31 / 37
三十一話 朦朧
しおりを挟むカイに会いたい。
ミシャの頭にあるのはそのことばかりだった。
いつもカイはミシャのところにきて熱くて暖かい蜜を身体の中に出してくれる。
たくさんキスをして、ご飯を食べさせてくれる。
好きだ、愛してるって言って、ミシャに気持ちいいことたくさんしてくれる。
なのに、急にカイは来なくなってしまった。
そのかわり、カミュがご飯の世話をしてくれている。
でもカミュではカイの代わりにはならない。
カミュがカイのようにミシャを愛してくれたって、意味はないのだ。
きっと、カイはミシャのことが嫌いになってしまったんだ。きっとそうだ…
だってミシャは不幸を呼ぶ忌子。
死んだ方がいい。
そうだ、死のう。
ミシャが死ねば世界は幸せになるはず。皆幸せになるんだ。
部屋の中には死ねる道具がないから外に行かないと。
さっきご飯を食べさせてきたカミュはぐっすり寝ていた。
カミュがいるときは見張りもいない。
ミシャが外に出るのは簡単だった。
ふらふらと部屋から出たミシャは行く当てもなく庭に出た。
「お庭…」
綺麗な花がたくさん咲いていた。
そういえばミシャがゼルトリアに連れてこられた時は冬の終わりかけで、それで春夏に咲く花を育てたのだった。
今はもう初夏。一年以上の時が巡っていた。
ぼんやりと花壇を眺めていると、赤い花に目が惹かれた。
「あ…なんだっけ…?あの花…あの…えっと」
「リミネリアですよ」
「っあ」
ミシャの背後にいつの間にかカミュがいた。
「いきなりいなくなるので、驚きましたよ」
「カミュさん…」
「ミシャ様が前に育てていた花です。陛下の瞳と同じ色の美しい花ですね…ミシャ様が育てていた花の種も取っておいてありますよ。また春に植えましょうか?」
「カイの瞳の色…」
美しい紅。
そうだ。自分はカイにあの花を見せたくて一生懸命育てていたのだった。
自分もカイも見ないままにあの花は枯れて種だけ残った…
「育てたい…僕が育てたお花、見てほしい」
忌子の自分が育てても花は懸命に育って咲いてくれる。
お花を咲かせられたら、ミシャは生きている意味があるかもしれない。カイもすごいねって褒めてくれるかもしれない。
「じゃあ、早く元気になって下さい」
「元気だよ、僕」
「せめて、自分のことは自分でできるようにして、あとは…自分の身体を傷つけるのも絶対にダメです」
「うん!」
「それから…陛下が壊れる前に、あなたが止めて下さい」
「カイが壊れちゃうの!?」
やだ!とミシャは思った。
自分が止められるなら止める。カイが壊れたら、ミシャも壊れてしまう。
「そうです。私は…前の陛下とミシャ様に戻ってきてほしいんです。周りがやきもきするような、じれったい両片思いの二人に。いや、両思いになってもらうぶんには構わないのですが…」
「わかった!僕、頑張る」
ミシャの自殺願望はそれ以降なりを潜めた。そのおかげか、ミシャの精神は徐々に元のように戻り始めていった。
1
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説

白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。

愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする
葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』
騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。
平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。
しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。
ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる
葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。
王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。
国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。
異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。
召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。
皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。
威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。
なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。
召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前
全38話
こちらは個人サイトにも掲載されています。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる