上 下
81 / 103
番外編4 至上の幸せ――多感な莉子SIDE

#EX04-31.夏の風物詩

しおりを挟む
 目の前には、氷の部分が抹茶色に染まり、ソフトクリームと小豆と白玉がトッピングされたかき氷が。……うん。食欲をそそる……!

「美味しそう……」すかさずわたしは携帯を取り出し、写真をパシャリ。「課長のも撮っていいですか」

「勿論」

 彼は、キャラメルシロップと生クリームをかけられたかき氷を注文している。これまた美味しそう!

 九月に入った最初のお休み、結婚式場からの帰り道。急にかき氷が食べたくなり、近くの店に立ち寄った。そういえば、課長とかき氷を食べるなんて初めてだな。課長と出会ってから、約一年が経過して。空白の期間もあったけれど、ほぼ一年間、わたしは課長を愛し続けている。

 幸せなことだ。

 課長と、夏の思い出をたくさん作った。花火を見に行ったりお買い物をしたり、プールにも行ったり。

 相変わらず慌ただしく日々は過ぎていくが……そう、結婚式の招待状の発送を終え、返送を待つばかり。式の段取りもおおよそ決まり、今日は、司会者を決定した。

 司会者については、顔写真を載せたアルバムがあり、更に、そのなかから気になるひとを、ピックアップして、その司会者の動画を見られるのだ。なかなか面白いサービスだと思った。

 わたしはなんとなく、『このひとがいい』というのがあって。それがぴたりと課長と一致したこと……実際話している動画を見ていると好印象。満場一致で決定した。

 それから、結婚式にかけたい音楽があれば、メールで音響担当に送っておいて欲しい、それを受けてまた打ち合わせがあるとのこと。いやはや、なかなかに忙しい。

 音楽関係は課長は洋楽以外は疎いので。かといって洋楽だけだと微妙……なので、帰ってからわたしがまとめるつもりでいる。『Dr.HOUSE』を見ていたわたしとしては、Corneliusの『Too much of everything』は外せない。切ない、男の側が女を熱心に思う珠玉のラブソング。乾杯のときの曲にぴったりだと思う。

 そう思うとどんどんアイデアが湧いてくる。Yukiの『Home Sweet Home』、The BENNIE Kの『a love story / with SEAMO』も捨てがたい。ああ、使いたい曲がありすぎて困ってしまう。脳内でリストアップをしながら、美味しい美味しいかき氷に舌鼓を打つ。うん。きぃんと冷えててたまらない!

「課長のも一口食べていいですか」

「勿論だよ」

 器を交換し、スプーンで彼のかき氷を掬う。……とまた広がる新しい風味! キャラメルソースの甘ったるい味、バニラアイスクリームとのコントラストがたまらない! しゃりしゃりのかき氷とあいまってもう……触感の違いが!

「気絶しそうなくらいに美味しいです。……はいどうぞ」

「もうすこし食べてもいいんだよ」

「やぁでも……抹茶あずきもたまらないので。抹茶あずきをもう少し堪能します……」

「そっか」目尻に皺を寄せて笑うあなたが愛おしい。「なら、食べたいときは遠慮なく言ってね? 言わないとおれ、さっさと平らげちまうかも」

 かき氷って、細かい氷にシロップをかけるだけのイメージだったんだけど、いまっていろんな種類があるのね。カプチーノソースかけるのとか、チョコバナナを乗せたのとかいろいろ……種類があって、メニューを見ると散々迷ってしまった。

 素敵な和風のカフェを出ると、灼熱の太陽が出迎える。盛夏に比べると日は短くはなったが、にしても日射しは強い。特にわたしは結婚式を控えている身分なので、直射日光は敵だ。出る前に日焼け止めをトイレで塗り直した。日傘は必須。

 ブライダルエステに興味はないけど、結婚式が決まってすぐに、脱毛サロンに通い始めた。といっても脇の下だけ。以外の部分は、ブライダルシェービングをやっているところがあるので、結婚式の二日前に、予約を入れておいた。

 あと、ネイル。これまた結婚式の前日に。……となるとまあ、なかなか忙しい。

 なにげなく出席だけしていた結婚式だけれど、裏ではみんな……こんなにも頑張っているんだなあ。
 
 と知ると、結婚式への見方が変わるというか。――ああ、そうそう、来週は試食会! 結婚式で実際に出される食事を食べてみるんだ! フレンチ中華いろいろと選べるのだが、うちはフレンチにした。

 それに、結婚式当日は忙しいから、花嫁花婿は食事が出来ないと聞くし。となると、試食会で食べまくるしかないでしょう!

 しかし。

 困ったことが……。

 結婚式を控えて、ダイエットをするどころか、結構食べてしまい……一キロ増えた。こうなったら。

「夜の運動でダイエットするしか……ありませんよね」

「まあ、食事を減らすか運動量を増やすかしないとそうなるよな」

「課長が羨ましい……」自分の目線が恨みがましいものになるのが分かる。「どうして課長は……課長だけ、体型が変わらないのかしら。理不尽です……」

「おれはほら、『よく動く』男だから」

 さらりとエロトークを挟まれ、わたしは赤面する。「じゃあ、……わたしのほうも、必死になって動かなきゃ駄目ってことじゃないですか……」

 体重が増えた要因は分かっている。課長……よく食べるんだもの。外食もするし。……休日の昼もしっかり食べるタイプだし。

 でも彼は、休日は朝ジョギングをするとかで調整している。食べ過ぎた翌日は食事の量を減らす。だから、シュっとした体型を維持出来ているわけで。

「まあさ。莉子は、細いから、ちょっとくらい太ったって全然いいとおれは思うよ? それに、下手にダイエットなんかしちまって、あっちのサイズが小さくなっちまったら、それはそれで……残念」

「でも、花嫁なんだから、細くないと……」

「一キロ増えるのなんか誤差の範囲だよ。おれ、きみのどこがどう太ったとか、よく分からないもん。ほっぺがちょっとふっくらしてきた……そんくらいかな? 違和感ゼロだよ」

「やだーわたし、顔、太った?」

「ものすごく頬の肉が薄かったのが、かなり薄い程度に変わった、そんだけの話だよ……。さ。食べよう。氷が溶けないうちに……」

 そうして、課長はいつも、わたしに食べることを勧めるのだが、わたしのなかには釈然としない、なにかが残った。

 * * *

「ねえ……課長」

 わたしは、頂きを懸命に貪る課長に話しかけた。「さっき言ってたこと……本当ですか? わたしがすごく太ったとしても、課長は、変わらずにわたしのことを愛すことが出来ますか?」
.
 視界にはさっきの花火のイメージが浮かんでいる。夏の終わり。最後だからと、夏の終わりを惜しむように、課長とふたり、公園でコンビニで花火を買って花火をした。ちかちかと光る、美しい火花のイメージが鮮烈にまだ脳裏に焼き付いている。

「まあ……八キロ太りました、ってなったらすこしは動揺するかもなあ」正直に答える課長は、「でもさ。年齢重ねたら太るってよくあることじゃない? それで魅力が半減したなんて、おれは思うことがないし……第一、莉子は、ぷりっぷりで肌が白いのが持ち味だからさあ……その艶めいた感じは、変わらないでいて欲しいよ。

 松坂慶子だって、若い頃よりも若干ふっくらした感じはあるけどさ。奥田瑛二監督の映画に出演された際は、痩せろ痩せろって言われたらしいけど。でもなー、おれ、松坂慶子のふっくらした感じ、好きだな。あれくらい肉がついてて全然いいとおれは思う」

「そっかあじゃあ……」わたしは課長の髪を撫で、「太るとしたら五キロ以内までにしておきますね。……妊娠出産したらどうなるかまでは分かりませんが……」

「莉子って太りにくいタイプだからさぁ。大丈夫だとおれは思うよ」

「わたしが太って、課長に嫌われて、で、浮気に走られないようにわたし……頑張ります」

「気になったらおれは言うし。あと、きみがダイエットするっていうならおれはつき合うよ。食事の量をセーブする。あんまり事前に考えすぎず、兆候が見られたら対応するってかたちでもいいんじゃないかな」

「……分かりました」

「莉子のからだ……おれ、好き」わたしの敏感な蕾を口のなかで転がす課長は、「感じやすいそのからだも。吸い付きのいい柔肌も。全部、全部が好き……。おれ、一生、莉子のことが、大好きだから。……愛している」

 その台詞を聞いて改めてこころに決めた。引き続き自炊や行為を頑張って、課長に好かれる自分を保っていようと。

 *
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~

泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の 元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳  ×  敏腕だけど冷徹と噂されている 俺様部長 木沢彰吾34歳  ある朝、花梨が出社すると  異動の辞令が張り出されていた。  異動先は木沢部長率いる 〝ブランディング戦略部〟    なんでこんな時期に……  あまりの〝異例〟の辞令に  戸惑いを隠せない花梨。  しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!  花梨の前途多難な日々が、今始まる…… *** 元気いっぱい、はりきりガール花梨と ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

処理中です...