4 / 103
本編 『昨日、課長に抱かれました』――ちょっと鈍感な彼女SIDE
洗いざらい話したら課長が優しく頭をぽんぽんしてくれました
しおりを挟む恥ずかしい話をしますけど。
まともにひとを好きになったことがないんです。
人間誰でもどんなに遅くとも高校入る頃にはみんな誰かに真剣な恋をしたりするのに、わたしときたら全然で――誰かを猛烈に好きになってみたいのに、なんかこう、しっくり来るひとが全然いなかったんです。
当然、おつき合いしたひともいません。
大学入るとみんな彼氏や彼女作って楽しくやるじゃないですか。下ネタでみんな盛り上がってるのに全然ついてけなくて。最初みんなは処女なのを面白がってセックスのことを教えてくれるんですよ。こんなに足開くんだよとか痛いんだよとか。でも、段々話が深くなるとそういうひとが居ると場が白けてくるんです。邪魔で浮くんですよね。
自分でもうんざりでした。
ちょっといいなあって程度のひとは見つかるんです。合コンとかバイトとか学校とかで。
けど、わけもなく電話したくなるとかそのひとのことが頭から離れず夜眠れないって感覚が全然わっかんなくって……
すごくコンプレックスでした。
恋愛不感症ってやつかもしれません。
親元でぬくぬく育ってたのも原因かもしれません。親と仲がいいので。うちの両親は、昔からサッカー観戦が好きで、すぐ近所にサッカー専用の競技場があることから、わたしは小さい頃から毎週末連れてかれたんです。反抗期迎えた頃にはひとりで留守番したりもしてましたけど、高校入ってからまたつき合うようになって。
言うなれば、スタジアムが家族団らんの場でした。
ともかく親元で過ごすので例えば上京して一人暮らしの子が味わう孤独とも無縁で。
わたし一人っ子で可愛がられて育てられたんで、そういう子と比べると、親離れできてない自分のことが、もどかしくもありました。
しかもまともに誰も好きになれないって一生このまま不完全な人間なのかなあって悩みました。
就職を機に家を出ようと思ったのはそんな理由です。うちから通えないわけじゃないですけど、会社の近くに住んだほうが通勤大変じゃないし、自立したいからって親を説得しました。
実際、ひとりで住んでみると。
家に誰もいないって寂しいことですよね。
その日あった楽しいことを分かち合う相手が居ない。
その日あった辛い出来事を話せる相手も居ない。
楽しさは半分、痛みは二倍って感じでした。誰も答えてくれるはずもないのに玄関で「ただいまー」とか言ったりして、そんな自分がみじめで……
会社も、なんていうか仕事に情熱かけようって風にもなれなくて。例えば総合職の子とは全然テンションが違うんですよね。帰る時間も話す内容も。一生懸命やってそのときはそれに打ち込めるんですけど。
でもわたしこれを一生続けていくのかっていうと微妙で。
仕事はきっちりやるけど、帰ってからも休日も寂しい――そんな生活が続きました。
入社して半年経って、仕事の全容がなんとなく見え始めた頃に、大学繋がりの知人から合コンに誘われました。地元でです。あんまり知人程度の子の誘いにはのらないんですが寂しかったんでしょうね。
三対三の合コンでなんとそこで。
わたしも両親も好きな地元のクラブを応援してる男性に出会いました。当然意気投合して。めっちゃ盛り上がって。他の子そっちのけでずっと喋ってましたね。あのときのあの試合ああだったとか五年前十年前のゴールとかを細かく記憶してるひとなんてそうそういないじゃないですか。
興奮状態でした。二人で抜けだして別の店でも盛り上がって……。
――誘われて。
いいや、って思ったんです、そのときは。
二十三にもなってバージンだった自分のことがいい加減疎ましかったのかもしれません。
そこでわたしが体験したのは――
乱暴まがいのセックスでした。
全然こっちの状態が整ってないのに、彼だけ欲求を満たすようなひどく一方的なもので。
痛いだけで。
こっちが叫んでるのを興奮に依るものだと思ったみたいで、彼、喜んでて。
はやく終われ終われって呪文のように唱えてました。
連絡先を交換はしましたが、当然、返事なんか返さずにいたら、来なくなってそれっきりです。
病院にも行きました。……治療費って結構高いんですね。……みじめでした。周りは幸せそうに大きなお腹さすってる妊婦さんばっかりなんですよ。そんななかでやり逃げされて通い続ける自分が情けなくて、惨めで――
えっと、最悪の事態って意味じゃなくて念のためですけど移されたってだけです。
それだけの話です。ただ――地元の駅に降りるのが怖くなりました。思い出すんで。彼とは本当に昔っからの友達みたいに盛り上がったんです。そんな相手がああなるなんてなんだか、楽しかった両親との思い出までも汚されるようで行き場がなかったです。
自分がばかだったってだけなんですけど。
それで性懲りもなく、男性の部屋に泊まってしまうんだから笑えますよね。
……まあ、あれ以降、男性が怖くなったっていうか……自分一人で目的を達成することができるんだなあってことが分かって、いままでと違って見えました。
飲み会で羽目外す男の人いるじゃないですか、ああいうの見ると怖い! って思うんです。
普段が仮面を被ってるだけの獣に見えてしまうことがあって。
地元行けば思い出す。家にも寄りつけなくなってこのさきわたし、どうなっちゃうんだろう。誰も信じずに生きていくんだろうなあって、予感してました……
「そんな感じです」笑える。馬鹿馬鹿しすぎて笑える。
きっと、課長も呆れている。こんな女――
あれ。
……なんで涙が出てきちゃうんだろう。おかしいなあ。
とても馬鹿馬鹿しい話をしていたはずなのに。
「……笑っちゃいますよねあはは。おかしすぎて泣けてきちゃいました。課長、ティッシュ貰えますか」
箱ごとよこして、課長は、
「笑えない」と言った。鼻を拭いたティッシュはどうしたらいいんだろう。課長がソファから離れ、ごみ箱を取ってきてわたしに突き出した。さすが課長、気が回る。
わたしはごみ箱にティッシュを捨て、
「笑うとこなんですけど、なんか課長、……怒ってます?」
「大事なことだからもう一回言う」と、ごみ箱を床に置く。思ったより大きな音がした。怖い。「まったく、ぜんぜん、笑えない」
「……ですか」
「ちょっといま……気持ちの整理に時間が必要だ。頼む。時間をくれ」
額を指で摘まみ、課長は動きを停止し。
しばらくすると、手を下ろした。「――終わった。相手の男をおれのスタンドで社会的に抹殺しておいた。アレはもう使いものにならない」
「……」
「辛かったな」
課長の手が、ぽん、とわたしの頭に触れる。前髪の流れに沿って、撫でて、くれている……。
「……話してくれて、ありがとう。
きみはもう、ひとりじゃない」
「か、ちょう……」
「過去の傷に苦しめられるためにきみは生きているんじゃない。
幸せになるんだ。
おれと一緒に沢山笑おう。
うまいものも食おう。映画館でポップコーン食って腹抱えて笑おう。
だから莉子(りこ)――」
課長の、わたしを撫でる手が止まる。
「おれを、好きに、なって」
「か、ちょう……」涙腺決壊。どうしよう、止まらない……
「そろそろ課長ってのはやめようよ。おれの名前、知ってるだろ」
「遼一、さ……」
「莉子」
名を呼ばれ、顔をあげるとあたたかい課長の腕のなかに自分がいた。あんなに怖かったはずの男性のからだが腕が、ちっとも怖くなくて。
一見すると課長は細身なのに、胸板が厚くって。
二の腕がたくましい感じで、
重なる鼓動が、速くって。
震えていて……。
『緊張するとおれ震えるんだ』
わたしの背中に回した課長の手がしっとりと湿っているのを布地越しに感じながら、……わたしは彼の体温を感じながら、彼の誠実さに浸った。
*
0
お気に入りに追加
1,205
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
シンデレラは王子様と離婚することになりました。
及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・
なりませんでした!!
【現代版 シンデレラストーリー】
貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。
はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。
しかしながら、その実態は?
離婚前提の結婚生活。
果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる