昨日、課長に抱かれました

美凪ましろ

文字の大きさ
上 下
72 / 103
番外編4 至上の幸せ――多感な莉子SIDE

#EX04-22.恋と友情のはざまで *

しおりを挟む
「あぁん……あん、あん……課長……っ」

「莉子はここが弱いんだよなあ」喜ばしげな声でわたしのヒップを撫でる課長は、「ああ……最高だ。莉子のなかは、たまらない……」

「ひゃっ」

 そう言って、わたしの股のあいだに手を入れ、とめどなく――陰核を刺激する。

 かつ、ぐりぐりと課長の陰茎を押し込まれ、わたしの隠し持つ理性が崩壊する。本能が――暴きだされる。

「ああ……やぁ……っ課長……っ」

 そうして課長は腰を振る。フィニッシュに向けて。やがて――彼は、わたしのなかに精を吐き出す。ひくん、ひくん、ひくん、……と小さくなる彼がわたしのなかで揺れる。絶頂のさなかに受ける吐精が気持ちがいい。

 課長に丁寧に髪を洗って貰い、からだを拭かれるのも同じ。ドライヤーで髪を乾かしたあとは、寝室のあのふかふかベッドに連行されるのも同じ。――でも。

 変わってしまったことがひとつある。――高嶺の出現で。

 高嶺と友達になってから、こころのなかに高嶺が住み着いた。特別。恋――といっても過言じゃないかもしれない。そもそも、そんなに女の子と打ち解ける経験自体がわたしにはほぼ初めてで――誰に対しても壁を作っていたし、だから、女の子との友情の育み方が、いまひとつ分からない。正しいのか……正しくないのかさえも。

 課長の腕に抱かれながらも、実は思い出すのは高嶺のことだったりする。――今頃なにをしているだろう。荒石くんに愛されているのかな。高嶺の住むアパートで。……あそこは壁が薄いから、えっちなんかしたら声がダダ洩れだよ……高嶺。

「じゃあ、おれは、向こう行ってから寝るから。……おやすみ」

「おやすみ……」

 課長は、わたしのこころの変化を感じ取っている。倦怠期――なんて他人事だと思っていたのに。まさに、いまのわたしたちにふさわしい言葉だ。

 セックスはする。キスもする。ハグもする。けれど……。

 わたしのなかでなにかが変わってしまった。日中考えるのが、課長のこと百パーセントだったはずが、いまは半々くらい。酷いことを言うと――課長と一緒のときには、高嶺のことを思い返すことがあるというのに、高嶺と一緒にいるときには課長のことをほとんど思い出さない――。

 こんな感情、味わうのが初めてで。いったいどう、向き合ったらいいのか、分からない。

 なにが――正しいのか。正義なのか。

 それにしても、宅にいるあいだは四六時中べったりだったのにいまはどうだ。向こうから聞こえる音声。テレビでも……見ているのかな。どうしてわたしを誘わないんだろう。ひとりで……考える時間を与えるため。

 課長は聡いひとだから分かっている。わたしのなかでなにが起きているのかを。そして……結論を弾き出すそのときを待っている。

 分かっている。高嶺は、あくまで女性だ。最高の友達。そもそも彼女には、立派な、荒石くんという彼氏がいるのだから、結婚前のわたしが、高嶺に特別な感情を抱くこと自体が異常なのだ。

 別に、どうしたいというのはない。ただ……強くシンパシーを感じる。お互い、姉妹がいないせいかもしれない。女の子ならではのことを共有出来る。コスメ。ヘアスタイル。自分をちょっと可愛く見せる小悪魔メイクの仕方。流行りのアイグロスの使い方。ヨガ。姿勢……自分を綺麗に見せるための方法。

 課長が知らない、一連の研究成果を発表してくれる高嶺は、わたしにとっての大事な先生だ。いつの間にかわたしは彼女に――心酔している。ファッションコーディネート役も、いつしか課長から、高嶺へと変わっていた。

 課長は――このことをどう思っているのだろう。分からない。面白くない……よね?

 だったらわたしは、高嶺を遠ざければいいのに。でも、日々愛らしい彼女から目が離せない。なまじっか、最初のインパクトが強烈だっただけに。

 人間は、誰しも裏の顔を持つ。あのトラウマ経験から、わたしはそのことを学習した。あの男だって――わたしを痛めつけたあの男だって、飲み屋では、嬉々としてサッカーを語る、ごく普通の、そこらへんにいる青年だった。それが――だ。

 だから、わたしは安心したのかもしれない。

『だからあたしは訂正する。

 ……かつて、あなたのことが、大嫌いだったと……』

 ああやって告白されたことによって。――人間なんて、表面上は普通を装っていても、裏ではなにを考えているか分からない。だから、『大嫌い』と本音を吐露された瞬間、彼女への、みずみずしい情愛が、わたしのなかで色づいた。とんだマゾだって話だけれど。

 生まれて初めて出来たソウルメイト。高嶺といると本当に、楽しい。暗い話をすることもあるけれど、基本的にわたしは笑ってばかりいる。高嶺は――暗い話をしても、不思議とその表情は明るい。苦しみを乗り越えた人間だけが見せられる顔――それに、わたしは魅せられている。

 携帯を手に取った。わたしはメールを送信する。

『いま、なにしてる?』

 すぐさま返信があった。『テレビ見てる。莉子は?』

『寝てる』

『ね。電話してもいい?』

『いいよ』

 それから数秒足らずで着信があり、わたしはからだを起こした。「高嶺……。早かったね。荒石くんは?」

『んーなんか寝てる。疲れちゃってるみたいだね。子どもみたいに、二十二時に寝ちゃって、あたし、暇』

「そっかぁ。じゃあ、なんか……喋る?」

『なんの話がいいかな。キャベツにベーコンを巻いた宇宙人の話? それとも、結婚式のドレスに莉子が何色を選ぶのか……について?』

「いよいよだね」とわたしはくすくす笑う。「なんか……楽しみだなあ。結婚式って出席したことしかないからさ……。ああやってみんなに喜んで貰えるのって幸せ……だよね」

『あたしもすごい楽しみー。莉子がどんなドレスを選ぶのか。……ね。何色にしたいって希望はあるの?』

「やー特に全然。パステルカラーがいいかなって程度……」

『じゃあ、あたし、手伝うよ。課長もタキシード着るんでしょう? ばしばし写真撮ったげる。カメラは持ってる?』

「あ……課長がデジカメを」

『そしたらあたしはカメラマンだね』得意げに笑う高嶺の顔が目に浮かぶ。『よっしゃー。なんか燃えてきたー』

「ありがとね。高嶺……。課長は課長でセンスがいいんだけれど、こういうのってさ。やっぱり女の子がいないと……分からないじゃない? どういうのがいいのかって……」

『莉子のお母さんは来たりしないの?』

「やー全然。そもそもあのひと、娘の結婚式なのに不干渉だしさ。『好きなようになさい』ってそればっか。だから、説明するのやんなって、あんまりしてない……。

 そもそもうちの母、父方のお祖父ちゃんに口出しされて、自分が嫌な思いをしたから、同じ思いをわたしにはさせたくないんだって」

『課長のご家族は? お母様とか……』

「あー綾音ちゃんが、受験生だから、そっちに気を遣ってるみたい……。誘いはしたんだけどね。でも、『遠慮しとく』って。綾音ちゃんが大変なときに、呑気に息子の婚約者の試着に出かけるのも……微妙じゃない? それに、綾音ちゃんのときを楽しみにしているみたいで……楽しみは取っておきたいんだって」

『そっかあじゃああたし頑張らなきゃだな』力を得たように高嶺は、『……うん。頑張るよ。莉子、結構孤独なんだね? 困ったとき、相談出来るひとはいる? 結婚式絡みで……』

「ううん」とわたしが正直に答えると、じゃあ、と高嶺は、

「あたし――出来るだけのことをするよ。莉子のために。〇クシィ熟読して、結婚式のエキスパートになるんだ!」

 明るい高嶺の声の調子に、笑みを漏らす。「いいけど……高嶺のほうこそ、大変じゃない? 荒石くんと、まだつき合いたてで、いい時期じゃない……。課長の言った通りで、二人っきりの時間を楽しんだほうがいいよ……」

『でもあたしは――莉子を、助けたい』

 しん、とした静謐な部屋に彼女の声が響いた。真剣な調子をもって。

『そりゃ、経験者じゃないから、力にはなれないかもしれないけれど。でも、親友が困ってるときに放っておけるほど、おめでたい人間にはなりたくないよ……。

 ねえ莉子。頑張るならあたしが一緒。あたしたち……親友でしょう?』

 ――そんなふうに思ってくれていたとは。てっきり……会社の同僚レベルかと思いきや、『親友』。甘酸っぱい単語がわたしのこころを満たす。

 高嶺のこころに触れれば触れるほど、課長へのとめどない愛が希釈されていく。わたし……いったい誰が好きなんだろう。自分で自分が分からなくなってくる。確かなのは……ただ。

 課長も、高嶺も、大切なひと。唯一無二の存在だということ……それだけだ。

 耳に当てる携帯が熱い。胸がどきどきする。――親友。そっか。高嶺、わたしのことを親友だと思ってくれているなんて。友達からそんなことを言われるのは初めてだ。嬉しい。嬉しい……。

「親友なんて出来るのわたし、初めてだよ……」

『うんあたしも』明るい高嶺の声。『こんなに、こころを許せる相手に出会えるの初めてで……。そっか、あたしたち似ているんだね。姉妹もいないし、孤独で……表と裏の顔を使い分けている。そこも同じ』

「そうだね」と笑った。「じゃあ、そろそろ寝るね。明日はよろしくね。おやすみなさい……」

 眠る前までずっと高嶺のことを考えていた。きっと……ドレス選びがどんなに楽しくなるだろうと。

 愚かなこのときのわたしは考えもしなかったのだ。いったい課長がどんな気持ちで、この会話を聞いていたかなど。

 *
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...