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三十一話 朦朧
しおりを挟むカイに会いたい。
ミシャの頭にあるのはそのことばかりだった。
いつもカイはミシャのところにきて熱くて暖かい蜜を身体の中に出してくれる。
たくさんキスをして、ご飯を食べさせてくれる。
好きだ、愛してるって言って、ミシャに気持ちいいことたくさんしてくれる。
なのに、急にカイは来なくなってしまった。
そのかわり、カミュがご飯の世話をしてくれている。
でもカミュではカイの代わりにはならない。
カミュがカイのようにミシャを愛してくれたって、意味はないのだ。
きっと、カイはミシャのことが嫌いになってしまったんだ。きっとそうだ…
だってミシャは不幸を呼ぶ忌子。
死んだ方がいい。
そうだ、死のう。
ミシャが死ねば世界は幸せになるはず。皆幸せになるんだ。
部屋の中には死ねる道具がないから外に行かないと。
さっきご飯を食べさせてきたカミュはぐっすり寝ていた。
カミュがいるときは見張りもいない。
ミシャが外に出るのは簡単だった。
ふらふらと部屋から出たミシャは行く当てもなく庭に出た。
「お庭…」
綺麗な花がたくさん咲いていた。
そういえばミシャがゼルトリアに連れてこられた時は冬の終わりかけで、それで春夏に咲く花を育てたのだった。
今はもう初夏。一年以上の時が巡っていた。
ぼんやりと花壇を眺めていると、赤い花に目が惹かれた。
「あ…なんだっけ…?あの花…あの…えっと」
「リミネリアですよ」
「っあ」
ミシャの背後にいつの間にかカミュがいた。
「いきなりいなくなるので、驚きましたよ」
「カミュさん…」
「ミシャ様が前に育てていた花です。陛下の瞳と同じ色の美しい花ですね…ミシャ様が育てていた花の種も取っておいてありますよ。また春に植えましょうか?」
「カイの瞳の色…」
美しい紅。
そうだ。自分はカイにあの花を見せたくて一生懸命育てていたのだった。
自分もカイも見ないままにあの花は枯れて種だけ残った…
「育てたい…僕が育てたお花、見てほしい」
忌子の自分が育てても花は懸命に育って咲いてくれる。
お花を咲かせられたら、ミシャは生きている意味があるかもしれない。カイもすごいねって褒めてくれるかもしれない。
「じゃあ、早く元気になって下さい」
「元気だよ、僕」
「せめて、自分のことは自分でできるようにして、あとは…自分の身体を傷つけるのも絶対にダメです」
「うん!」
「それから…陛下が壊れる前に、あなたが止めて下さい」
「カイが壊れちゃうの!?」
やだ!とミシャは思った。
自分が止められるなら止める。カイが壊れたら、ミシャも壊れてしまう。
「そうです。私は…前の陛下とミシャ様に戻ってきてほしいんです。周りがやきもきするような、じれったい両片思いの二人に。いや、両思いになってもらうぶんには構わないのですが…」
「わかった!僕、頑張る」
ミシャの自殺願望はそれ以降なりを潜めた。そのおかげか、ミシャの精神は徐々に元のように戻り始めていった。
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