忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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二十六話 傍観者

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 ミシャがゼルトリアの王城に戻ってきたことは多くの兵や使用人が見ていたため瞬く間に知れ渡った。
 ミシャを一眼でも見たことのあるものは美しく神聖な天使の帰還を喜ぶ一方、一向にミシャが姿を見せないことを不思議がっていた。

 元からミシャは出不精ではあったが、夕方は庭に出ていたりした。
 でも、今は全く部屋から出る気配もない。それどころか、ミシャの面倒を見る使用人すらいないらしい。

 ほとんどのものがなぜミシャが姿を見せないか、本当のことは知らなかった。

 しかし、ごくわずか、カイに近しいものは実際ミシャがどう過ごしているのか知っていた。

 庭師のカミュはそのうちの一人だった。

「陛下…ミシャ様に食事ぐらいはちゃんと取らせて差し上げてください」

 そう進言できるくらいには、カミュはカイと親しかった。

 ミシャには言わなかったが、実はカイとカミュは幼馴染だった。
 そうでもなければ一介の庭師に自身の最愛の少年を預けることはなかっただろう。

 そして今回もカミュは食事の支度や湯の準備など、本来はメイドがやるようなことを頼まれていた。
 カイがミシャの存在を隠したいがために、メイドすらミシャに関わらせなかったからだ。

「食べさせても食べないんだ」
「このままだと衰弱死してしまいますよ」

 カミュはミシャのことは心配していたが、カイの行動を止めようとは思っていなかった。
 いや、自分が止めたところでカイは止まらないことがわかっていた。

 カミュは知っていた。
 カイがどれだけあの天使を盲信していたを。

 カイにとってはあの天使こそが生きる目的。ならばどう説得したってカイに天使を手放させることはできない。

 だからせめて、カミュはミシャが鳥籠の中で壊れてしまわないように、カイにことあるごとに警告することしかできなかった。

 
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