忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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二十三話 鳥籠

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 カイはミシャをただ呆然と見つめていた。

「俺は、ついに幻覚を見るようになったのか…?」
「幻覚じゃありませんよ」

 ミシャはカイに近づき彼の手を取ると自分の頬にあてがった。

「ごめんなさい。黙っていなくなって。ご心配をおかけしました」
「…心配どころの騒ぎではない。俺は、お前が、攫われたと思って…さらった奴を殺そうと思って…」

 カイの瞳は恐ろしい怒りの炎に燃えていた。

「攫われたんじゃありません。僕は、自分でアマルティナに帰ったんです」
「……は?」
「だから、キールとの戦争なんて今すぐやめてください」

 そして、ミシャのことはこれっきり、忘れて欲しい。

「僕は…天使なんかじゃありません。不幸を呼ぶ忌子なんです。僕がそばにいればあなたに災厄が訪れる。だから……僕はいないほうがいいんです」

 カイはしばらく信じられないというふうに唖然としていたが、再び瞳を燃やしてミシャを強引に抱き寄せた。

「…まさか、自分から逃げていたなんてな」
「陛下?」

 カイは怒っている。他でもない、ミシャに怒っている。

「いや、俺が悪かったんだ。そうだ。天使には翼があるんだから……ちゃんと籠に入れておかなければいけなかった」

 カイはぶつぶつとつぶやくと、ミシャを抱き上げどこかに運び始める。

「へ、陛下!?どこに行くんですか…?お、おろして、くださいっ…」

 落ちるのが怖くて抵抗したくてもできない。
 されるがままにミシャはカイの部屋の奥深くに連れて行かれる。
 行き着いた先はカイの寝室だった。
 シンプルだが大きな寝台に降ろされる。

「もしも、天使があまりにも反抗するならこうするつもりだった。でも…ミシャは心まで清らかで優しかったから、俺の気持ちを受け入れて、城にいてくれた。そう思ってたのに…お前は逃げた」
「に、逃げたんじゃ…ありません。ただ、陛下には、僕なんか、必要ない…から…」

 カイの赤く燃える瞳に焼かれそうだ。
 声も体も震えてしまうが、ミシャは必死に弁明した。

「必要かどうかは俺が決めることだ」

 カイはどこからか金属の拘束具を出してきた。それは罪人がつけられるような足枷と手枷だった。

「っ…陛下…嫌です。つ、つけないでください…やだっ!」

 あれをつけられたらミシャは逃げられなくなってしまう。
 ミシャがそばにいたら、カイに不幸が降りかかってしまうのに。だから、絶対に離れなくてはいけないのに。

「暴れるな。暴れるなら…本当に仕方ないが、足か腕を切る」
「っ…」

 ミシャを見下ろすカイの目は本気だった。

 かちゃん、とミシャの左足と右手に枷がつけられた。
 枷は鎖でベット横の壁に繋がれている。

 これでは、ミシャは城から出るどころか、ベッドから降りることさえできない。

「最初からこうしておけばよかったんだ…こうすれば、お前は俺のものにできる…」
「僕に、価値なんてありません…むしろ邪魔になるだけですっ…だから、こんなことやめてください」

 初めてカイに犯されたときと同じ瞳で見下ろされ、ミシャの体は硬直する。

「さっきも言った。それは俺が決めることだ」
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