上 下
5 / 103
本編 『昨日、課長に抱かれました』――ちょっと鈍感な彼女SIDE

課長はわたしを抱きしめると、激しいキスで翻弄しました

しおりを挟む


「ああおれ、いますぐ死んでもいい……」


 幸せそうに呟いた課長。


「やっぱうそ。死にたくない」前言撤回。首を振るのがおかしくって、わたしはくすくす笑う。

「あ。笑った」

 笑みを残した口角をなぞられる。「ずっと、その顔が見たかったんだよ」

 唇が近づき、そっとまぶたを閉じる。

 甘い感触。

 ゆっくりと、離れていく……。

 わたしは彼の顎先を見ながら、

「……ひょっとして、課長って女性にはテラ甘いひとですか」男性に触れる興奮を押し隠し、そんなふうに訊いてみると、課長は、「砂糖よりも甘いかもしれん」と言ってのけた。

 ギャップ萌え……!

 このひとがあのクールでポーカーフェイスの上司? 本当に、信じられない……。

 わたし彼を知ることでむしろ人間不信になるかもしれない。と、おっと。

 いくらなんでもこの発言は課長に失礼だ……。

「変なの」頭上から、声が降ってくる。「ひとりで百面相しておまえ、いまなに考えてる」

「内緒です」

「莉子」

「なんですか」

「んにゃ。ただ呼んでみたくなっただけ」嬉しそうに、目を細める課長。このひとのこんな顔を――


 独り占め、したい。


 それは突然、自然とやってきた感情だった。

 わたしは彼の背中に回していた自分の手を、彼の肘の下を通してから、持ち上げ。


 彼の頬に触れ、ぴたりと、隙間なく埋めてみる。とても触り心地のいい、男の人に特有の、薄い頬だった。


 目が合う。すこし驚いた、やや明るい茶の瞳。

 わたしは顔を傾け――

 
 課長の唇はすこし乾燥していた。

 
 重なることで鼓動が爆発的に加速する。


 そっと、離す。余韻が二人のあいだに残る。


 心臓が高鳴る。苦しいくらいに……。

 どう、思っただろう。変な女だと思っただろうか。


 課長の行動は、素早かった。


 抱擁を解くと、わたしの頬を大きな両の手で挟み込み。


 想いを、行動に変化させる。


 彼の舌は、やわらかくて甘い――。

 涙が滲んで、自分という存在が、とろけてしまいそう。

 課長の手で上向かされ、もっと奥まで受け入れる。――こんな官能。与えられたことも感じたこともない。首筋をなぞるじれったい動きにぞくぞくする。やがて両の耳をふさがれ。

 課長と世界ふたりだけ閉じ込められる。音が、聞こえなくなる。

 激しく胸の鐘が高鳴り。

 狂おしい静寂のなかで彼の本音がひしひしと迫る。

 やわらかく舌を噛まれるたびにわたしのなかでなにかがうずく。それはとても熱くて――いますぐ課長に言葉で伝えたいくらいで。でもそれは叶わず、わたしは言葉にする代わりに彼の動きに合わせ伝わるだろうことを願い、彼の背中に手を回した。服越しに触れる彼の肌はとても熱く、その奥が知りたいという、こちらの欲求を加速させた。

 唇が離れると自分が軟体動物にでもなった気がした。

 力が、入らない。課長に支えられることでどうにか保っていた人間の有り様。

 ぼんやりしていた課長の輪郭が、はっきりしていく。

 薄い唇が動く。


「莉子。おれ――


 止められない。


 止めるつもりも、ない。


 受け入れてくれるか、おれのこと」


 真実をたたえる本能の瞳がわたしを捉える。

 
 わたしの本能が叫ぶ。


 わたしはこのひとを受け入れたいのだと。


 欲求のままに。


 おもむくままに。


 わたしは、こくりと、頷いていた。


 *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一夜限りのお相手は

栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

イケメン仏様上司の夜はすごいんです 〜甘い同棲生活〜

ななこ
恋愛
須藤敦美27歳。彼氏にフラれたその日、帰って目撃したのは自分のアパートが火事になっている現場だった。なんて最悪な日なんだ、と呆然と燃えるアパートを見つめていた。幸い今日は金曜日で明日は休み。しかし今日泊まれるホテルを探す気力がなかなか起きず、近くの公園のブランコでぼんやりと星を眺めていた。その時、裸にコートというヤバすぎる変態と遭遇。逃げなければ、と敦美は走り出したが、変態に追いかけられトイレに連れ込まれそうになるが、たまたま通りがかった会社の上司に助けられる。恐怖からの解放感と安心感で号泣した敦美に、上司の中村智紀は困り果て、「とりあえずうちに来るか」と誘う。中村の家に上がった敦美はなおも泣き続け、不満や愚痴をぶちまける。そしてやっと落ち着いた敦美は、ずっと黙って話を聞いてくれた中村にお礼を言って宿泊先を探しに行こうとするが、中村に「ずっとお前の事が好きだった」と突如告白される。仕事の出来るイケメン上司に恋心は抱いていなかったが、憧れてはいた敦美は中村と付き合うことに。そして宿に困っている敦美に中村は「しばらくうちいれば?」と提案され、あれよあれよという間に同棲することになってしまった。すると「本当に俺の事を好きにさせるから、覚悟して」と言われ、もうすでにドキドキし始める。こんなんじゃ心臓持たないよ、というドキドキの同棲生活が今始まる!

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

私の婚活事情〜副社長の策に嵌まるまで〜

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
身長172センチ。 高身長であること以外はいたって平凡なアラサーOLの佐伯花音。 婚活アプリに登録し、積極的に動いているのに中々上手く行かない。 名前からしてもっと可愛らしい人かと…ってどういうこと? そんな人こっちから願い下げ。 −−−でもだからってこんなハイスペ男子も求めてないっ!! イケメン副社長に振り回される毎日…気が付いたときには既に副社長の手の内にいた。

お前を必ず落として見せる~俺様御曹司の執着愛

ラヴ KAZU
恋愛
まどかは同棲中の彼の浮気現場を目撃し、雨の中社長である龍斗にマンションへ誘われる。女の魅力を「試してみるか」そう言われて一夜を共にする。龍斗に頼らない妊娠したまどかに対して、契約結婚を申し出る。ある日龍斗に思いを寄せる義妹真凜は、まどかの存在を疎ましく思い、階段から突き落とす。流産と怪我で入院を余儀なくされたまどかは龍斗の側にはいられないと姿を消す。そこへ元彼の新が見違えた姿で現れる。果たして……

合意的不倫関係のススメ《R-18》

清澄 セイ
恋愛
三笹茜二十六歳。私には、二つ年上の夫・蒼が居る。 私達は、一見何の変哲もない夫婦だ。子供はいないけれど、二人で穏やかに毎日を過ごしていた。 けれどその穏やかな毎日は、ある“暗黙の了解”から成り立っているもので…… 私達は確かに、お互いを愛してる。 それだけは、真実。 ※別名義で他サイトにも掲載しています。

恋に焦がれて鳴く蝉よりも

橘 弥久莉
恋愛
大手外食企業で平凡なOL生活を送っていた蛍里は、ある日、自分のデスクの上に一冊の本が置いてあるのを見つける。持ち主不明のその本を手に取ってパラパラとめくってみれば、タイトルや出版年月などが印刷されているページの端に、「https」から始まるホームページのアドレスが鉛筆で記入されていた。蛍里は興味本位でその本を自宅へ持ち帰り、自室のパソコンでアドレスを入力する。すると、検索ボタンを押して出てきたサイトは「詩乃守人」という作者が管理する小説サイトだった。読書が唯一の趣味といえる蛍里は、一つ目の作品を読み終えた瞬間に、詩乃守人のファンになってしまう。今まで感想というものを作者に送ったことはなかったが、気が付いた時にはサイトのトップメニューにある「御感想はこちらへ」のボタンを押していた。数日後、管理人である詩乃守人から返事が届く。物語の文章と違わず、繊細な言葉づかいで返事を送ってくれる詩乃守人に蛍里は惹かれ始める。時を同じくして、平穏だったOL生活にも変化が起こり始め………恋に恋する文学少女が織りなす、純愛ラブストーリー。 ※表紙画像は、フリー画像サイト、pixabayから選んだものを使用しています。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...