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番外編4 至上の幸せ――多感な莉子SIDE
#EX04-25.素晴らしき日 *
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――二十七回目の誕生日は、記念すべき日となった。
前日の夜から、抱き合って。素肌を重ね合って。幸せで……幸せ過ぎるひとときを満喫していた。
時間が経過するごとに、高嶺への想いと、課長への想いが、整理されていくのを感じる。――そう、時間が解決することもあるのだ。
日付が変わると、課長はわたしにキスをした。「幸せだね……莉子」
あなたのその一言が、わたしの胸のなかで銀の星の海のように広がっていく。きらめくそれらはやがて、わたしのなかで集結し、一体となり、『愛情』というかたちで具現化をする。
「えへへ。幸せ……」
課長のわたしを撫でる手つきはどうしてこんなにもやさしいのだろう。――やっぱり、大好き……。
自分からキスをする。驚くあなたの顔が見たくって。それから……あなたのことを剥き出しにして、めいっぱい貪ってやる。
「あ……莉子。そんな……激しっ……」
――誕生日を迎えたわたしが真っ先にしたことは、あなたを愛しこむことなんだよ。
いつか……おばあちゃんになったときに、笑って振り返られるように。
あなたを口のなかで受け止めると、わたしは、休む間もなく、服を脱ぎ、それから……あなたのことを引き出してやって、それから……生身のからだであなたを飲み込んでいく。
「――ああ、莉子。莉子……っ」
あなたのためになら悪魔にでも妖婦にでもなれる。誰になんと言われようとも――構わない。
いままで、気を遣って必ず避妊をしていたけれど、どうせ午後までには入籍するのだ。生のままのあなたって、どうしてこんなにも気持ちがいいの。
いつになく、大胆になれた。あなたを苦しませたことが分かっている。ごめんね。嫉妬なんかさせて……。
だからね、課長。
わたしのなかに、めいっぱいあなたの愛を、吐き出して……!
それから、空が明るくなってもわたしはあなたとの行為を続け、また眠り……手続きをするのは、お昼過ぎとなってしまった。
* * *
紙切れ一枚だけのこと。それだけのことが、人生を変えることがあるのだ。
拍子抜けするほどに、手続きは簡単だった。役所を出ると、わたしは課長と繋ぐ手を握り締めた。
桐島という苗字に愛着がないわけでもないが……まあ、わたしは職場では『桐島姓』で通すから……『三田』が同じ職場にふたりだと、紛らわしいから――やっぱり、愛する課長と同じ名前になるのは、例えようもない喜びを伴う。――わたし。
三田莉子になりました……!
「えへへ。嬉しいなあ……課長。わたし、あなたと同じ苗字になれたんだよ……」
「おれも嬉しい」わたしと腕を絡ませる課長は、「『おれの家内』なんて言うの、夢だったんだー。あー。嬉しいー」
空は高く澄んでいる。恋人たちの幸せな未来を祝福しているかのように。――ああ、幸せ……!
「写真、撮ろうな莉子」
「うん……!」
携帯でもデジカメでも写真を残した。指輪を嵌めた写真……手のアップなんかも。振り返れば、こんな日もあったのだろうと、懐かしめるように。両親にもメールでじゃんじゃん送った。みんな『おめでとう』と言ってくれた。
いまというひとときが、未来に繋がるひとつひとつの布石なのだ。とめどない幸福という感情を伴う。
課長は、改めてわたしを海辺の……あの思い出のいっぱい詰まった公園に連れ出すと、改めてわたしに向き直り、
「――莉子。愛している……。幸せになろう……」
ぎゅっとわたしを抱き締めた。
* * *
「へえ。そりゃあめでたい! いやぁ、大切な結婚記念日に、うちの店を選んで頂いてそりゃあ、ありがてえ! ――よし! 祝い酒だ! 三田様に祝い酒を振る舞おうぞー!」
シゲさんが、なみなみと酒をグラスに注いでいく。その豪快さに、なんだか笑ってしまう。
――課長と、初めてデートをした、あのお寿司屋さんにて。
シゲさんの声が響いたらしく、シゲさんが、ご結婚おめでとうございます! と言えば、周りのお客さんたちが拍手をしてくれる。……なんだか、嬉しいな。胸がときめいちゃう……。
ありがとうございます、と礼を言い、一口だけ……あのスパークリングの日本酒を一口だけ口にする。
「わぁ。美味しい!」
かっ、と喉が熱くなる。けれど、ぼくちん☆ を召喚するわけにはいかないので、今回はここまででストップ。
課長はわたしを見て笑い、
「好きなひとと美味しいものを食べられるなんて……幸せなんだな。
当たり前のことが、こんなにも幸せだなんてな……」
「ええ」とわたしは刺身に箸を伸ばし、「わたし……もう、一生分の幸せを使い切っちゃったかも」
「なに言ってんの」と課長はグラスを傾け、「まだまだ……もっと幸せになるんだよ。おれたち、一生ずっと一緒に過ごしてさ。じーさんばーさんになったらおこたでみかんを食べるんだ」
わたしはくすりと笑った。「……うち、こたつなんてないじゃないですか」
「惜しいよな。あのマンション、和室がないなんてな……そこだけは惜しい」
「まあ、どうしても欲しいのなら、いずれ買うって手もありますから……」
不動産契約、引っ越しの手続きもぼちぼち進めているところだ。書面での手続きはほぼ完了。あとは、わたしの住んでいたマンションを引き払うのと――実はいまほとんど課長のマンションで暮らしている、だから、あの自分のマンションは引き払うべきなのだが――引っ越し先での家具の購入。課長宅の家具をほぼ使うつもりなのだが、冷蔵庫やソファー辺りは買い替えようと思っている。家具は、課長のご贔屓の家具屋さんがあるので、そこでまとめて購入する予定。
することが山積みだ。
けれど――幸せを伴う。
幸せになるためなら、どんなことだって頑張れる。
それを教えてくれたのは、他ならぬ――課長なのだった。
ふわふわと高揚した気分のなか、わたしは自分の感情を的確に言い表す言葉を探す。「――課長。幸せです……。なんていうか、どう表現したらいいか分からないけれど、とにかく幸せ――です」
「うん。おれも幸せ」わたしの頭をぽんぽんする課長は、「ずっとずっと一緒にいられるんだよな……おれたち。これで、正々堂々と宣言出来る。きみが――好きなんだって」
「……高嶺とわたしを奪い合うこともなく?」
「そこは別枠だな」課長はわたしの小さなジョークに笑った。「荒石くんを入れると驚きの四角関係だぞ。真夏のトライアングル……じゃないや、なんていうんだっけ? クアトロでもないし……」
それから、仲良く談笑し、楽しいひとときを過ごしてから、コンビニでお酒やおつまみを買って帰宅。けども、それに手を出すことはなく……一旦シャワーでからだを洗い流すと、課長は、わたしを姫抱きにして、あのベッドへ運び、すべてを剥き出しにしたわたしのからだに向き合い、……わたしのうえに伸し掛かると、
「莉子。おれ……好き」
わたしの頬を挟み込み、わたしを腰砕けにするキスを与えると、清潔な手のひらでわたしの乳房を包み込み、
「愛しているよ莉子……。おれたち、ずっと一緒だ……ずっとずっと……」
あなたの手でペニスで、究極の絶頂へと押し上げられ、高みのなかでわたしは正確な言葉を探す。この感情を……この想いを表現するに正確たる言葉を。言葉はなんと不自由なのだろう。
「ああ……遼一さん……遼一さん……!」
「――莉子。莉子……!」
真実の愛を前にすると、獣のように人間は変わりうる。野性的にも真摯にもなりうる。その性質を熟知するわたしは……課長の作り上げる波のなかで溺れる、淫らな情欲と化す。
わたしのなかで果てる、課長が愛おしかった。素直で純粋で、真っ直ぐにわたしだけを見てくれている男。こんなに愛されることなど……こんなに、ひたむきに誰かを愛すことなど、この先一生わたしの人生に起こりえないのだろう。課長は、特別で、唯一無二のひと。
一生このひとだけを愛しぬこうと誓った。課長のあまい絶技に溺れながら、わたしは、真実の意味を。自分の生きていく意味というものを、見出していた。
*
前日の夜から、抱き合って。素肌を重ね合って。幸せで……幸せ過ぎるひとときを満喫していた。
時間が経過するごとに、高嶺への想いと、課長への想いが、整理されていくのを感じる。――そう、時間が解決することもあるのだ。
日付が変わると、課長はわたしにキスをした。「幸せだね……莉子」
あなたのその一言が、わたしの胸のなかで銀の星の海のように広がっていく。きらめくそれらはやがて、わたしのなかで集結し、一体となり、『愛情』というかたちで具現化をする。
「えへへ。幸せ……」
課長のわたしを撫でる手つきはどうしてこんなにもやさしいのだろう。――やっぱり、大好き……。
自分からキスをする。驚くあなたの顔が見たくって。それから……あなたのことを剥き出しにして、めいっぱい貪ってやる。
「あ……莉子。そんな……激しっ……」
――誕生日を迎えたわたしが真っ先にしたことは、あなたを愛しこむことなんだよ。
いつか……おばあちゃんになったときに、笑って振り返られるように。
あなたを口のなかで受け止めると、わたしは、休む間もなく、服を脱ぎ、それから……あなたのことを引き出してやって、それから……生身のからだであなたを飲み込んでいく。
「――ああ、莉子。莉子……っ」
あなたのためになら悪魔にでも妖婦にでもなれる。誰になんと言われようとも――構わない。
いままで、気を遣って必ず避妊をしていたけれど、どうせ午後までには入籍するのだ。生のままのあなたって、どうしてこんなにも気持ちがいいの。
いつになく、大胆になれた。あなたを苦しませたことが分かっている。ごめんね。嫉妬なんかさせて……。
だからね、課長。
わたしのなかに、めいっぱいあなたの愛を、吐き出して……!
それから、空が明るくなってもわたしはあなたとの行為を続け、また眠り……手続きをするのは、お昼過ぎとなってしまった。
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紙切れ一枚だけのこと。それだけのことが、人生を変えることがあるのだ。
拍子抜けするほどに、手続きは簡単だった。役所を出ると、わたしは課長と繋ぐ手を握り締めた。
桐島という苗字に愛着がないわけでもないが……まあ、わたしは職場では『桐島姓』で通すから……『三田』が同じ職場にふたりだと、紛らわしいから――やっぱり、愛する課長と同じ名前になるのは、例えようもない喜びを伴う。――わたし。
三田莉子になりました……!
「えへへ。嬉しいなあ……課長。わたし、あなたと同じ苗字になれたんだよ……」
「おれも嬉しい」わたしと腕を絡ませる課長は、「『おれの家内』なんて言うの、夢だったんだー。あー。嬉しいー」
空は高く澄んでいる。恋人たちの幸せな未来を祝福しているかのように。――ああ、幸せ……!
「写真、撮ろうな莉子」
「うん……!」
携帯でもデジカメでも写真を残した。指輪を嵌めた写真……手のアップなんかも。振り返れば、こんな日もあったのだろうと、懐かしめるように。両親にもメールでじゃんじゃん送った。みんな『おめでとう』と言ってくれた。
いまというひとときが、未来に繋がるひとつひとつの布石なのだ。とめどない幸福という感情を伴う。
課長は、改めてわたしを海辺の……あの思い出のいっぱい詰まった公園に連れ出すと、改めてわたしに向き直り、
「――莉子。愛している……。幸せになろう……」
ぎゅっとわたしを抱き締めた。
* * *
「へえ。そりゃあめでたい! いやぁ、大切な結婚記念日に、うちの店を選んで頂いてそりゃあ、ありがてえ! ――よし! 祝い酒だ! 三田様に祝い酒を振る舞おうぞー!」
シゲさんが、なみなみと酒をグラスに注いでいく。その豪快さに、なんだか笑ってしまう。
――課長と、初めてデートをした、あのお寿司屋さんにて。
シゲさんの声が響いたらしく、シゲさんが、ご結婚おめでとうございます! と言えば、周りのお客さんたちが拍手をしてくれる。……なんだか、嬉しいな。胸がときめいちゃう……。
ありがとうございます、と礼を言い、一口だけ……あのスパークリングの日本酒を一口だけ口にする。
「わぁ。美味しい!」
かっ、と喉が熱くなる。けれど、ぼくちん☆ を召喚するわけにはいかないので、今回はここまででストップ。
課長はわたしを見て笑い、
「好きなひとと美味しいものを食べられるなんて……幸せなんだな。
当たり前のことが、こんなにも幸せだなんてな……」
「ええ」とわたしは刺身に箸を伸ばし、「わたし……もう、一生分の幸せを使い切っちゃったかも」
「なに言ってんの」と課長はグラスを傾け、「まだまだ……もっと幸せになるんだよ。おれたち、一生ずっと一緒に過ごしてさ。じーさんばーさんになったらおこたでみかんを食べるんだ」
わたしはくすりと笑った。「……うち、こたつなんてないじゃないですか」
「惜しいよな。あのマンション、和室がないなんてな……そこだけは惜しい」
「まあ、どうしても欲しいのなら、いずれ買うって手もありますから……」
不動産契約、引っ越しの手続きもぼちぼち進めているところだ。書面での手続きはほぼ完了。あとは、わたしの住んでいたマンションを引き払うのと――実はいまほとんど課長のマンションで暮らしている、だから、あの自分のマンションは引き払うべきなのだが――引っ越し先での家具の購入。課長宅の家具をほぼ使うつもりなのだが、冷蔵庫やソファー辺りは買い替えようと思っている。家具は、課長のご贔屓の家具屋さんがあるので、そこでまとめて購入する予定。
することが山積みだ。
けれど――幸せを伴う。
幸せになるためなら、どんなことだって頑張れる。
それを教えてくれたのは、他ならぬ――課長なのだった。
ふわふわと高揚した気分のなか、わたしは自分の感情を的確に言い表す言葉を探す。「――課長。幸せです……。なんていうか、どう表現したらいいか分からないけれど、とにかく幸せ――です」
「うん。おれも幸せ」わたしの頭をぽんぽんする課長は、「ずっとずっと一緒にいられるんだよな……おれたち。これで、正々堂々と宣言出来る。きみが――好きなんだって」
「……高嶺とわたしを奪い合うこともなく?」
「そこは別枠だな」課長はわたしの小さなジョークに笑った。「荒石くんを入れると驚きの四角関係だぞ。真夏のトライアングル……じゃないや、なんていうんだっけ? クアトロでもないし……」
それから、仲良く談笑し、楽しいひとときを過ごしてから、コンビニでお酒やおつまみを買って帰宅。けども、それに手を出すことはなく……一旦シャワーでからだを洗い流すと、課長は、わたしを姫抱きにして、あのベッドへ運び、すべてを剥き出しにしたわたしのからだに向き合い、……わたしのうえに伸し掛かると、
「莉子。おれ……好き」
わたしの頬を挟み込み、わたしを腰砕けにするキスを与えると、清潔な手のひらでわたしの乳房を包み込み、
「愛しているよ莉子……。おれたち、ずっと一緒だ……ずっとずっと……」
あなたの手でペニスで、究極の絶頂へと押し上げられ、高みのなかでわたしは正確な言葉を探す。この感情を……この想いを表現するに正確たる言葉を。言葉はなんと不自由なのだろう。
「ああ……遼一さん……遼一さん……!」
「――莉子。莉子……!」
真実の愛を前にすると、獣のように人間は変わりうる。野性的にも真摯にもなりうる。その性質を熟知するわたしは……課長の作り上げる波のなかで溺れる、淫らな情欲と化す。
わたしのなかで果てる、課長が愛おしかった。素直で純粋で、真っ直ぐにわたしだけを見てくれている男。こんなに愛されることなど……こんなに、ひたむきに誰かを愛すことなど、この先一生わたしの人生に起こりえないのだろう。課長は、特別で、唯一無二のひと。
一生このひとだけを愛しぬこうと誓った。課長のあまい絶技に溺れながら、わたしは、真実の意味を。自分の生きていく意味というものを、見出していた。
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