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番外編4 至上の幸せ――多感な莉子SIDE
#EX04-31.夏の風物詩
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目の前には、氷の部分が抹茶色に染まり、ソフトクリームと小豆と白玉がトッピングされたかき氷が。……うん。食欲をそそる……!
「美味しそう……」すかさずわたしは携帯を取り出し、写真をパシャリ。「課長のも撮っていいですか」
「勿論」
彼は、キャラメルシロップと生クリームをかけられたかき氷を注文している。これまた美味しそう!
九月に入った最初のお休み、結婚式場からの帰り道。急にかき氷が食べたくなり、近くの店に立ち寄った。そういえば、課長とかき氷を食べるなんて初めてだな。課長と出会ってから、約一年が経過して。空白の期間もあったけれど、ほぼ一年間、わたしは課長を愛し続けている。
幸せなことだ。
課長と、夏の思い出をたくさん作った。花火を見に行ったりお買い物をしたり、プールにも行ったり。
相変わらず慌ただしく日々は過ぎていくが……そう、結婚式の招待状の発送を終え、返送を待つばかり。式の段取りもおおよそ決まり、今日は、司会者を決定した。
司会者については、顔写真を載せたアルバムがあり、更に、そのなかから気になるひとを、ピックアップして、その司会者の動画を見られるのだ。なかなか面白いサービスだと思った。
わたしはなんとなく、『このひとがいい』というのがあって。それがぴたりと課長と一致したこと……実際話している動画を見ていると好印象。満場一致で決定した。
それから、結婚式にかけたい音楽があれば、メールで音響担当に送っておいて欲しい、それを受けてまた打ち合わせがあるとのこと。いやはや、なかなかに忙しい。
音楽関係は課長は洋楽以外は疎いので。かといって洋楽だけだと微妙……なので、帰ってからわたしがまとめるつもりでいる。『Dr.HOUSE』を見ていたわたしとしては、Corneliusの『Too much of everything』は外せない。切ない、男の側が女を熱心に思う珠玉のラブソング。乾杯のときの曲にぴったりだと思う。
そう思うとどんどんアイデアが湧いてくる。Yukiの『Home Sweet Home』、The BENNIE Kの『a love story / with SEAMO』も捨てがたい。ああ、使いたい曲がありすぎて困ってしまう。脳内でリストアップをしながら、美味しい美味しいかき氷に舌鼓を打つ。うん。きぃんと冷えててたまらない!
「課長のも一口食べていいですか」
「勿論だよ」
器を交換し、スプーンで彼のかき氷を掬う。……とまた広がる新しい風味! キャラメルソースの甘ったるい味、バニラアイスクリームとのコントラストがたまらない! しゃりしゃりのかき氷とあいまってもう……触感の違いが!
「気絶しそうなくらいに美味しいです。……はいどうぞ」
「もうすこし食べてもいいんだよ」
「やぁでも……抹茶あずきもたまらないので。抹茶あずきをもう少し堪能します……」
「そっか」目尻に皺を寄せて笑うあなたが愛おしい。「なら、食べたいときは遠慮なく言ってね? 言わないとおれ、さっさと平らげちまうかも」
かき氷って、細かい氷にシロップをかけるだけのイメージだったんだけど、いまっていろんな種類があるのね。カプチーノソースかけるのとか、チョコバナナを乗せたのとかいろいろ……種類があって、メニューを見ると散々迷ってしまった。
素敵な和風のカフェを出ると、灼熱の太陽が出迎える。盛夏に比べると日は短くはなったが、にしても日射しは強い。特にわたしは結婚式を控えている身分なので、直射日光は敵だ。出る前に日焼け止めをトイレで塗り直した。日傘は必須。
ブライダルエステに興味はないけど、結婚式が決まってすぐに、脱毛サロンに通い始めた。といっても脇の下だけ。以外の部分は、ブライダルシェービングをやっているところがあるので、結婚式の二日前に、予約を入れておいた。
あと、ネイル。これまた結婚式の前日に。……となるとまあ、なかなか忙しい。
なにげなく出席だけしていた結婚式だけれど、裏ではみんな……こんなにも頑張っているんだなあ。
と知ると、結婚式への見方が変わるというか。――ああ、そうそう、来週は試食会! 結婚式で実際に出される食事を食べてみるんだ! フレンチ中華いろいろと選べるのだが、うちはフレンチにした。
それに、結婚式当日は忙しいから、花嫁花婿は食事が出来ないと聞くし。となると、試食会で食べまくるしかないでしょう!
しかし。
困ったことが……。
結婚式を控えて、ダイエットをするどころか、結構食べてしまい……一キロ増えた。こうなったら。
「夜の運動でダイエットするしか……ありませんよね」
「まあ、食事を減らすか運動量を増やすかしないとそうなるよな」
「課長が羨ましい……」自分の目線が恨みがましいものになるのが分かる。「どうして課長は……課長だけ、体型が変わらないのかしら。理不尽です……」
「おれはほら、『よく動く』男だから」
さらりとエロトークを挟まれ、わたしは赤面する。「じゃあ、……わたしのほうも、必死になって動かなきゃ駄目ってことじゃないですか……」
体重が増えた要因は分かっている。課長……よく食べるんだもの。外食もするし。……休日の昼もしっかり食べるタイプだし。
でも彼は、休日は朝ジョギングをするとかで調整している。食べ過ぎた翌日は食事の量を減らす。だから、シュっとした体型を維持出来ているわけで。
「まあさ。莉子は、細いから、ちょっとくらい太ったって全然いいとおれは思うよ? それに、下手にダイエットなんかしちまって、あっちのサイズが小さくなっちまったら、それはそれで……残念」
「でも、花嫁なんだから、細くないと……」
「一キロ増えるのなんか誤差の範囲だよ。おれ、きみのどこがどう太ったとか、よく分からないもん。ほっぺがちょっとふっくらしてきた……そんくらいかな? 違和感ゼロだよ」
「やだーわたし、顔、太った?」
「ものすごく頬の肉が薄かったのが、かなり薄い程度に変わった、そんだけの話だよ……。さ。食べよう。氷が溶けないうちに……」
そうして、課長はいつも、わたしに食べることを勧めるのだが、わたしのなかには釈然としない、なにかが残った。
* * *
「ねえ……課長」
わたしは、頂きを懸命に貪る課長に話しかけた。「さっき言ってたこと……本当ですか? わたしがすごく太ったとしても、課長は、変わらずにわたしのことを愛すことが出来ますか?」
.
視界にはさっきの花火のイメージが浮かんでいる。夏の終わり。最後だからと、夏の終わりを惜しむように、課長とふたり、公園でコンビニで花火を買って花火をした。ちかちかと光る、美しい火花のイメージが鮮烈にまだ脳裏に焼き付いている。
「まあ……八キロ太りました、ってなったらすこしは動揺するかもなあ」正直に答える課長は、「でもさ。年齢重ねたら太るってよくあることじゃない? それで魅力が半減したなんて、おれは思うことがないし……第一、莉子は、ぷりっぷりで肌が白いのが持ち味だからさあ……その艶めいた感じは、変わらないでいて欲しいよ。
松坂慶子だって、若い頃よりも若干ふっくらした感じはあるけどさ。奥田瑛二監督の映画に出演された際は、痩せろ痩せろって言われたらしいけど。でもなー、おれ、松坂慶子のふっくらした感じ、好きだな。あれくらい肉がついてて全然いいとおれは思う」
「そっかあじゃあ……」わたしは課長の髪を撫で、「太るとしたら五キロ以内までにしておきますね。……妊娠出産したらどうなるかまでは分かりませんが……」
「莉子って太りにくいタイプだからさぁ。大丈夫だとおれは思うよ」
「わたしが太って、課長に嫌われて、で、浮気に走られないようにわたし……頑張ります」
「気になったらおれは言うし。あと、きみがダイエットするっていうならおれはつき合うよ。食事の量をセーブする。あんまり事前に考えすぎず、兆候が見られたら対応するってかたちでもいいんじゃないかな」
「……分かりました」
「莉子のからだ……おれ、好き」わたしの敏感な蕾を口のなかで転がす課長は、「感じやすいそのからだも。吸い付きのいい柔肌も。全部、全部が好き……。おれ、一生、莉子のことが、大好きだから。……愛している」
その台詞を聞いて改めてこころに決めた。引き続き自炊や行為を頑張って、課長に好かれる自分を保っていようと。
*
「美味しそう……」すかさずわたしは携帯を取り出し、写真をパシャリ。「課長のも撮っていいですか」
「勿論」
彼は、キャラメルシロップと生クリームをかけられたかき氷を注文している。これまた美味しそう!
九月に入った最初のお休み、結婚式場からの帰り道。急にかき氷が食べたくなり、近くの店に立ち寄った。そういえば、課長とかき氷を食べるなんて初めてだな。課長と出会ってから、約一年が経過して。空白の期間もあったけれど、ほぼ一年間、わたしは課長を愛し続けている。
幸せなことだ。
課長と、夏の思い出をたくさん作った。花火を見に行ったりお買い物をしたり、プールにも行ったり。
相変わらず慌ただしく日々は過ぎていくが……そう、結婚式の招待状の発送を終え、返送を待つばかり。式の段取りもおおよそ決まり、今日は、司会者を決定した。
司会者については、顔写真を載せたアルバムがあり、更に、そのなかから気になるひとを、ピックアップして、その司会者の動画を見られるのだ。なかなか面白いサービスだと思った。
わたしはなんとなく、『このひとがいい』というのがあって。それがぴたりと課長と一致したこと……実際話している動画を見ていると好印象。満場一致で決定した。
それから、結婚式にかけたい音楽があれば、メールで音響担当に送っておいて欲しい、それを受けてまた打ち合わせがあるとのこと。いやはや、なかなかに忙しい。
音楽関係は課長は洋楽以外は疎いので。かといって洋楽だけだと微妙……なので、帰ってからわたしがまとめるつもりでいる。『Dr.HOUSE』を見ていたわたしとしては、Corneliusの『Too much of everything』は外せない。切ない、男の側が女を熱心に思う珠玉のラブソング。乾杯のときの曲にぴったりだと思う。
そう思うとどんどんアイデアが湧いてくる。Yukiの『Home Sweet Home』、The BENNIE Kの『a love story / with SEAMO』も捨てがたい。ああ、使いたい曲がありすぎて困ってしまう。脳内でリストアップをしながら、美味しい美味しいかき氷に舌鼓を打つ。うん。きぃんと冷えててたまらない!
「課長のも一口食べていいですか」
「勿論だよ」
器を交換し、スプーンで彼のかき氷を掬う。……とまた広がる新しい風味! キャラメルソースの甘ったるい味、バニラアイスクリームとのコントラストがたまらない! しゃりしゃりのかき氷とあいまってもう……触感の違いが!
「気絶しそうなくらいに美味しいです。……はいどうぞ」
「もうすこし食べてもいいんだよ」
「やぁでも……抹茶あずきもたまらないので。抹茶あずきをもう少し堪能します……」
「そっか」目尻に皺を寄せて笑うあなたが愛おしい。「なら、食べたいときは遠慮なく言ってね? 言わないとおれ、さっさと平らげちまうかも」
かき氷って、細かい氷にシロップをかけるだけのイメージだったんだけど、いまっていろんな種類があるのね。カプチーノソースかけるのとか、チョコバナナを乗せたのとかいろいろ……種類があって、メニューを見ると散々迷ってしまった。
素敵な和風のカフェを出ると、灼熱の太陽が出迎える。盛夏に比べると日は短くはなったが、にしても日射しは強い。特にわたしは結婚式を控えている身分なので、直射日光は敵だ。出る前に日焼け止めをトイレで塗り直した。日傘は必須。
ブライダルエステに興味はないけど、結婚式が決まってすぐに、脱毛サロンに通い始めた。といっても脇の下だけ。以外の部分は、ブライダルシェービングをやっているところがあるので、結婚式の二日前に、予約を入れておいた。
あと、ネイル。これまた結婚式の前日に。……となるとまあ、なかなか忙しい。
なにげなく出席だけしていた結婚式だけれど、裏ではみんな……こんなにも頑張っているんだなあ。
と知ると、結婚式への見方が変わるというか。――ああ、そうそう、来週は試食会! 結婚式で実際に出される食事を食べてみるんだ! フレンチ中華いろいろと選べるのだが、うちはフレンチにした。
それに、結婚式当日は忙しいから、花嫁花婿は食事が出来ないと聞くし。となると、試食会で食べまくるしかないでしょう!
しかし。
困ったことが……。
結婚式を控えて、ダイエットをするどころか、結構食べてしまい……一キロ増えた。こうなったら。
「夜の運動でダイエットするしか……ありませんよね」
「まあ、食事を減らすか運動量を増やすかしないとそうなるよな」
「課長が羨ましい……」自分の目線が恨みがましいものになるのが分かる。「どうして課長は……課長だけ、体型が変わらないのかしら。理不尽です……」
「おれはほら、『よく動く』男だから」
さらりとエロトークを挟まれ、わたしは赤面する。「じゃあ、……わたしのほうも、必死になって動かなきゃ駄目ってことじゃないですか……」
体重が増えた要因は分かっている。課長……よく食べるんだもの。外食もするし。……休日の昼もしっかり食べるタイプだし。
でも彼は、休日は朝ジョギングをするとかで調整している。食べ過ぎた翌日は食事の量を減らす。だから、シュっとした体型を維持出来ているわけで。
「まあさ。莉子は、細いから、ちょっとくらい太ったって全然いいとおれは思うよ? それに、下手にダイエットなんかしちまって、あっちのサイズが小さくなっちまったら、それはそれで……残念」
「でも、花嫁なんだから、細くないと……」
「一キロ増えるのなんか誤差の範囲だよ。おれ、きみのどこがどう太ったとか、よく分からないもん。ほっぺがちょっとふっくらしてきた……そんくらいかな? 違和感ゼロだよ」
「やだーわたし、顔、太った?」
「ものすごく頬の肉が薄かったのが、かなり薄い程度に変わった、そんだけの話だよ……。さ。食べよう。氷が溶けないうちに……」
そうして、課長はいつも、わたしに食べることを勧めるのだが、わたしのなかには釈然としない、なにかが残った。
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「ねえ……課長」
わたしは、頂きを懸命に貪る課長に話しかけた。「さっき言ってたこと……本当ですか? わたしがすごく太ったとしても、課長は、変わらずにわたしのことを愛すことが出来ますか?」
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視界にはさっきの花火のイメージが浮かんでいる。夏の終わり。最後だからと、夏の終わりを惜しむように、課長とふたり、公園でコンビニで花火を買って花火をした。ちかちかと光る、美しい火花のイメージが鮮烈にまだ脳裏に焼き付いている。
「まあ……八キロ太りました、ってなったらすこしは動揺するかもなあ」正直に答える課長は、「でもさ。年齢重ねたら太るってよくあることじゃない? それで魅力が半減したなんて、おれは思うことがないし……第一、莉子は、ぷりっぷりで肌が白いのが持ち味だからさあ……その艶めいた感じは、変わらないでいて欲しいよ。
松坂慶子だって、若い頃よりも若干ふっくらした感じはあるけどさ。奥田瑛二監督の映画に出演された際は、痩せろ痩せろって言われたらしいけど。でもなー、おれ、松坂慶子のふっくらした感じ、好きだな。あれくらい肉がついてて全然いいとおれは思う」
「そっかあじゃあ……」わたしは課長の髪を撫で、「太るとしたら五キロ以内までにしておきますね。……妊娠出産したらどうなるかまでは分かりませんが……」
「莉子って太りにくいタイプだからさぁ。大丈夫だとおれは思うよ」
「わたしが太って、課長に嫌われて、で、浮気に走られないようにわたし……頑張ります」
「気になったらおれは言うし。あと、きみがダイエットするっていうならおれはつき合うよ。食事の量をセーブする。あんまり事前に考えすぎず、兆候が見られたら対応するってかたちでもいいんじゃないかな」
「……分かりました」
「莉子のからだ……おれ、好き」わたしの敏感な蕾を口のなかで転がす課長は、「感じやすいそのからだも。吸い付きのいい柔肌も。全部、全部が好き……。おれ、一生、莉子のことが、大好きだから。……愛している」
その台詞を聞いて改めてこころに決めた。引き続き自炊や行為を頑張って、課長に好かれる自分を保っていようと。
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