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番外編4 至上の幸せ――多感な莉子SIDE
#EX04-33.楽しみが増えていく
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受付を済ませ、胸元に薔薇の飾りをつけ、中へと入る。
「わあ……!」
広い。めっちゃめちゃ広い……! そりゃそうだ、4LDK、100平米近くあるのだから。
キッチンも広い。カウンターキッチンで、リビングが見渡せる。奥に部屋もあり……これほど広いのならあのベッドも楽々置けそうだ。
それに、部屋の三方が窓に囲まれており、ベランダも、病院の屋上みたいに広い!
「わー!」とたまらずベランダに飛び出すと叫んでしまう。「すっごい! めっちゃひっろい! わー、洗濯物干し放題じゃないのー!」
「いいねー」と隣に来る課長が言う。「すごい、快適そのものだね。ここで暮らすのが早くも楽しみだ……」
それから、床や風呂場もチェックする。浴槽は、追い炊き機能つきで。課長の大きなからだがすっぽり入るサイズだ。洗面所なんて鏡張りの三面鏡! わーこれはメイクが楽しめる! せっかくなのでと、マンションのいろんなところで写真を撮る。床が平らなのか、ビー玉を転がしたり、課長に寝そべって貰い、写真をパシャリ。……内覧会なんて来るの初めてだけれど、なかなか楽しい。
入居前に、中がきちんと建てられているか、それから、傷などないのか、それらを確かめる意図もある。
白を基調とした部屋はがらんとしており、日射しが入ってきて気持ちがいい。……となると、遮光カーテンも必要だ。そろそろ家具やカーテンを買い揃えなくては。床は白木でより広々と見える……色は三色選べるのだが、わたしたちは最も明るい色を選んだ。
「せっかくだから……お義母さんお義父さんにも来て貰えばよかったわね……」
「まあそうなんだけど」課長から誘って貰ったのだが、遠慮したらしい。「そしたら、こっちに引っ越してきてから、盛大にパーティーを開けばいいんじゃない? ぼくも頑張って手料理を作るよ……となると練習しなきゃだな」
「あーうちの両親にもお披露目しなきゃだもんね。そしたら、両家いっぺんに集めます? 大変かもだけど一度で終わるし……。あでも、気を遣い合うから微妙かなあ……」
「我々的には一度で終わらせたほうが楽に済む。……が、一緒にいると気を遣うのが普通だよなあ。となると、二回に分けたほうが合理的な気もする。
引っ越しが来月で、再来月には結婚式か……。うむ。年末どうするか次第でもあるよなあ。おふくろには、それとなく聞いておくよ……。綾音の受験の時期にもよるけど、例えば来年のほうが無難かもしれないね。結婚式までは打ち合わせも続くからね。きみのご両親には、どうせなら、泊まって行って貰ったほうがゆっくり出来るかもしれないし……」
「となると、両家いっぺんは避けておいたほうが無難かもしれませんね。いくらここが広いからといって、二家族をいっぺんに宿泊させるほどの広さはありませんもの。それから、……綾音ちゃんの事情を最優先しないとですね。
うちの両親にも聞いておきます。あとは、年末年始の過ごし方ですよね? 課長は、年末年始はご実家に帰られてますか?」
「いや、それがあんまり……」
「じゃあ、これを機に、毎年盆と正月には顔を出したほうがよいかもしれませんね。勿論お義母さんが迷惑でなければ、……ですが」
それから話し合いをしたり、マンションのなかをじっくり眺めたりして、内覧会は無事に終了した。
* * *
間取り図も事前に貰っているので、せっかくなのでと、家具も買い揃える。ダイニングテーブルにソファーも買い替えることにした。課長宅のものは潔く処分をする。あの部屋に合うカラーを。差し色としてグリーンを使うことにし、木の色に合った、洋風のデザインのものを選ぶ。
こちらの、課長御用達の家具屋さんは、ビルの運用が上手で。例えば、経営が思うようにいかず、破綻した百貨店の跡地などを有効活用している。お陰でなかはぴっかぴか。今回行くのはその店舗ではないが、あちらこちらで有効活用していると聞く。
で、ビルの三フロアを貸し切ったこちらの家具屋さんは、フロアごとに、テーマが設けられており。洋風のテイスト……ダイニング……ソファーを売るフロアなどに分かれている。見ているだけで気分が高揚する。課長のお気に入りのベッドも確かめたり……改めてこのベッドは最高だなと認識したり。
家具屋さんの接客も一流で。こちらの家具屋さんに入ると、先ず、受付を済ませ、欲しいものを挙げて、それから、営業担当が来てくれ、フロア内を案内してくれる。実にスムーズだ。新築マンションへの入居を控えたわたしたちには、担当営業がついており、そのかたが間取り図を見たうえで、どの家具が入るのか。どの程度の広さが空くのか。導線の動きに不備はないか。……などを検証してくれ、とてもありがたい。
カーテンは専門の店でも見たが、値段はさほど変わらないので、カーテンもこちらでまとめてオーダーすることにした。窓が多いとそれだけカーテンも必要で。かつ、寝室にする部屋は東南向きで直射日光がすごいだろうということで、遮光カーテンを買うことにした。残念ながら課長の既存のカーテンはサイズが合わず、ひとまず他の部屋につけることにする。
となると、結構な出費で。結婚式も含めて。……いや、結婚式は生々しい話だが、ご祝儀を頂けるのでプラマイゼロくらい。むしろマイナスが大きいかと。それでも挙げる価値があると思い、挙げることに決めたわけだが。
さて。家具類が決まれば、続いては家電だ。冷蔵庫。そう……冷蔵庫を買いたい。
というわけで、家電量販店にも立ち寄った。キッチンがいままでとは段違いに大きいので、四人家族向けの500リットル近くのも置けるのだそうだ。なので、課長宅のは処分。洗濯機はもうすこし様子を見ようという話でまとまった。
結婚式の音楽に関しては、音響担当のかたと打ち合わせをして、若い、流行に敏感なかたでわーきゃー盛り上がった。JPOPも洋楽もお詳しい方で、その場にふさわしい音楽を、出来るだけ全部使う形で使ってくれるそうだ。ありがたい。
余興は課長のお友達の演奏くらいで。あとは、キャンドルサービス。それから、お色直し後に、各テーブルを回り、お写真を撮るタイムを作る。というのは、実は、結婚式は、意外と花嫁花婿さんと写真を撮るチャンスがないから。各テーブルをこちらから回る形にすれば、写真を撮れないなんていう悲しい事態も起こらないと思い。それは、たってのわたしの希望だ。
主賓のスピーチと、乾杯の挨拶も頼んだので。あとはもう、……こちら側の準備のみ、だったりする。
司会者のかたとも打ち合わせをした。親しみやすい女性がいいか、それとも穏やかに包み込んでくれる男性がいいのか。それぞれよさがあるのだが、わたしたちは男性の司会者をお願いした。なんとなく……わたしたちには、男性が合っていると感じたのだ。うまくいえないけどフィーリングが。
司会者からヒアリングがあり、プロフィールのどこを強調して欲しいのか。また、テーブルスピーチで回って欲しいところはどこか、逆に、タブーのところはどこかなど、結構細かいところまで聞き出され、なるほど司会者の仕事は多岐にわたるのだな……と感心してしまった。
どんなに忙しくても、わたしたちは互いを求めあう。決めることもすることも多いけれど、この難局を乗り切ろうということで、わたしたちの絆はより強くなっているように感じる。土日は大概なにかの予定で埋まっており、高嶺と出かけるチャンスも減っていた。終わったらまた遊ぼうね、と彼女は言ってくれている。そんな友達がいるだけでわたしは幸せなのだ。恵まれている。
新しいマンションに引っ越したら、ビデオも撮って貰う。結婚式でお披露目するために。いずれ荒石くんと高嶺カップルも新居に呼んだり、あと、経営企画課の面々も呼びたいと思っている。……うーん。忙しい。
けど、この忙しさを楽しめるのは、他でもない、あなたがいるから……。
『疲れたときはちゃんと疲れたって言うんだよ』
『おれは、莉子のどんな思いも受け止めるから。遠慮しないで』
表で裏で支えてくれるあなたがいるからこそ……。
そんなあなたのやさしさに浸り、わたしは今日も、安堵の眠りに就いた。
*
「わあ……!」
広い。めっちゃめちゃ広い……! そりゃそうだ、4LDK、100平米近くあるのだから。
キッチンも広い。カウンターキッチンで、リビングが見渡せる。奥に部屋もあり……これほど広いのならあのベッドも楽々置けそうだ。
それに、部屋の三方が窓に囲まれており、ベランダも、病院の屋上みたいに広い!
「わー!」とたまらずベランダに飛び出すと叫んでしまう。「すっごい! めっちゃひっろい! わー、洗濯物干し放題じゃないのー!」
「いいねー」と隣に来る課長が言う。「すごい、快適そのものだね。ここで暮らすのが早くも楽しみだ……」
それから、床や風呂場もチェックする。浴槽は、追い炊き機能つきで。課長の大きなからだがすっぽり入るサイズだ。洗面所なんて鏡張りの三面鏡! わーこれはメイクが楽しめる! せっかくなのでと、マンションのいろんなところで写真を撮る。床が平らなのか、ビー玉を転がしたり、課長に寝そべって貰い、写真をパシャリ。……内覧会なんて来るの初めてだけれど、なかなか楽しい。
入居前に、中がきちんと建てられているか、それから、傷などないのか、それらを確かめる意図もある。
白を基調とした部屋はがらんとしており、日射しが入ってきて気持ちがいい。……となると、遮光カーテンも必要だ。そろそろ家具やカーテンを買い揃えなくては。床は白木でより広々と見える……色は三色選べるのだが、わたしたちは最も明るい色を選んだ。
「せっかくだから……お義母さんお義父さんにも来て貰えばよかったわね……」
「まあそうなんだけど」課長から誘って貰ったのだが、遠慮したらしい。「そしたら、こっちに引っ越してきてから、盛大にパーティーを開けばいいんじゃない? ぼくも頑張って手料理を作るよ……となると練習しなきゃだな」
「あーうちの両親にもお披露目しなきゃだもんね。そしたら、両家いっぺんに集めます? 大変かもだけど一度で終わるし……。あでも、気を遣い合うから微妙かなあ……」
「我々的には一度で終わらせたほうが楽に済む。……が、一緒にいると気を遣うのが普通だよなあ。となると、二回に分けたほうが合理的な気もする。
引っ越しが来月で、再来月には結婚式か……。うむ。年末どうするか次第でもあるよなあ。おふくろには、それとなく聞いておくよ……。綾音の受験の時期にもよるけど、例えば来年のほうが無難かもしれないね。結婚式までは打ち合わせも続くからね。きみのご両親には、どうせなら、泊まって行って貰ったほうがゆっくり出来るかもしれないし……」
「となると、両家いっぺんは避けておいたほうが無難かもしれませんね。いくらここが広いからといって、二家族をいっぺんに宿泊させるほどの広さはありませんもの。それから、……綾音ちゃんの事情を最優先しないとですね。
うちの両親にも聞いておきます。あとは、年末年始の過ごし方ですよね? 課長は、年末年始はご実家に帰られてますか?」
「いや、それがあんまり……」
「じゃあ、これを機に、毎年盆と正月には顔を出したほうがよいかもしれませんね。勿論お義母さんが迷惑でなければ、……ですが」
それから話し合いをしたり、マンションのなかをじっくり眺めたりして、内覧会は無事に終了した。
* * *
間取り図も事前に貰っているので、せっかくなのでと、家具も買い揃える。ダイニングテーブルにソファーも買い替えることにした。課長宅のものは潔く処分をする。あの部屋に合うカラーを。差し色としてグリーンを使うことにし、木の色に合った、洋風のデザインのものを選ぶ。
こちらの、課長御用達の家具屋さんは、ビルの運用が上手で。例えば、経営が思うようにいかず、破綻した百貨店の跡地などを有効活用している。お陰でなかはぴっかぴか。今回行くのはその店舗ではないが、あちらこちらで有効活用していると聞く。
で、ビルの三フロアを貸し切ったこちらの家具屋さんは、フロアごとに、テーマが設けられており。洋風のテイスト……ダイニング……ソファーを売るフロアなどに分かれている。見ているだけで気分が高揚する。課長のお気に入りのベッドも確かめたり……改めてこのベッドは最高だなと認識したり。
家具屋さんの接客も一流で。こちらの家具屋さんに入ると、先ず、受付を済ませ、欲しいものを挙げて、それから、営業担当が来てくれ、フロア内を案内してくれる。実にスムーズだ。新築マンションへの入居を控えたわたしたちには、担当営業がついており、そのかたが間取り図を見たうえで、どの家具が入るのか。どの程度の広さが空くのか。導線の動きに不備はないか。……などを検証してくれ、とてもありがたい。
カーテンは専門の店でも見たが、値段はさほど変わらないので、カーテンもこちらでまとめてオーダーすることにした。窓が多いとそれだけカーテンも必要で。かつ、寝室にする部屋は東南向きで直射日光がすごいだろうということで、遮光カーテンを買うことにした。残念ながら課長の既存のカーテンはサイズが合わず、ひとまず他の部屋につけることにする。
となると、結構な出費で。結婚式も含めて。……いや、結婚式は生々しい話だが、ご祝儀を頂けるのでプラマイゼロくらい。むしろマイナスが大きいかと。それでも挙げる価値があると思い、挙げることに決めたわけだが。
さて。家具類が決まれば、続いては家電だ。冷蔵庫。そう……冷蔵庫を買いたい。
というわけで、家電量販店にも立ち寄った。キッチンがいままでとは段違いに大きいので、四人家族向けの500リットル近くのも置けるのだそうだ。なので、課長宅のは処分。洗濯機はもうすこし様子を見ようという話でまとまった。
結婚式の音楽に関しては、音響担当のかたと打ち合わせをして、若い、流行に敏感なかたでわーきゃー盛り上がった。JPOPも洋楽もお詳しい方で、その場にふさわしい音楽を、出来るだけ全部使う形で使ってくれるそうだ。ありがたい。
余興は課長のお友達の演奏くらいで。あとは、キャンドルサービス。それから、お色直し後に、各テーブルを回り、お写真を撮るタイムを作る。というのは、実は、結婚式は、意外と花嫁花婿さんと写真を撮るチャンスがないから。各テーブルをこちらから回る形にすれば、写真を撮れないなんていう悲しい事態も起こらないと思い。それは、たってのわたしの希望だ。
主賓のスピーチと、乾杯の挨拶も頼んだので。あとはもう、……こちら側の準備のみ、だったりする。
司会者のかたとも打ち合わせをした。親しみやすい女性がいいか、それとも穏やかに包み込んでくれる男性がいいのか。それぞれよさがあるのだが、わたしたちは男性の司会者をお願いした。なんとなく……わたしたちには、男性が合っていると感じたのだ。うまくいえないけどフィーリングが。
司会者からヒアリングがあり、プロフィールのどこを強調して欲しいのか。また、テーブルスピーチで回って欲しいところはどこか、逆に、タブーのところはどこかなど、結構細かいところまで聞き出され、なるほど司会者の仕事は多岐にわたるのだな……と感心してしまった。
どんなに忙しくても、わたしたちは互いを求めあう。決めることもすることも多いけれど、この難局を乗り切ろうということで、わたしたちの絆はより強くなっているように感じる。土日は大概なにかの予定で埋まっており、高嶺と出かけるチャンスも減っていた。終わったらまた遊ぼうね、と彼女は言ってくれている。そんな友達がいるだけでわたしは幸せなのだ。恵まれている。
新しいマンションに引っ越したら、ビデオも撮って貰う。結婚式でお披露目するために。いずれ荒石くんと高嶺カップルも新居に呼んだり、あと、経営企画課の面々も呼びたいと思っている。……うーん。忙しい。
けど、この忙しさを楽しめるのは、他でもない、あなたがいるから……。
『疲れたときはちゃんと疲れたって言うんだよ』
『おれは、莉子のどんな思いも受け止めるから。遠慮しないで』
表で裏で支えてくれるあなたがいるからこそ……。
そんなあなたのやさしさに浸り、わたしは今日も、安堵の眠りに就いた。
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