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二十七話 唯一の救い
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ゼルトリアは遊牧民にルーツを持つ国家だった。
徹底した実力主義で国の王ですら血筋ではなく戦績で決まる。
しかし、戦争に出るのは貴族や金持ちの子息ばかりだったので自然と階級は生まれていた。
そんな中、カイは傭兵から成り上がった異例の王だった。
カイは12歳のときに戦争で両親を亡くした。
国境付近の村では珍しいことではなかった。カミュも同じく両親を無くした子供だった。だれもが貧しく飢えていた。
だれもよその子を養う余裕なんてない。
食べ物を得るために金が欲しかった。
だからカイとカミュは傭兵になった。
「人を殺すことをためらうな。自分の命が最優先だ」
傭兵の先輩にはそう教えられた。
傭兵は戦績が欲しくて戦っているのではない。
目的は金だ。そして金が欲しいのは生きるためだ。最優先は生き残ることだった。
そうはいっても死ぬ奴は死んだ。同じ村からはカイとカミュ以外にも身寄りのない男が傭兵になっていた。でも、生き残ったのはカイとカミュだけだった。
カイは殺される前に殺すことを信条にし、数え切れないほどの敵を殺した。
二十歳になるころにはカイの名はゼルトリア中に知れ渡っていた。
ある日カイは王城に呼び出され王に言われた。
「お前が次の王になれ」
その日からカイは時期国主になった。
カイにとってはどうでもいいことだった。
12歳から人を殺し続けたカイは心が壊れてしまっていた。
感情を失った戦争兵器だと揶揄されることさえあった。
「あんなのが王になって大丈夫なのか?」
「戦いが強ければそれでいいだろう。いままでゼルトリアはずっとそうして来たんだから」
「親もいないようなものが王になるのは初めてでしょう」
すべての批判は戦績でねじ伏せた。
「カイ、お前は王様になるんだから、前線で戦わなくてもいいだろう?」
カミュからは度々そう言われてきたが、カイは戦うことに依存していた。人を殺す時にしか生を実感できないのだ。
しかし、カイの人生はある日一変する。
隣国アマルティナから友好の証として一枚の絵が送られてきた。
絵画など興味もなく見てきたこともなかったカイだったが、城に飾られることになったそれを目にした時、カイは感動のあまり震えながら涙した。
「……天使だ」
大きな羽を広げ、美しい微笑みでカイを見つめる少年。
まるでカイの重ねた人殺しの罪を知りながら、それを深き慈愛の心で許してくれているような、そんな笑みだった。
この世に、こんな美しいものがあるのなら、この世界は生きるに値する。
カイはそれからその天使を盲信すると同時に、渇望した。
いつかこの美しい天使にお会いしたい。
彼は、彼だけは…自分を受け入れてくれるに違いない。
それはあくまで天使を信仰するだけに留まらなかった。
カイはその絵画の天使にモデルがいると知って、その少年を求めるようになった。
本当の天使は天から舞い降りるのを待つことしかできないが、その少年は力を持って手に入れることができる。
そしてそれは、カイのもっとも得意とすることであった。
徹底した実力主義で国の王ですら血筋ではなく戦績で決まる。
しかし、戦争に出るのは貴族や金持ちの子息ばかりだったので自然と階級は生まれていた。
そんな中、カイは傭兵から成り上がった異例の王だった。
カイは12歳のときに戦争で両親を亡くした。
国境付近の村では珍しいことではなかった。カミュも同じく両親を無くした子供だった。だれもが貧しく飢えていた。
だれもよその子を養う余裕なんてない。
食べ物を得るために金が欲しかった。
だからカイとカミュは傭兵になった。
「人を殺すことをためらうな。自分の命が最優先だ」
傭兵の先輩にはそう教えられた。
傭兵は戦績が欲しくて戦っているのではない。
目的は金だ。そして金が欲しいのは生きるためだ。最優先は生き残ることだった。
そうはいっても死ぬ奴は死んだ。同じ村からはカイとカミュ以外にも身寄りのない男が傭兵になっていた。でも、生き残ったのはカイとカミュだけだった。
カイは殺される前に殺すことを信条にし、数え切れないほどの敵を殺した。
二十歳になるころにはカイの名はゼルトリア中に知れ渡っていた。
ある日カイは王城に呼び出され王に言われた。
「お前が次の王になれ」
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カイにとってはどうでもいいことだった。
12歳から人を殺し続けたカイは心が壊れてしまっていた。
感情を失った戦争兵器だと揶揄されることさえあった。
「あんなのが王になって大丈夫なのか?」
「戦いが強ければそれでいいだろう。いままでゼルトリアはずっとそうして来たんだから」
「親もいないようなものが王になるのは初めてでしょう」
すべての批判は戦績でねじ伏せた。
「カイ、お前は王様になるんだから、前線で戦わなくてもいいだろう?」
カミュからは度々そう言われてきたが、カイは戦うことに依存していた。人を殺す時にしか生を実感できないのだ。
しかし、カイの人生はある日一変する。
隣国アマルティナから友好の証として一枚の絵が送られてきた。
絵画など興味もなく見てきたこともなかったカイだったが、城に飾られることになったそれを目にした時、カイは感動のあまり震えながら涙した。
「……天使だ」
大きな羽を広げ、美しい微笑みでカイを見つめる少年。
まるでカイの重ねた人殺しの罪を知りながら、それを深き慈愛の心で許してくれているような、そんな笑みだった。
この世に、こんな美しいものがあるのなら、この世界は生きるに値する。
カイはそれからその天使を盲信すると同時に、渇望した。
いつかこの美しい天使にお会いしたい。
彼は、彼だけは…自分を受け入れてくれるに違いない。
それはあくまで天使を信仰するだけに留まらなかった。
カイはその絵画の天使にモデルがいると知って、その少年を求めるようになった。
本当の天使は天から舞い降りるのを待つことしかできないが、その少年は力を持って手に入れることができる。
そしてそれは、カイのもっとも得意とすることであった。
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