忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

文字の大きさ
上 下
12 / 37

十二話 苦くない現実

しおりを挟む
 ミシャは深くローブを被って城から出た。

 護衛がいると逆に目立つからとカイと二人っきりだ。

「はぐれないように、手を繋いでもいいか?」
「はい…ありがとうございます」

 カイは城下町に慣れているのかすいすいと人混みの中を歩いていく。

 本は城内の図書館にもあるから遊戯盤を買いに行こうとカイは言った。

「俺のチェスを作らせた店がたしかこっちにあった」

 街行く人はまさかカイが王だとは気付いていないのか、だれも二人を見ていなかった。
 でも街の賑わいはすごくて、ミシャがアマルティナを出た時の街の様子と比べると随分栄えていた。

(アマルティナの人はゼルトリアのことを野蛮だとか、荒廃しているとか言っていたけど、全然そんなことないんだな…)

 むしろ戦いで疲弊したアマルティナのほうがよっぽど荒廃している。

 しばらく歩いたところでカイは小さな店の中に入った。

「店主、まだやっているか?」
「はいはい、やっておりますよ」

 店の中にはさまざまな盤と駒が並んでいて、奥の方にぽつんと小柄なご老人が座っていた。

「初心者でも楽しめるゲームはあるか?」
「初心者でも…?ルールが簡単なのはリバーシでしょうな。双六もいくつかございますよ」

 親切そうな店主はいろいろな盤を持ってきてくれるが、ミシャはどれもこれも初めて見るものなのでどれがいいのか分からない。

「なにか気に入ったものはあるか?」
「え、えと…わかりません。どれも楽しそうで…」

 ミシャがなかなか選べなくて困っているのを見てカイは微笑むと

「店主、ここに出しているのを全部包んでくれ」

 と言った。

「かしこまりました」
「え…」

 驚いて固まってしまったミシャを片目に店主は盤と駒を袋に詰めていく。

「こ、こんなに沢山…もったいないです」
「俺もこれで遊んでみたくなった。一緒にやってくれるか、ミシャ」

 ミシャが気を使うってしまうのを分かってそう言ってくれるカイの優しさにミシャは申し訳なくなった。

「…はい、もちろん」

 カイは左手に店主から渡された荷物を持ち、右手をミシャと繋いで帰路についた。

 帰りは人通りも大分少なくなっていた。

「あの…ありがとうございました陛下。でも、僕はなにも返すことが出来ません」
「俺が買いたかったから買っただけだ。でも、もしお礼がしたいのなら…」

 振り返ったカイがミシャに笑いかける。

「名前で呼んでくれないか?カイ、と」
「そ、そんな…恐れ多い」
「なぜだ?お前は俺の天使で、俺はお前に服従する存在なんだから」

 ミシャは逡巡した。
 ミシャのような低俗な者が国王を呼び捨てになんてできない。でも、カイ自身が、望むなら…

「か、カイ…あ、ありが、とう…」

 ミシャが躊躇いがちに言った言葉を聞くやいなや、カイはその真紅の瞳を輝かせてミシャを抱き上げた。

「あぁ!俺の天使が、俺の名前を読んでくれた」
「あ、やっ…」

 その拍子にミシャのローブがズレ落ちしまった。

 ミシャの純白の髪がこぼれ落ちる。

 ミシャの髪を見た街の人たちは俄かに騒ぎ始める。

 どうしよう、また…あの日みたいなことになってしまう!

 ミシャが咄嗟に抱きついたことでカイもミシャのローブが外れてしまったことに気づいたらしい。

「ミシャ、ローブが」

 カイはミシャにローブをかけたがもう手遅れだ。

 この先起こることに怯えて縮こまったミシャに、石が投げつけられることはなかった。

「ねぇ、見た?あそこの方」
「天使様のような美しい白髪をしていらしたわ」
「えぇ、肌も透き通るようで」
「どこかのおえらいさんなのかしらね」

 そんな声が聞こえてきて、ミシャは一瞬何を言っているのか分からなかった。

「ミシャ、早く帰るぞ」

 カイはミシャと荷物を器用に抱えて走り出した。

 カイの腕の中、街の人を窺い見た。
 街の人は、まるでとても美しく、神々しいものを見たような顔をしてミシャを見ていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい

のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。 【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

処理中です...