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十七話 どうして
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移動中に打たれた薬のせいか、意識が朦朧としている。
ミシャの前に父がいるということは男が言っていたことは本当だったのか?
だとしたら、どうしてあんな乱暴な方法でミシャを連れて帰ってきたのだろう。
「ミシャがアマルティナに帰ってこれて本当によかった。ロアンがミシャが帰ってこれるように頑張ってくれたんだよ」
「お兄様が…?」
ロアン、ミシャの兄で、ミシャのことを憎んでいる。その彼がミシャをわざわ
ざ連れ戻した?
兄はミシャがゼルトリアに行くことを歓迎してすらいたのに。
「長旅で疲れたろう。いま食事を用意させよう」
父はそう言い残して部屋から出て行ってしまった。
おかしいと思うことはたくさんあるのに、頭が回らない。
ミシャはベットに横たわってまた眠ってしまった。
夢の中、カイがミシャの部屋で一人佇んでいた。
カイは呆然と立ち尽くしている。その表情はぼんやりとして見えない。
そういえば、ミシャはカイに何も言わずに城を出て行ってしまった。
カイからすればいきなりいなくなったわけで、きっと驚かせてしまったに違いない。
(陛下…何も言わないで勝手に居なくなってごめんなさい。でも、陛下にとってもこうした方が良かったんです。僕なんて天使どころか疫病神みたいなものだから…)
ミシャの心の声が聞こえたのかカイがミシャの方に振り向いた。
「ひ…」
カイは、初めて会った時、ミシャを手ひどく抱いたあの時の、恐ろしい怒りに燃えた表情をしていた。
「ミシャ……まさか、俺から逃げるなんて……」
「逃げたわけじゃないんです。ただ、陛下にとって、僕は邪魔な存在で…居ない方がいいから…」
「許せない。許せない、許せない、許せない…」
ミシャの声はカイには届かない。
ミシャが作り上げた夢のはずなのに。
カイはミシャの横を通り過ぎていってしまう。
「陛下、陛下?」
「誰だ、俺の天使を奪ったのは……殺す。殺してやる…」
ぶつぶつとそう呟きながらカイはミシャの部屋を出ていってしまう。
「違うんです!僕が、自分で、勝手に…!」
「っは」
ミシャは何か恐ろしい夢を見た気がして目を覚ました。
「っ……ミシャ」
枕元には父ではなく、なぜか兄がいた。
思いもよらない存在にミシャは目を見開く。
「お兄様?」
「……その目で俺を見つめるな」
「あ……すいません」
ミシャは鈍色の瞳を伏せた。
そうだ。こんな汚い色の瞳、誰も見たくないに決まっている。
ゼルトリアにいたせいで忘れかけていた。自分が汚くて不幸を呼ぶ、最悪な存在だということを。
「お前なんかでも役に立つことがあるんだから、人生は分からないことばかりだよな」
「え…?」
兄はミシャをみて歪んだ笑みを浮かべた。
「お前のおかげでゼルトリアもキールも壊すことができる」
ずきん、ずきんと、ミシャの頭が軋む音がした。
ミシャの前に父がいるということは男が言っていたことは本当だったのか?
だとしたら、どうしてあんな乱暴な方法でミシャを連れて帰ってきたのだろう。
「ミシャがアマルティナに帰ってこれて本当によかった。ロアンがミシャが帰ってこれるように頑張ってくれたんだよ」
「お兄様が…?」
ロアン、ミシャの兄で、ミシャのことを憎んでいる。その彼がミシャをわざわ
ざ連れ戻した?
兄はミシャがゼルトリアに行くことを歓迎してすらいたのに。
「長旅で疲れたろう。いま食事を用意させよう」
父はそう言い残して部屋から出て行ってしまった。
おかしいと思うことはたくさんあるのに、頭が回らない。
ミシャはベットに横たわってまた眠ってしまった。
夢の中、カイがミシャの部屋で一人佇んでいた。
カイは呆然と立ち尽くしている。その表情はぼんやりとして見えない。
そういえば、ミシャはカイに何も言わずに城を出て行ってしまった。
カイからすればいきなりいなくなったわけで、きっと驚かせてしまったに違いない。
(陛下…何も言わないで勝手に居なくなってごめんなさい。でも、陛下にとってもこうした方が良かったんです。僕なんて天使どころか疫病神みたいなものだから…)
ミシャの心の声が聞こえたのかカイがミシャの方に振り向いた。
「ひ…」
カイは、初めて会った時、ミシャを手ひどく抱いたあの時の、恐ろしい怒りに燃えた表情をしていた。
「ミシャ……まさか、俺から逃げるなんて……」
「逃げたわけじゃないんです。ただ、陛下にとって、僕は邪魔な存在で…居ない方がいいから…」
「許せない。許せない、許せない、許せない…」
ミシャの声はカイには届かない。
ミシャが作り上げた夢のはずなのに。
カイはミシャの横を通り過ぎていってしまう。
「陛下、陛下?」
「誰だ、俺の天使を奪ったのは……殺す。殺してやる…」
ぶつぶつとそう呟きながらカイはミシャの部屋を出ていってしまう。
「違うんです!僕が、自分で、勝手に…!」
「っは」
ミシャは何か恐ろしい夢を見た気がして目を覚ました。
「っ……ミシャ」
枕元には父ではなく、なぜか兄がいた。
思いもよらない存在にミシャは目を見開く。
「お兄様?」
「……その目で俺を見つめるな」
「あ……すいません」
ミシャは鈍色の瞳を伏せた。
そうだ。こんな汚い色の瞳、誰も見たくないに決まっている。
ゼルトリアにいたせいで忘れかけていた。自分が汚くて不幸を呼ぶ、最悪な存在だということを。
「お前なんかでも役に立つことがあるんだから、人生は分からないことばかりだよな」
「え…?」
兄はミシャをみて歪んだ笑みを浮かべた。
「お前のおかげでゼルトリアもキールも壊すことができる」
ずきん、ずきんと、ミシャの頭が軋む音がした。
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