忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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三十五話 晩餐会

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 ミシャは緊張していた。
 今晩久しぶりにカイに会う。

 ミシャを見た時カイはどんな顔をするだろうか。
 またいきなりいなくなったミシャを恨むかもしれない。

「ミシャ様、緊張していますか?」
「…はい」

 そう聞いてきたカミュのほうも緊張しているのが伝わってくる。
 カミュの邸宅での晩餐会にミシャが現れたら、ミシャの失踪にカミュが関係したことが明らかになってしまう。

 カイからしたらカミュは裏切ったことになってしまう。

 カミュはカイやゼルトリアのことを思って行動してくれただけなのだから、カミュを罰するのはやめて欲しい。
 ミシャは自分の命に代えても、カミュだけは守ろうと思った。
 きっとカミュは、カイに必要な存在だから。

「大丈夫です。きっと…ただ、陛下の精神を支えて上げられるのはミシャ様だけなので」「そう、なんでしょうか…」
「旦那様、陛下がいらっしゃいました」

 執事に話しかけられてミシャはビクッと震えた。

「そうか。お通ししなさい」

 ミシャは深呼吸した。

 しばらくすると廊下から足音が近づいてくる。
 扉が開く瞬間、ミシャはその先をじっと見つめていた。

「ミシャ…!?」

 ミシャを目にしてカイは驚愕の声を上げた。

 ゆっくりとカイがミシャに近づいてきて、そして、きつくミシャを抱きしめた。

「っ…カイ、様…?」

 久しぶりの温もりに、ミシャは安心すると同時に、呑まれてはいけないと自戒する。

「生きてて良かった…」
「え?」

 しかし、カイは安堵したようなため息を吐いたっきり黙り込んでしまった。

「ふぇ…えと、カイ様…?」

 どうしたらいいのか分からなくてミシャはカイの背中をおずおずと抱きしめた。

「あの…ごめんなさい、僕…また心配させてしまいましたか?」
「心配した…」

 自分の質問にそのまま返してくるカイはとても可愛らしく感じる。

「僕…カイ様が好きなんです」

 ミシャの背に回されたカイの手がピクンと震えた。

「でも、僕が側にいたら…カイ様の迷惑になってしまうと思うんです」
「そんなことは、ない」

 カイがじっとミシャを見つめた。赤い瞳は静かに凪いでいた。

「お前だけが…俺の生きる意味になるんだ…お前を部屋に閉じ込めたことは、後悔している。すまない、俺が間違っていた。ただ…俺はお前を失いたくなかったんだ」
「僕は…」

 言うつもりのなかった言葉が、ぽろりと溢れる。

「生きてていいんですか?」
「生きてくれないと困る」
「僕が、不幸を呼ぶ子でも…?」
「たとえお前が災厄そのものだとしても、俺はお前を愛す」

 じんわり、ミシャの目に涙が滲んだ。

「な、泣くな…俺はどうしたらいいのか分からない」
「すみませっ…ただ、うれしくて…」

 嬉しかった。
 ミシャとカイは愛し合って、必要としあえる。

 ミシャみたいな要らない子が、生きる場所をくれる。

「陛下」

 戸惑っているカイにカミュが話しかけた。

「ミシャ様を連れ出したのは私です。罰はいくらでも」

 だめ、ミシャがそう言う前にカイがカミュの言葉を遮った。

「いい」
「えっ…?」

 カイは気恥ずかしげにミシャを見る。

「お前が俺のことを思ってこうしたのはわかっている。俺も…反省した。たしかにああしてミシャを閉じ込めれば俺は安心できるが…あまりにもミシャのことを考えられていなかった。あのままでは他でもない俺が…ミシャを壊してしまうところだった」

 今も閉じ込めてしまいたい気持ちはあるが…
 と、言われてミシャはすこしビクッとする。ほんの少しの期待混じりで。

「でも、もうしない。ミシャが…俺を好いてくれているとわかったし」
「へ…」

 そういえば、ミシャがカイに想いを伝えたのは初めてかもしれない。
 ミシャ自身もカイに対して抱く感情に名前をつけるのは難しかった。

「ミシャ、城に戻ってきてくれるか…?」
「…はい、僕でよければ」

 はにかみながらいったミシャにカイが微笑んだ。

「お前じゃなきゃ駄目なんだ」

 
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