忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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三十話 壊れた硝子細工

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「ふぇえええええ!カイ、どこぉ?どぉして会いにきてくれないの?もうやだ!死ぬ、死にたいよぉおお~」

 無事に下級貴族の家まで運ばれたは良いが、ミシャはカミュが思っていたよりも壊れてしまっていた。

 脈絡のないことばかり話したり、時々こうやって癇癪を起こす。時には自傷行為も伴うので、使用人に監視させなければならない始末だ。

 睡眠と食事を取らせれば正常に戻ると思ったが、あまりにも快楽漬けの生活が長すぎたのだろう。

 ゼルトリアに戻る時に肩ほどの長さで切ったという髪はもう背中まで伸びていた。

「元からミシャ様は自己肯定感が低かったとのことですので、それも相まって自殺願望が出てきたのかもしれませんね。心の病が治るまでどれほどかかるかは人によります。気長に待つしかないでしょう」

 秘密裏に雇った医者はそう言っていた。
 気長に待つなんてできるわけがない。
 カイがミシャを見つけて連れ戻す前にミシャには正気に戻ってもらわないと。

「ミシャ様、ご飯ですよ」
「う~…やぁ」

 ミシャはなかなか食事を取りたがらない。

 カイに入れられながら口移しで食事を取る。
 そう飼い慣らさせたせいで、普通の食事方法を嫌がるようになってしまったらしい。

 カミュは仕方なく、最初は自分の膝の上にミシャを乗せてやり、スプーンを1匙ずつ運んで食べさせてやった。

 今では調子がいい時は自分の手で食べるが、ときどきごねる。
 そう言う時は、また膝の上にのせて食べさせるしかない。

「はぁ…」

 カミュの疲労は溜まり続けるばかりだった。
 壊れてしまったミシャ。血眼になってミシャを探すカイ。
 両方に対応するのは簡単なことではない。

 だから、ミシャに食事をさせたあと、少し安心してそのまま気を失うように眠ってしまった。





 
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