36 / 103
番外編3 「直後」のふたり――敏感な莉子SIDE
#EX03-16.トラウマ克服と初めての *
しおりを挟む
もっちりとしたナンに、スパイシーなインドカレーの風味が合わさってううん――たまらない!
お口のなかにナンのあまみと、インドカレーの辛みが広がってあああ、最高……!
美容室でカットとパーマを済ませたあと、銀座駅に行く途中で電車を降り、インドカレーの店に来ている。今日は夜もお外で食べるから、控えめに。そこまでボリュームのないものがいいね、と話し合って調べたらこちらの店がヒットした。課長も美味しいと言いながら食べている。
ラッシーでお口に残る辛みを癒していると、課長が、
「……聞いてもいい?」
「はい」
「ずっと気になっていたんだけど、洋服。普段から、白のワイシャツと黒のタイトスカート着るのってなにか……理由がある? あ、辛い理由だったらごめんね。もしかしたらそうかもしれないとは思うけれど、ただ、話してみて楽になることってあると思うから……新しく洋服買う前にそこクリアにしておきたくてね」
相変わらずの課長の洞察力には驚かされる。――確かに。わたしは普段から、白のワイシャツと黒のタイトスカートばかり着ている。まるで、男のひとがスーツを着るかのように。それ以外の手持ちの服は、クラシカルな紺のワンピース。課長と結ばれた日に着ていたもの、……それから課長と結ばれた翌日に着ていた、レモンイエローのニットと淡いグレーのプリーツスカート。結婚式みたいだった飲み会で着たシャツワンピ以外だと上下二着、シャツとパンツがある程度だ。……課長と会うときはスカートを履くのが鉄則。股のあいだに滑り込む彼の手が愛おしいから……。
わたしは課長の目を見て答える。
「大学時代はもうちょっと露出の多い格好していたんですけど。……電車で何度か痴漢に遭いまして」
ああ、と課長の顔が歪む。「ごめん。そうか。……辛いこと思い出させちゃってごめんね」
「それで、……地味目な格好とか、あるときはダサダサな格好すれば遭わないこともあって。……社会人になってからも遭ったことはあるんですけど。だから女性専用車両選んだりして。パンツ履いてれば平気かなって思ってたら、お尻撫でられることもあって……いやで。いやでたまらなくて。
なにも出来なかったんですよね。悔しいですけど。こっちは急いでるし。仕事もあるし期限もあるし……なんとなくですけど、同じスタイルで武装すれば、いろんなパターン試してがっかりすることもなく、守られる感じがしたんですよね。会社に着いても弱い自分が消えて、強い自分が現れる気がするんです。わたし、……会社でも男の人は怖かったですし。相手を人間ではない、機械だと思って接することもありました。
……あ、最近は全然です。若い男性には近寄らないようにしていますし、それにいまは、課長がいますから……」
「気づいてやれなくてごめん」課長はわたしの手に自分のそれを重ね、「これからは、おれが守るから。月曜日も一緒の電車に乗ろう。たぶん同じ電車乗ってると思うから……早めに出社するときはごめんね?」
「分かりました。……あの、でも、課長が背負うことじゃないですよ? 悪いのは、若い女性狙って痴漢する野郎ですし」
「でも、その話聞いたからにはひとりにはしておけないな。帰りはおれのほうが帰宅は遅いけれど、……うん。出来るなら帰りも一緒に帰りたいが――」
「大丈夫ですわたし」とわたしは力強く答える。「帰りなら、基本定時帰りですし、急いでませんから。仮に痴漢に遭っても、そいつの首根っこ引っ掴んで、駅員さんに突き出してやります。
……わたし、思ったんです。
わたしのからだって、わたしひとりのものじゃないんだなって。
課長にあんなに愛されると、すごく……自分のからだって大切なんだなって気づいて。いまは、指一本、他のどの異性にも、触られたくないです。
それに、わたしは経験してませんですけど、……妊娠や出産って、大変だと聞きます。生まれてくるだけで奇跡なんですよね。それを思うとなおのこと、親から貰った――ご先祖様が繋いできた命を大切にしたいなって、そう思うんです……」
「莉子。きみは、変わったね……」目を潤ませる課長はエモーショナルに、「すごく……強くなった。おれは嬉しい。人前でも自分の強い意志を、しっかりと表明出来る女の子になった。おれは、嬉しい」
「課長がわたしを強くしたんです。課長に守られているから――課長に愛されているから、強くなれる」
「飲み終わったら銀座向かおうと思ったんだけど……ごめんね莉子。不謹慎で。その……おれ……」
何故か顔を赤くする課長に、「なんですか」
「店を出たら立ち寄りたいところがあるんだ。……つき合ってくれる?」
深く考えずわたしは答えた。「ええ。課長とならどこにだって行きます」
* * *
『そういう建物』は、どこにでもあるのか――と、わたしは感心してしまう。
入り口で明るいパネルがあるので、いろんなパターンのなかから部屋を選ぶ。「ここでいい?」
よく分からないけれど、わたしは「はい」と答えた。
続いて、鍵を取り出す。受付が顔が見えない仕様なのはなるほどな、とは思った。確かに、いらっしゃいませーと、ホテルマンなんかに出迎えられたら、不可思議な気分になってしまうかもしれない。誰にも見られてはならない、いけないことをしていることへの背徳感。この背徳感こそが部屋に辿り着くまでの恋人同士を燃え上がらせるのだ。
課長の足取りは速かった。ずんずん前を進み、エレベーターに乗るとボタンを押し、降りると――廊下を進み、部屋へと直行する。
部屋に入り、ドアに鍵をかけるなり、課長がわたしの唇を激しく貪った。唇を離すと、「莉子……ああ、ごめん。おれ、実は……きみの新しい髪型を見た瞬間欲情していた。電車のなかでも辛くって、いつ……気づかれやしまいかと。気が気じゃなかったんだ……」
課長はわたしの突き出たバストを手で包み、息を荒くすると、
「挿れたい……」とかちゃかちゃとベルトに手をかけ、「きみのなかに入りたい……もう、我慢出来ない」
「いいですよ」とわたし。くるりと背を向け、「わたし、バックが好きなので。挿れていいです。激しくしちゃって平気です」
実を言うと課長のキスだけですっかり濡れている。むしろわたしのほうが我慢出来ない。おそらく課長は――わたしの背後で装着すると、
「ポケットに常備しているおれを軽蔑しないでくれよ……莉子」余裕がないらしい。ストッキングごとわたしのパンティを引き下げると、課長は、「おれは、きみと一緒にいるとき、正直ね……いつも、莉子のなかに入りたいなって考えている。おれを気持ちよくさせる莉子とひとつになって、きみの――淫らな声を聞きたい。感じやすいその肉体を味わい尽くしたいと――そう考えている」
スカートがまくりあげられる。冷えた空気に出迎えられた直後、課長がまっすぐ――入り込んできた。
「いや、や……」勿論いやという意味ではない。狭い道を突き進む課長の熱い、太い肉塊がわたしを刺激する。どうしよう、すごく感じる……!
「――や、あ、ああ……っ!」
壁に手をつき、あまりの快楽に耐えた。崩れそうなからだは、課長がしっかりと、わたしのバストを包むことで支えてくれている。――挿入されただけで即イキ。わたしのからだって、どうなっているのだろう……。
「ふふ……びくびく言ってる莉子」髪を流し、うなじをきつく吸い上げる課長は、「おれの証を莉子のからだにいっぱい残してあげる。感じてる? 感じやすい莉子のことがおれは――大好きだよ」
その言葉を皮切りに、課長は激しいセックスを開始した。
* * *
「ひっ……あっ……あっ……あっ……」
ばちばちと課長の肉欲をぶつけられ、応える自分の精神及び肉体。四つん這いで――すっぱだかで、性に取りつかれた獣となって、課長のありあまる愛を受け止めている。
「莉子……はっ……莉子……莉子ぉっ……!」
どうしてこういうときに、相手の名前を呼びたくなるのだろう。人間ならではの特性か。動物なら呼ばないだろうに。
場所が場所なだけに、淫らな気持ちを駆り立てる。丸いベッド。鏡張りの天井。淫靡な雰囲気――どれもが、恋人たちを追い込む要素と化す。そのためにこの場所は用意されている。
ある段階に至るととうとう、わたしは崩れた。上体を――いつもとは違う、課長の匂いのしないベッドに預ける。それでも課長はわたしを追いかけてくる。
「課長……ああ、課長……大好き……」
涙ながらにわたしは叫ぶ。「――遼一さん!」
その瞬間、熱い課長の精がわたしのなかで広がった。完璧なタイミング。課長は――からだを崩し、しっかりと体重を預けてくる。背中で味わう限り、課長の鼓動は速く――息も荒い。課長が感じていることが――気持ちよくなってくれていることが、わたしには嬉しかった。
* * *
こういうところに来るのは初めてだけれど、……わーお。バスタブに湯が張られていて虹色に光って綺麗。しかも、壁がガラス。スケッスケ。風呂に入る彼女を男が見て欲情するという構図か。なるほど。
わたしがシャワーを浴びていると課長が入ってきた。いくら見られ慣れているとはいえ、恥ずかしい。「課長……あまり見ないで」
見れば、課長のペニスは立ち上がっている。ずんずんわたしの前に進むと課長は、
「莉子……とってもきれいだ」頬を撫でるとキスをくれ、「おれね。莉子を見るたびに恋をしている。毎日ね。どんどん美しくなっていくきみから目が……離せない。おいで。莉子……」
課長は湯に足を入れると、
「いちゃいちゃしよう」
* * *
電車に乗るわたしの胸のうちには、言いようのない感情が広がっていた。ラブホテル。背徳的な場所だ。外ではよそゆきの顔をしているのに、あの秘密の建物のなかでわたしたちはあんなにも愛し合っていた。何度も、何度も……。ひょっとしたら、通りすがるひとが、それを見抜いて、「あ、あのふたりヤりまくってきたやつらだ!」……なんて指をさされはしまいかとつい――心配してしまう。
隣に立つ課長を盗み見た。課長は、いつもの顔に戻っていた。そう、通勤電車に乗るときの顔つきと変わらない。見事に切り替えて……なのに、わたしといったら。あれだけ愛しこまれたのに、まだ……。しようとすればセックス出来る自分を、持て余している。ああ、ここが電車じゃなかったらな……。
と思ったときに、わたしは痴漢行為をする人間のからくりに気づいた。彼らもまた、欲望を持て余しているのだ。無論、求めてもいない――愛してもいない、見知らぬ女性の尊厳を冒涜することなど絶対にあってはならないが。ただ――相手も欲望を持て余す同じ人間なのだと知ると、腑に落ちた。聡い課長のことだから、そこまで計算してのことかもしれない。わたしは、わたしと繋がないほうの手で吊革に捕まる課長を見上げた。
「ん。どうした」
「いえ。課長ってすごいなって……改めて思い知らされました」
「なんだそれ」目尻に皺を溜めて課長が笑った。「莉子って時々面白いこと言うよなあ? まあ、おれは……」
言って課長は身を屈めると、
「莉子のそういうところも大好きなんだけどなあ」
――あのときだけに聞かせる声の響きに、たまらず子宮が疼いた。正直……いますぐに挿入して欲しい。
わたしの胸中見抜いてか、ぽんぽん、と課長はわたしの頭を撫でて、
「続きは帰ってからな」と微笑んだ。……ひどいひと。わたしをこんな淫らなケダモノに作り替えて……あなたの目を見るだけで胸の奥がきゅっと締まる。キスだけで絶頂。挿入だけで絶頂。数え切れないほどの高みに追いやるあなたって本当に残酷なひと。
わたしがかるく課長を睨みつけると課長は、頭をかいて笑った。
「参ったな。そういう莉子の顔もまた、好きでたまらない」
*
お口のなかにナンのあまみと、インドカレーの辛みが広がってあああ、最高……!
美容室でカットとパーマを済ませたあと、銀座駅に行く途中で電車を降り、インドカレーの店に来ている。今日は夜もお外で食べるから、控えめに。そこまでボリュームのないものがいいね、と話し合って調べたらこちらの店がヒットした。課長も美味しいと言いながら食べている。
ラッシーでお口に残る辛みを癒していると、課長が、
「……聞いてもいい?」
「はい」
「ずっと気になっていたんだけど、洋服。普段から、白のワイシャツと黒のタイトスカート着るのってなにか……理由がある? あ、辛い理由だったらごめんね。もしかしたらそうかもしれないとは思うけれど、ただ、話してみて楽になることってあると思うから……新しく洋服買う前にそこクリアにしておきたくてね」
相変わらずの課長の洞察力には驚かされる。――確かに。わたしは普段から、白のワイシャツと黒のタイトスカートばかり着ている。まるで、男のひとがスーツを着るかのように。それ以外の手持ちの服は、クラシカルな紺のワンピース。課長と結ばれた日に着ていたもの、……それから課長と結ばれた翌日に着ていた、レモンイエローのニットと淡いグレーのプリーツスカート。結婚式みたいだった飲み会で着たシャツワンピ以外だと上下二着、シャツとパンツがある程度だ。……課長と会うときはスカートを履くのが鉄則。股のあいだに滑り込む彼の手が愛おしいから……。
わたしは課長の目を見て答える。
「大学時代はもうちょっと露出の多い格好していたんですけど。……電車で何度か痴漢に遭いまして」
ああ、と課長の顔が歪む。「ごめん。そうか。……辛いこと思い出させちゃってごめんね」
「それで、……地味目な格好とか、あるときはダサダサな格好すれば遭わないこともあって。……社会人になってからも遭ったことはあるんですけど。だから女性専用車両選んだりして。パンツ履いてれば平気かなって思ってたら、お尻撫でられることもあって……いやで。いやでたまらなくて。
なにも出来なかったんですよね。悔しいですけど。こっちは急いでるし。仕事もあるし期限もあるし……なんとなくですけど、同じスタイルで武装すれば、いろんなパターン試してがっかりすることもなく、守られる感じがしたんですよね。会社に着いても弱い自分が消えて、強い自分が現れる気がするんです。わたし、……会社でも男の人は怖かったですし。相手を人間ではない、機械だと思って接することもありました。
……あ、最近は全然です。若い男性には近寄らないようにしていますし、それにいまは、課長がいますから……」
「気づいてやれなくてごめん」課長はわたしの手に自分のそれを重ね、「これからは、おれが守るから。月曜日も一緒の電車に乗ろう。たぶん同じ電車乗ってると思うから……早めに出社するときはごめんね?」
「分かりました。……あの、でも、課長が背負うことじゃないですよ? 悪いのは、若い女性狙って痴漢する野郎ですし」
「でも、その話聞いたからにはひとりにはしておけないな。帰りはおれのほうが帰宅は遅いけれど、……うん。出来るなら帰りも一緒に帰りたいが――」
「大丈夫ですわたし」とわたしは力強く答える。「帰りなら、基本定時帰りですし、急いでませんから。仮に痴漢に遭っても、そいつの首根っこ引っ掴んで、駅員さんに突き出してやります。
……わたし、思ったんです。
わたしのからだって、わたしひとりのものじゃないんだなって。
課長にあんなに愛されると、すごく……自分のからだって大切なんだなって気づいて。いまは、指一本、他のどの異性にも、触られたくないです。
それに、わたしは経験してませんですけど、……妊娠や出産って、大変だと聞きます。生まれてくるだけで奇跡なんですよね。それを思うとなおのこと、親から貰った――ご先祖様が繋いできた命を大切にしたいなって、そう思うんです……」
「莉子。きみは、変わったね……」目を潤ませる課長はエモーショナルに、「すごく……強くなった。おれは嬉しい。人前でも自分の強い意志を、しっかりと表明出来る女の子になった。おれは、嬉しい」
「課長がわたしを強くしたんです。課長に守られているから――課長に愛されているから、強くなれる」
「飲み終わったら銀座向かおうと思ったんだけど……ごめんね莉子。不謹慎で。その……おれ……」
何故か顔を赤くする課長に、「なんですか」
「店を出たら立ち寄りたいところがあるんだ。……つき合ってくれる?」
深く考えずわたしは答えた。「ええ。課長とならどこにだって行きます」
* * *
『そういう建物』は、どこにでもあるのか――と、わたしは感心してしまう。
入り口で明るいパネルがあるので、いろんなパターンのなかから部屋を選ぶ。「ここでいい?」
よく分からないけれど、わたしは「はい」と答えた。
続いて、鍵を取り出す。受付が顔が見えない仕様なのはなるほどな、とは思った。確かに、いらっしゃいませーと、ホテルマンなんかに出迎えられたら、不可思議な気分になってしまうかもしれない。誰にも見られてはならない、いけないことをしていることへの背徳感。この背徳感こそが部屋に辿り着くまでの恋人同士を燃え上がらせるのだ。
課長の足取りは速かった。ずんずん前を進み、エレベーターに乗るとボタンを押し、降りると――廊下を進み、部屋へと直行する。
部屋に入り、ドアに鍵をかけるなり、課長がわたしの唇を激しく貪った。唇を離すと、「莉子……ああ、ごめん。おれ、実は……きみの新しい髪型を見た瞬間欲情していた。電車のなかでも辛くって、いつ……気づかれやしまいかと。気が気じゃなかったんだ……」
課長はわたしの突き出たバストを手で包み、息を荒くすると、
「挿れたい……」とかちゃかちゃとベルトに手をかけ、「きみのなかに入りたい……もう、我慢出来ない」
「いいですよ」とわたし。くるりと背を向け、「わたし、バックが好きなので。挿れていいです。激しくしちゃって平気です」
実を言うと課長のキスだけですっかり濡れている。むしろわたしのほうが我慢出来ない。おそらく課長は――わたしの背後で装着すると、
「ポケットに常備しているおれを軽蔑しないでくれよ……莉子」余裕がないらしい。ストッキングごとわたしのパンティを引き下げると、課長は、「おれは、きみと一緒にいるとき、正直ね……いつも、莉子のなかに入りたいなって考えている。おれを気持ちよくさせる莉子とひとつになって、きみの――淫らな声を聞きたい。感じやすいその肉体を味わい尽くしたいと――そう考えている」
スカートがまくりあげられる。冷えた空気に出迎えられた直後、課長がまっすぐ――入り込んできた。
「いや、や……」勿論いやという意味ではない。狭い道を突き進む課長の熱い、太い肉塊がわたしを刺激する。どうしよう、すごく感じる……!
「――や、あ、ああ……っ!」
壁に手をつき、あまりの快楽に耐えた。崩れそうなからだは、課長がしっかりと、わたしのバストを包むことで支えてくれている。――挿入されただけで即イキ。わたしのからだって、どうなっているのだろう……。
「ふふ……びくびく言ってる莉子」髪を流し、うなじをきつく吸い上げる課長は、「おれの証を莉子のからだにいっぱい残してあげる。感じてる? 感じやすい莉子のことがおれは――大好きだよ」
その言葉を皮切りに、課長は激しいセックスを開始した。
* * *
「ひっ……あっ……あっ……あっ……」
ばちばちと課長の肉欲をぶつけられ、応える自分の精神及び肉体。四つん這いで――すっぱだかで、性に取りつかれた獣となって、課長のありあまる愛を受け止めている。
「莉子……はっ……莉子……莉子ぉっ……!」
どうしてこういうときに、相手の名前を呼びたくなるのだろう。人間ならではの特性か。動物なら呼ばないだろうに。
場所が場所なだけに、淫らな気持ちを駆り立てる。丸いベッド。鏡張りの天井。淫靡な雰囲気――どれもが、恋人たちを追い込む要素と化す。そのためにこの場所は用意されている。
ある段階に至るととうとう、わたしは崩れた。上体を――いつもとは違う、課長の匂いのしないベッドに預ける。それでも課長はわたしを追いかけてくる。
「課長……ああ、課長……大好き……」
涙ながらにわたしは叫ぶ。「――遼一さん!」
その瞬間、熱い課長の精がわたしのなかで広がった。完璧なタイミング。課長は――からだを崩し、しっかりと体重を預けてくる。背中で味わう限り、課長の鼓動は速く――息も荒い。課長が感じていることが――気持ちよくなってくれていることが、わたしには嬉しかった。
* * *
こういうところに来るのは初めてだけれど、……わーお。バスタブに湯が張られていて虹色に光って綺麗。しかも、壁がガラス。スケッスケ。風呂に入る彼女を男が見て欲情するという構図か。なるほど。
わたしがシャワーを浴びていると課長が入ってきた。いくら見られ慣れているとはいえ、恥ずかしい。「課長……あまり見ないで」
見れば、課長のペニスは立ち上がっている。ずんずんわたしの前に進むと課長は、
「莉子……とってもきれいだ」頬を撫でるとキスをくれ、「おれね。莉子を見るたびに恋をしている。毎日ね。どんどん美しくなっていくきみから目が……離せない。おいで。莉子……」
課長は湯に足を入れると、
「いちゃいちゃしよう」
* * *
電車に乗るわたしの胸のうちには、言いようのない感情が広がっていた。ラブホテル。背徳的な場所だ。外ではよそゆきの顔をしているのに、あの秘密の建物のなかでわたしたちはあんなにも愛し合っていた。何度も、何度も……。ひょっとしたら、通りすがるひとが、それを見抜いて、「あ、あのふたりヤりまくってきたやつらだ!」……なんて指をさされはしまいかとつい――心配してしまう。
隣に立つ課長を盗み見た。課長は、いつもの顔に戻っていた。そう、通勤電車に乗るときの顔つきと変わらない。見事に切り替えて……なのに、わたしといったら。あれだけ愛しこまれたのに、まだ……。しようとすればセックス出来る自分を、持て余している。ああ、ここが電車じゃなかったらな……。
と思ったときに、わたしは痴漢行為をする人間のからくりに気づいた。彼らもまた、欲望を持て余しているのだ。無論、求めてもいない――愛してもいない、見知らぬ女性の尊厳を冒涜することなど絶対にあってはならないが。ただ――相手も欲望を持て余す同じ人間なのだと知ると、腑に落ちた。聡い課長のことだから、そこまで計算してのことかもしれない。わたしは、わたしと繋がないほうの手で吊革に捕まる課長を見上げた。
「ん。どうした」
「いえ。課長ってすごいなって……改めて思い知らされました」
「なんだそれ」目尻に皺を溜めて課長が笑った。「莉子って時々面白いこと言うよなあ? まあ、おれは……」
言って課長は身を屈めると、
「莉子のそういうところも大好きなんだけどなあ」
――あのときだけに聞かせる声の響きに、たまらず子宮が疼いた。正直……いますぐに挿入して欲しい。
わたしの胸中見抜いてか、ぽんぽん、と課長はわたしの頭を撫でて、
「続きは帰ってからな」と微笑んだ。……ひどいひと。わたしをこんな淫らなケダモノに作り替えて……あなたの目を見るだけで胸の奥がきゅっと締まる。キスだけで絶頂。挿入だけで絶頂。数え切れないほどの高みに追いやるあなたって本当に残酷なひと。
わたしがかるく課長を睨みつけると課長は、頭をかいて笑った。
「参ったな。そういう莉子の顔もまた、好きでたまらない」
*
0
お気に入りに追加
1,205
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる