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番外編1 彼女がおれに振り向くまで――純情な課長SIDE
彼女の真実・そして―― *
しおりを挟む想いを確かめ合う恋人同士は、世界中の誰よりもきっと幸せだ。
おれは、彼女の鼓動とそして、震えを感じていた。
腕の力を緩め、彼女の内面に流れる感情を確かめにかかる。
彼女は――
おれの頬に触れ、
そっと自分からキスをした。
それが彼女の答えだと分かった。刹那、衝動が走る。おれはその勢いに身を任せた。
彼女の舌は甘く、とても柔らかかった。おれの欲望に対し控えめな反応を見せる。絡ませると彼女の背中が揺れた。ああ気持ちいいのかと、その動きだけで分かりおれはさらに畳み掛けた。
彼女のからだが官能に震える。おれは彼女の反応をひとつひとつ確かめながら、自分の想いを、行動で伝えた。
「莉子。おれ――」
自分の吐く息が、荒い。
彼女の息は熱い。熱っぽく潤んだ瞳で、おれのことを、待ってくれている。
おれは、自分の直情的想いを言葉にして彼女へと、放った。
「止められない。
止めるつもりも、ない。
受け入れてくれるか、おれのこと」
傷ついた彼女が、受け入れてくれるのか、果たして不安だったが――
彼女はおれを見据え。
首を縦に振った。
* * *
女を初めて脱がせる時間とは、とても尊い一瞬のように思える。
彼女はおれが脱がせやすいよう、手伝ってくれた。その不慣れな感じがなんとも、愛おしかった。
初めて性に目覚めさせる最初の男になる――それはとても、勇気のいることだった。
果たして自分にちゃんとできるのかという不安も、すこしはあった。だが、それよりも。
真実の彼女に触れられることへの喜びのほうが、大きかった。
場所をソファからベッドに移した。
慎重に、しようと思った。焦らず逸らず彼女の気持ちを確かめながら――
片手で乳房に触れ、もう片方の手で尻をなぞる。なんとも言えない感覚なんだろう、彼女は、目をつぶる。
おれは彼女に命じた。
「――莉子。
こっち向いて。
感じてる顔、もっとおれに見せて……」
彼女の眉間に皺が寄る。
「まだなにか考えてる」
おれが指摘して乳房を握ると、きゃっ、と彼女は叫んだ。
黒い目が開く。
怒りと官能の入り交ざった目でおれを睨みつける。
その顔が、たまらなくよかった……。
おれは、ゆっくりと彼女のからだを倒し、彼女のうえに覆いかぶさる。真剣に彼女を愛したかった。
伸し掛かられるのに抵抗はないだろうか。確認を入れると、彼女は、
「わたし。課長の重みを、感じていたいんです……」
嬉しいことを言ってくれる。
「莉子……」
「遼一、さん……」彼女の声はとても綺麗だった。
それだけじゃない、もっといろんな声を引き出させたかった。
遠慮がちな彼女の本音を、もっと。
おそらく彼女は、自分が不感症なのではないかと心配している様子だったが、それはとんでもない間違いだった。
むしろ彼女は感じやすいからだを有していた。彼女に罪は無い。相手の男が悪かっただけだ。
おれは彼女の乳房に触れただけでそのことを悟った。
感じやすいパーツはひとりひとり違う。丹念に、探っていった。
彼女は、尖端がどうやら弱い。そのことを確認しながら、充分に柔らかくし、彼女の状態を熟成させてから、
舌で、舐めた。
ぴくっと腰が揺れる。やはり弱いと見た。
もう一度触れると、おれの頭を抱え込み、こらえようとしている様子。その顔もなかなかそそられるが。
素直な、彼女が、見たかった。
彼女の喉が歓喜に震えていた。おれは、その喉に口を寄せ、そっと噛み――
「感じるままでいいよ、莉子。
莉子の声、もっと聞かせて……」
彼女の本音を、うながした。
乳房。
肩。
鎖骨。
顎の先。
耳たぶの裏。
白い首筋。
上半身のいろんなところを確認する。すべらかな皮膚をなぞり、そっと指先で感じやすいパーツをたどっていく。舌で舐めて確かめてみる。
彼女の感度が高まっていくのが分かる。おれはその瞬間を、逃したくなかった。
第一、上半身なんかだけじゃ、物足りなかった。
おれは、確認を入れる。
「莉子」
恍惚としていたかに見えた彼女が、顔を起こす。
おれがなにを言うのかを待つ彼女。
初めて見たときの彼女の美しさをおれは目の当たりにしている。
「おれ、きみに触れていいか。
触れるとたぶん――引き返せない」
彼女の、両の目から涙がこぼれる。透明で、彼女のこころのように綺麗だった。「わたしに、課長を、信じさせて……」
彼女の純真がおれに染みこんでいく。
たからものだと思った。
守りぬきたいと思った。
「莉子……」おれは彼女の涙を拭った。「やさしく……するから。
おれを、信じて」
彼女は、濡れていた。彼女が思うよりも『そのとき』が近いだろうことをおれは悟り、ためらいなく、攻めた。
おれに身を預ける彼女がおれにしがみつく。「……課長、わたし……」彼女は、首を横に振る。「……だめ、どうしよう、わたし……」
「……大丈夫だ、信じて、おれを」
初めての予感に震える彼女。
おれは彼女を導けるという喜びに駆られながら。
目を閉じ意識を飛ばす彼女を見守りながら。
頭を倒しあらわとなる白い喉仏を見据えながら。
背中を弓なりにし、
痙攣する彼女。
初めての余波に震える彼女を刺激せぬよう、そっと抱きしめたのだった。
* * *
おれは、それだけで充分だと思っていた。
彼女の過去は、聞いた。性急に進めてはならないと、思った。だが彼女は――
絶頂が落ち着くと、おれの着ているシャツに手をかける。
「莉子。脱がされるとおれたぶん、制御できない」
なのに、彼女は手を止めず。
おれをトランクス一枚にした。のみならず。
屹立するそれをじっと見て「課長――」
「うん」
「触れても、いいですか」
おれの尖端を親指で撫でた。それだけで電流が走る。――感じやすいのはおれのほうも同じだ。どうやら彼女をいたらしめることに集中したあまり、相当溜め込んだらしい。
油断するとすぐいきそうだ。
しかし、彼女は、仕事をするときのような真顔でおれをむき出しにし、
いきなり、しごきだした。
その行動にはさすがにちょっと慌てた。「莉子、ちょっ、それ」
「へ?」彼女は手を止める。親指でまたもぐりっ、とされ、おれはあえいだ。
呼吸を落ち着かせて、おれは、
「……そこまでしてくれるわけ?」
「……やり方知りませんけど、教えてくれるなら……」
まじかよ。
正直おれはきみをいかせるだけで目的達成した気でいたのに……
しかしこの状態。もう止められない。「……なんだこの急展開。おれ……そういうつもりじゃ」
「舐めたほうがいいですか。それとも手のほうがいいですか」
「莉子! おれを悩殺するな!」
仕事のときと同じ淡々とした口調で言われるのがかえってやばかった。
おれの叫びを無視し、彼女はおれに、
くちづける。
「あっ……くぅっ……」思わず息が漏れる。
尖端が弱いのはおれも同じだ。
仕事が優秀な彼女は飲み込みも早かった。おれが、彼女の顔色を確認しながら、慎重にかつ大胆に攻めていくのとまるで同じやり方で、おれを導いていこうとする。
ある程度のところで、おれはストップをかけた。
「ちょ、まずい」彼女が怪訝な顔でおれのことを見る。「それ以上やられたら、……もう無理。がまんできない」
「わたしは別に構いませんけど」
「そうじゃない、ああ、なんて言えばいいんだ」ほかに言い様がない、けど、おれはストレートに伝えた。
「おれはきみのなかでいきたい」
* * *
慎重に、おれは彼女のなかを突き進んでいった。
彼女が、目をつぶる。苦悶の表情。おれは――
彼女のなかでなにが起きているのかを、悟った。消せない、過去の傷が開かれている。
「莉子」おれは彼女の目を見た。「おれのことが分かる?」
「課長……」過去から、現実へと彼女がかえってくる。
初めて会ったときの彼女は、他人に対する警戒心を持たず、あどけない笑みで迎えてくれた。あの瞳が、目の前に、ある。
おれを、信じてくれている。
おれは、彼女の両肩を支え、唇を重ねる。
彼女の舌がおれに応える。愛おしい、彼女の内部が。
からだとこころを重ねる瞬間――
このときを、待っていた。
ありったけの想いを伝えたくて。
おれは唇を離し、彼女の目を見据えた。
「おれの目を見ていて莉子。おれを、信じて――」
「遼一、さ……」
潤んでいるが、彼女の目はしっかりしていた。
取り戻せたのを確認し、ためらいなく彼女のなかを突き進む。その最奥へと。
入りきったときに、彼女がおれのことを抱きしめてくれた。
受け入れられている。そのことが、たまらなく、嬉しかった……。
心臓が、熱くなる。
こころとからだを結びつけあうことへの喜びが、からだのすみずみにまで行き渡っていく。
「ああ、莉子……」おれは、彼女の髪に触れた。「愛してるよ、莉子」
ここで、初めて彼女が笑った。
それは、おれがこの三年間。
欲しくてたまらなくて胸を焦がした、あの笑顔だった。
「わたしも、大好き。……遼一さん」
白い歯を見せ、にっと笑って見せたのだった。
生きていて、よかった。
おれは彼女の両膝を強く押した。自分の、想いを、叩きつける。彼女はもはや声を押さえず、正直な気持ちを吐き出す。
挿れる都度彼女はおれを強く締める。開きたいというこちらの願望を高める。彼女が感じているのは明らかだった。
ひときわ高い声を彼女があげる。内部がこまかく痙攣し、……涙があふれだす。
またいったみたいだ。しかし正直、おれのほうももう、待てない。
「あっ、いや、遼一さ……」
「ごめん。おれも――」
彼女がますますおれのことを締めつける。抜き差しする都度、愛液が飛び散る。互いの肉体がぶつかり合う音。彼女の叫び声がおれの聴覚を支配する。彼女の顎があがり、おれを掴む手が脱力する。「いやあ、助けて、あ、あ……」
おれは薄い膜越しに情欲を吐き出す。と彼女の内部が激しく波打つ。
呼吸に肩を上下させながら、彼女にからだを預けるとまた彼女がびくびく、と震えた。
切れ切れに彼女のあげる甘い声を貼りついて、聞き逃さず。
顔を横に向けた。
涙に濡れる彼女の顔が、どこまでも美しく――
おれは、その涙を唇で吸い取った。
塩辛くて切ない、味がした。
*
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