忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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十八話 兄と弟

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「どういうことですか…?」
「そのままの意味だよ」

 ブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。ミシャとは全く違う、亡くなった母と生写しの兄。

 昔は天使のように優しい笑みを浮かべる人だったのに、いま彼の顔に浮かぶのは打算にまみれた笑みだけだ。

「お前がキールに攫われたっていう情報をゼルトリアに流した。そしたらゼルトリアはキールに攻め入る気まんまんだよ」

 キールはゼルトリアとアマルティナに隣接する国だ。商業が栄えており、その財力で傭兵を多く雇い、戦争も強い。

 キールとゼルトリアが戦争するとなれば、勝ち負けはともかくどちらも痛手を追うことになるだろう。

「お前はキールとゼルトリアを潰すためだけに連れてこられたんだよ。そうじゃなきゃお前なんて、一生野蛮なゼルトリアにいてくれて良かった」

 だからか、とミシャは妙に納得してしまった。
 そして少し、悲しみに近い失望を感じた。

 愚かなことに、ミシャは兄がまだ、ほんの少しは兄弟の情を持っていると期待していたらしい。
 もしかしたら、あるわけがないが、兄がミシャのためにゼルトリアから連れしてくれたかもしれないと、ほんの少しだけ父の言葉を信じてしまっていた。

 当たり前だけど、そんな訳がなかったのだ。

「ゼルトリアが勝ったら、キールから保護したとか言ってゼルトリアに恩を売れるし命だけは保証しよう。ただ、キールが勝ったらお前の存在は厄介だからすぐに殺す」

 殺す、という言葉がぐさりとミシャの胸に突き刺さった。

「どちらにせよ、お前がアマルティナにいられるのはキールとゼルトリアが戦争してる間だけだということだ。残り少ない時間、好きにすると良い」
「好きに…?」

 冷たいエメラルドグリーンがミシャを見つめる。

「もちろん、家から出られては困る。ただ、家の中にいる限り何をしても構わない」

 それは、最後に兄が自分に与えた情だったのかもしれない。
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