忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

文字の大きさ
上 下
17 / 37

十七話 どうして

しおりを挟む
 移動中に打たれた薬のせいか、意識が朦朧としている。

 ミシャの前に父がいるということは男が言っていたことは本当だったのか?
 だとしたら、どうしてあんな乱暴な方法でミシャを連れて帰ってきたのだろう。

「ミシャがアマルティナに帰ってこれて本当によかった。ロアンがミシャが帰ってこれるように頑張ってくれたんだよ」
「お兄様が…?」

 ロアン、ミシャの兄で、ミシャのことを憎んでいる。その彼がミシャをわざわ
ざ連れ戻した?

 兄はミシャがゼルトリアに行くことを歓迎してすらいたのに。

「長旅で疲れたろう。いま食事を用意させよう」

 父はそう言い残して部屋から出て行ってしまった。

 おかしいと思うことはたくさんあるのに、頭が回らない。
 ミシャはベットに横たわってまた眠ってしまった。





 夢の中、カイがミシャの部屋で一人佇んでいた。

 カイは呆然と立ち尽くしている。その表情はぼんやりとして見えない。
 そういえば、ミシャはカイに何も言わずに城を出て行ってしまった。
 カイからすればいきなりいなくなったわけで、きっと驚かせてしまったに違いない。

(陛下…何も言わないで勝手に居なくなってごめんなさい。でも、陛下にとってもこうした方が良かったんです。僕なんて天使どころか疫病神みたいなものだから…)

 ミシャの心の声が聞こえたのかカイがミシャの方に振り向いた。

「ひ…」

 カイは、初めて会った時、ミシャを手ひどく抱いたあの時の、恐ろしい怒りに燃えた表情をしていた。

「ミシャ……まさか、俺から逃げるなんて……」
「逃げたわけじゃないんです。ただ、陛下にとって、僕は邪魔な存在で…居ない方がいいから…」
「許せない。許せない、許せない、許せない…」

 ミシャの声はカイには届かない。
 ミシャが作り上げた夢のはずなのに。

 カイはミシャの横を通り過ぎていってしまう。

「陛下、陛下?」
「誰だ、俺の天使を奪ったのは……殺す。殺してやる…」

 ぶつぶつとそう呟きながらカイはミシャの部屋を出ていってしまう。

「違うんです!僕が、自分で、勝手に…!」






「っは」

 ミシャは何か恐ろしい夢を見た気がして目を覚ました。

「っ……ミシャ」

 枕元には父ではなく、なぜか兄がいた。
 思いもよらない存在にミシャは目を見開く。

「お兄様?」
「……その目で俺を見つめるな」
「あ……すいません」

 ミシャは鈍色の瞳を伏せた。

 そうだ。こんな汚い色の瞳、誰も見たくないに決まっている。
 ゼルトリアにいたせいで忘れかけていた。自分が汚くて不幸を呼ぶ、最悪な存在だということを。

「お前なんかでも役に立つことがあるんだから、人生は分からないことばかりだよな」
「え…?」

 兄はミシャをみて歪んだ笑みを浮かべた。

「お前のおかげでゼルトリアもキールも壊すことができる」

 ずきん、ずきんと、ミシャの頭が軋む音がした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!

小池 月
BL
 男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。  それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。  ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。  ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。 ★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★ 性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪ 11月27日完結しました✨✨ ありがとうございました☆

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき(藤吉めぐみ)
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

悪役のはずだった二人の十年間

海野璃音
BL
 第三王子の誕生会に呼ばれた主人公。そこで自分が悪役モブであることに気づく。そして、目の前に居る第三王子がラスボス系な悪役である事も。  破滅はいやだと謙虚に生きる主人公とそんな主人公に執着する第三王子の十年間。  ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

処理中です...