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三十三話 頑な
しおりを挟む「三日後、陛下に会いに行きましょう」
カミュに唐突に言われてミシャは困惑した。
「三日後、ですか?急ですね…」
「もともとミシャ様が元に戻ったらすぐに城に連れて行くつもりだったんです。もしまた陛下が監禁を強いるようだったら、私が命をかけて止めますので、安心してください」
「はい…」
カイに会うのは久しぶりだ。
そうは言ってもひと月ぐらいだが…
一年以上ずっと側にいたからすごく長く感じた。
「不安ですか?」
「いえ、ただ…申し訳なくて」
ミシャがいたせいで、こんなややこしいことになってしまった。
カイを狂わせたのも、カミュを命の危険に晒しているのも自分のせいだと思うと、ほんとうに申し訳ない。
「ミシャ様が申し訳なく思う必要はありませんよ。むしろ私はミシャ様に感謝しています」
「え…?」
「カイ…陛下は昔、戦争に明け暮れて感情が壊れてしまっていました。そんな陛下にふたたび感情を吹き込んでくれたのがミシャ様なんですよ」
カイがミシャをモデルにして描かれた絵画を盲信していたことはミシャも知っている。
「それは…僕ではなくて、お父様の描いた天使のおかげです。僕は…不幸を呼ぶ忌子なんです。ゼルトリアではなぜか僕のような気持ちの悪い存在を讃えていますが…」
「天使だとか、あなたの外見は関係ありませんよ。私とカイの生まれた村はゼルトリアの辺境なので白き天使への信仰もなかったので」
あっさりとカミュに言われてミシャは当惑する。
でも、カイはミシャのことを天使と呼んで、美しいと言った。
カイは天使が好きで、だから天使のモデルのミシャが好き…天使への信仰の先にミシャがいただけではなかったのか。
「私からすると、ミシャ様が…白を持つものが迫害されるアマルティナのほうが変に思いますけどね。ゼルトリアにも白髪をもつ者がごく稀に生まれて、大抵白き天使への信仰のもと崇められます。でも、特別な奇跡が起こるわけでも、大きな不幸が起きるわけでもありません」
「で、でも…僕のせいで、お母様は亡くなったし、お兄様は酷い目に遭ったし、お父様は変になっちゃったし、カイ様も変わってしまいました」
ミシャのせいでたくさんの人が不幸になった。それは事実だ。
「ミシャ様のせいではありません。その人本人や、周りの環境、いろいろなものが重なった結果に過ぎませんよ」
そんなことを言われたのは初めてで、ミシャの頭は受け入れるのを拒否する。
今まで、周りの不幸は全てミシャのせいになった。ずっとずっと、小さい頃からそうされるうちに、ミシャ自身もそう思うようになった。いまさら染み付いた考え方を変えるのは難しい。
「少なくとも、陛下にとっては、あなたは幸福を運ぶ天使だってことは、忘れないでください」
こくり、とミシャはうなずいた。
自分が天使だなんでおこがましいと思いながら
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