忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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二十八話 幼馴染

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 カミュはカイのミシャへの妄執を甘くみていた。あの常軌を逸した監禁もしばらくすればやめるだろうと、そう楽観していた。

 しかし、一年が経ちそうになった今も、カイはミシャを閉じ込めたままだった。

「陛下…ミシャ様は大丈夫なのですか?」

 ミシャの食事量はごく少ない。
 もとから細かったのに、こんな食事を一年続けたらもっと痩せているだろう。

 ミシャはアマルティナにいたとき、その外見の珍しさから迫害されて長年屋敷にこもって生活していたと聞く。
 そのためかミシャも室内で過ごす方が安心するとは言っていたが、いくらなんでも限度があるだろう。

「…お前に心配されることではない」
「しかし…このままではいずれミシャ様にも限界がきます」

 カミュはミシャに会うことを許されていない。

 しかし、お湯や食事をカイの部屋まで運ぶ時、寝室の中にいるミシャの様子を伺ってはいた。

 最初は人の気配に気付いて話しかけてきたり、啜り泣く声が聞こえてきたりした。
 でも、今はそれすらない。

 ときどきカミュは、もしかしたらミシャが死んでしまったんじゃないかと不安で仕方なくなる。
 こんな狂った監禁生活の末に命を落とすなんて不憫だし、それに、ミシャを失ったカイがどうなってしまうかわからない。

 かつて、ミシャに…ミシャが描かれた絵画に出会う前のカイは感情が欠落したような、そんな男だった。
 いや、12歳で両親を失い、戦争の中で命のやり取りをするうちに、カイはそう変えられていった。

 カイがその武勲を認められ、傭兵出身であるにも関わらず時期王に据えられた時、カミュはこれでカイが前線で戦わなくてすむと安心した。

 でも、カイは戦いに身を投じることをやめなかった。

「おい、カイ、お前は王様になるんだから、前線で戦わなくてもいいだろう?」

 カミュがそう言ったとき、カイはこう返した。

「俺は…人を殺すことでしか、生きていることを実感できないんだ」

 めらめらと燃えるカイの赤い瞳がカイの心を燃やしているようでぞっとした。

 生き急いでいるようなカイを止める方法はカミュは知らなかった。

 しかし、ミシャを見つけてから、カイは変わった。

「カミュ…俺はあの天使を手に入れるぞ」

 心底楽しそうにそう言ったカイの瞳は爛々と輝いていた。

 カイに目をつけられた天使には同情したが、あの瞳の暗い炎が消えてカミュは安心してしまった。

 今、カイの瞳にはあの時の暗い、身を焦す炎がちらちらと燃えている。

 このままではカイはあのときの狂気に包まれてしまう。
 一国の王となったカイが壊れれば…ゼルトリアは終わる。

「カミュ、ミシャと俺のことにこれ以上口を出すなら、お前だとしても…」
「いえ、ただミシャ様のお身体が心配だっただけです。失礼します」

 決心を胸にカミュかカイの前から去った。
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