忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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二十二話 終わらせるために

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 その後ミシャは団長の元に連れて行かれた。
 団長はミシャの姿を見ると

「天使様の御心のままに」

 と、その場に跪いて首を垂れた。

「や、やめてください!」

 身に釣り合わなさすぎる扱いに萎縮して慌てて止めた。

 団長はミシャが日光に弱いこと、なるべく早く王都に行きたいことを伝えると、予定を変更して王都まで直行すると言ってくれた。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、でも早く行かなくては戦争が始まってしまう。そうなってはカイに会うのも難しい。

「ありがとうございます」

 ミシャは深々とお辞儀をした。

 団長は馬車を用意してくれると言ったが申し訳ないので荷台の端に座らせてもらうことにした。

 急いでも五日はかかると言われた。

 ミシャが馬に乗れればもっと早く着けるのに…
 ミシャは自分のできないことの多さが歯痒かった。

 でも、よかった。ミシャのこの髪が役立って。
 ゼルトリアの人でなければ石を投げられていたが、彼らにとってはミシャは天使らしいから。


 団長は相当早く商団を進めてくれたようで四日目の夜にはゼルトリアの王都に入ることができた。

「団長さん。ありがとうございました。この恩は…」

 きっと返したいと思ったが、近いうちに死ぬミシャになにかできるとは思えなかった。

「この恩は、忘れません。お世話になりました」
「どうぞご無事で」

 ゼルトリアでは髪を見られると逆に目立ってしまうので帽子を被っていたが、もう夜も遅く、人気もないのでミシャは帽子を被らずに城へ向かった。

 久しぶりに見る王城は随分と物々しくなっていた。
 戦争の準備をしているからかピリピリとした空気を感じる。

 城の門は閉じていて、見張りの騎士が立っていた。

 まずは城の中に入らなくては。

 城の兵士であればミシャのことは知っているかもしれない。髪は適当に切ったせいでひどいことになっているが…

「あのっ…!」

 ミシャが声をかけると兵士はこちらを見た。暗くてほとんど見えないらしく、少しずつミシャの方に歩み寄ってくる。

「ミシャ様…!??」
「陛下にお会いしたくて来ました。陛下はいらっしゃいますか?」
「お、お待ちください。ほ…本物、ですか?だって、ミシャ様はキールに…」

 兵士は困惑しながらも門を開けてくれた。
 ミシャは門の中に入るなりカイの部屋に向かって走り出した。
 後ろで止める兵の声が聞こえたが気にしていられない。

(戦争なんてやめてって言わないと…僕なんか、いらない存在だって教えてあげないと…)

 何人かの兵とすれ違うが、彼らはミシャの純白さに見惚れるばかりで止めることはできない。

 カイの部屋はこんな夜更けなのに灯がついていた。

 起きていることに安心してミシャはドアを開けた。

「誰だ…?」

 机に向かって座っていたカイが振り返り、ミシャと目が合う。

「ミシャ……!?」
「お久しぶりです。陛下」

 ミシャはぺこりとお辞儀をした。
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