばかりいる」
受け止めたい。だから――わたしのなかに、入って。
あらゆる嘆きをも受け止めるから。
あらゆる悲しみをも癒すから――わたしは、幸せの器。あなたをただ、癒すだけの。
「どんな……あなたも、愛している……」
海の底よりも深く、あなたと分かり合えた夜だった。静かに――わたしたちは、肌を、重ねた。
* * *
「莉子ぉー。大丈夫?」
それから、二年半が経過した、ある冬の夜。
なにかが出そうなのに出ない感覚を持て余し、わたしは、トイレに引きこもっていた。気がつけば……三時間も籠城していた。あなたが心配するのも、無理からぬ話。
「や……なにか出そうなのに。でも、出ないの」
「病院行ってみようよー」わたしを心配するあまり、会社を休んだあなたはそう言う。「それって、産気づいてるって意味なんじゃない? とにかく、その状態はおかしいし、……電話して行ってみようよ」
――だってわたし、空振りで三回病院に行っているのよ! 恥ずかしいよー! てっきりこれが産気づくって感覚なのかと思って、夜中に三回も病院に行って……お恥ずかしい! 病院関係者のみなさんごめんなさい!!
妊娠後期に入ってから、ずっとお腹が圧迫されてるって感覚が続いていて、いったいどの感覚が、『産気づく』なのかさっぱり分からない!
ともあれ、課長の進言を受け、わたしは無事病院に行き……それから三時間後には出産した。
三キロ足らずの、元気な女の子の赤ちゃんに……愛良(あいら)と名付けた。
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