27 / 37
二十七話 唯一の救い
しおりを挟む
ゼルトリアは遊牧民にルーツを持つ国家だった。
徹底した実力主義で国の王ですら血筋ではなく戦績で決まる。
しかし、戦争に出るのは貴族や金持ちの子息ばかりだったので自然と階級は生まれていた。
そんな中、カイは傭兵から成り上がった異例の王だった。
カイは12歳のときに戦争で両親を亡くした。
国境付近の村では珍しいことではなかった。カミュも同じく両親を無くした子供だった。だれもが貧しく飢えていた。
だれもよその子を養う余裕なんてない。
食べ物を得るために金が欲しかった。
だからカイとカミュは傭兵になった。
「人を殺すことをためらうな。自分の命が最優先だ」
傭兵の先輩にはそう教えられた。
傭兵は戦績が欲しくて戦っているのではない。
目的は金だ。そして金が欲しいのは生きるためだ。最優先は生き残ることだった。
そうはいっても死ぬ奴は死んだ。同じ村からはカイとカミュ以外にも身寄りのない男が傭兵になっていた。でも、生き残ったのはカイとカミュだけだった。
カイは殺される前に殺すことを信条にし、数え切れないほどの敵を殺した。
二十歳になるころにはカイの名はゼルトリア中に知れ渡っていた。
ある日カイは王城に呼び出され王に言われた。
「お前が次の王になれ」
その日からカイは時期国主になった。
カイにとってはどうでもいいことだった。
12歳から人を殺し続けたカイは心が壊れてしまっていた。
感情を失った戦争兵器だと揶揄されることさえあった。
「あんなのが王になって大丈夫なのか?」
「戦いが強ければそれでいいだろう。いままでゼルトリアはずっとそうして来たんだから」
「親もいないようなものが王になるのは初めてでしょう」
すべての批判は戦績でねじ伏せた。
「カイ、お前は王様になるんだから、前線で戦わなくてもいいだろう?」
カミュからは度々そう言われてきたが、カイは戦うことに依存していた。人を殺す時にしか生を実感できないのだ。
しかし、カイの人生はある日一変する。
隣国アマルティナから友好の証として一枚の絵が送られてきた。
絵画など興味もなく見てきたこともなかったカイだったが、城に飾られることになったそれを目にした時、カイは感動のあまり震えながら涙した。
「……天使だ」
大きな羽を広げ、美しい微笑みでカイを見つめる少年。
まるでカイの重ねた人殺しの罪を知りながら、それを深き慈愛の心で許してくれているような、そんな笑みだった。
この世に、こんな美しいものがあるのなら、この世界は生きるに値する。
カイはそれからその天使を盲信すると同時に、渇望した。
いつかこの美しい天使にお会いしたい。
彼は、彼だけは…自分を受け入れてくれるに違いない。
それはあくまで天使を信仰するだけに留まらなかった。
カイはその絵画の天使にモデルがいると知って、その少年を求めるようになった。
本当の天使は天から舞い降りるのを待つことしかできないが、その少年は力を持って手に入れることができる。
そしてそれは、カイのもっとも得意とすることであった。
徹底した実力主義で国の王ですら血筋ではなく戦績で決まる。
しかし、戦争に出るのは貴族や金持ちの子息ばかりだったので自然と階級は生まれていた。
そんな中、カイは傭兵から成り上がった異例の王だった。
カイは12歳のときに戦争で両親を亡くした。
国境付近の村では珍しいことではなかった。カミュも同じく両親を無くした子供だった。だれもが貧しく飢えていた。
だれもよその子を養う余裕なんてない。
食べ物を得るために金が欲しかった。
だからカイとカミュは傭兵になった。
「人を殺すことをためらうな。自分の命が最優先だ」
傭兵の先輩にはそう教えられた。
傭兵は戦績が欲しくて戦っているのではない。
目的は金だ。そして金が欲しいのは生きるためだ。最優先は生き残ることだった。
そうはいっても死ぬ奴は死んだ。同じ村からはカイとカミュ以外にも身寄りのない男が傭兵になっていた。でも、生き残ったのはカイとカミュだけだった。
カイは殺される前に殺すことを信条にし、数え切れないほどの敵を殺した。
二十歳になるころにはカイの名はゼルトリア中に知れ渡っていた。
ある日カイは王城に呼び出され王に言われた。
「お前が次の王になれ」
その日からカイは時期国主になった。
カイにとってはどうでもいいことだった。
12歳から人を殺し続けたカイは心が壊れてしまっていた。
感情を失った戦争兵器だと揶揄されることさえあった。
「あんなのが王になって大丈夫なのか?」
「戦いが強ければそれでいいだろう。いままでゼルトリアはずっとそうして来たんだから」
「親もいないようなものが王になるのは初めてでしょう」
すべての批判は戦績でねじ伏せた。
「カイ、お前は王様になるんだから、前線で戦わなくてもいいだろう?」
カミュからは度々そう言われてきたが、カイは戦うことに依存していた。人を殺す時にしか生を実感できないのだ。
しかし、カイの人生はある日一変する。
隣国アマルティナから友好の証として一枚の絵が送られてきた。
絵画など興味もなく見てきたこともなかったカイだったが、城に飾られることになったそれを目にした時、カイは感動のあまり震えながら涙した。
「……天使だ」
大きな羽を広げ、美しい微笑みでカイを見つめる少年。
まるでカイの重ねた人殺しの罪を知りながら、それを深き慈愛の心で許してくれているような、そんな笑みだった。
この世に、こんな美しいものがあるのなら、この世界は生きるに値する。
カイはそれからその天使を盲信すると同時に、渇望した。
いつかこの美しい天使にお会いしたい。
彼は、彼だけは…自分を受け入れてくれるに違いない。
それはあくまで天使を信仰するだけに留まらなかった。
カイはその絵画の天使にモデルがいると知って、その少年を求めるようになった。
本当の天使は天から舞い降りるのを待つことしかできないが、その少年は力を持って手に入れることができる。
そしてそれは、カイのもっとも得意とすることであった。
4
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説

愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。
天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。
しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。
しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。
【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる