忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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十二話 苦くない現実

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 ミシャは深くローブを被って城から出た。

 護衛がいると逆に目立つからとカイと二人っきりだ。

「はぐれないように、手を繋いでもいいか?」
「はい…ありがとうございます」

 カイは城下町に慣れているのかすいすいと人混みの中を歩いていく。

 本は城内の図書館にもあるから遊戯盤を買いに行こうとカイは言った。

「俺のチェスを作らせた店がたしかこっちにあった」

 街行く人はまさかカイが王だとは気付いていないのか、だれも二人を見ていなかった。
 でも街の賑わいはすごくて、ミシャがアマルティナを出た時の街の様子と比べると随分栄えていた。

(アマルティナの人はゼルトリアのことを野蛮だとか、荒廃しているとか言っていたけど、全然そんなことないんだな…)

 むしろ戦いで疲弊したアマルティナのほうがよっぽど荒廃している。

 しばらく歩いたところでカイは小さな店の中に入った。

「店主、まだやっているか?」
「はいはい、やっておりますよ」

 店の中にはさまざまな盤と駒が並んでいて、奥の方にぽつんと小柄なご老人が座っていた。

「初心者でも楽しめるゲームはあるか?」
「初心者でも…?ルールが簡単なのはリバーシでしょうな。双六もいくつかございますよ」

 親切そうな店主はいろいろな盤を持ってきてくれるが、ミシャはどれもこれも初めて見るものなのでどれがいいのか分からない。

「なにか気に入ったものはあるか?」
「え、えと…わかりません。どれも楽しそうで…」

 ミシャがなかなか選べなくて困っているのを見てカイは微笑むと

「店主、ここに出しているのを全部包んでくれ」

 と言った。

「かしこまりました」
「え…」

 驚いて固まってしまったミシャを片目に店主は盤と駒を袋に詰めていく。

「こ、こんなに沢山…もったいないです」
「俺もこれで遊んでみたくなった。一緒にやってくれるか、ミシャ」

 ミシャが気を使うってしまうのを分かってそう言ってくれるカイの優しさにミシャは申し訳なくなった。

「…はい、もちろん」

 カイは左手に店主から渡された荷物を持ち、右手をミシャと繋いで帰路についた。

 帰りは人通りも大分少なくなっていた。

「あの…ありがとうございました陛下。でも、僕はなにも返すことが出来ません」
「俺が買いたかったから買っただけだ。でも、もしお礼がしたいのなら…」

 振り返ったカイがミシャに笑いかける。

「名前で呼んでくれないか?カイ、と」
「そ、そんな…恐れ多い」
「なぜだ?お前は俺の天使で、俺はお前に服従する存在なんだから」

 ミシャは逡巡した。
 ミシャのような低俗な者が国王を呼び捨てになんてできない。でも、カイ自身が、望むなら…

「か、カイ…あ、ありが、とう…」

 ミシャが躊躇いがちに言った言葉を聞くやいなや、カイはその真紅の瞳を輝かせてミシャを抱き上げた。

「あぁ!俺の天使が、俺の名前を読んでくれた」
「あ、やっ…」

 その拍子にミシャのローブがズレ落ちしまった。

 ミシャの純白の髪がこぼれ落ちる。

 ミシャの髪を見た街の人たちは俄かに騒ぎ始める。

 どうしよう、また…あの日みたいなことになってしまう!

 ミシャが咄嗟に抱きついたことでカイもミシャのローブが外れてしまったことに気づいたらしい。

「ミシャ、ローブが」

 カイはミシャにローブをかけたがもう手遅れだ。

 この先起こることに怯えて縮こまったミシャに、石が投げつけられることはなかった。

「ねぇ、見た?あそこの方」
「天使様のような美しい白髪をしていらしたわ」
「えぇ、肌も透き通るようで」
「どこかのおえらいさんなのかしらね」

 そんな声が聞こえてきて、ミシャは一瞬何を言っているのか分からなかった。

「ミシャ、早く帰るぞ」

 カイはミシャと荷物を器用に抱えて走り出した。

 カイの腕の中、街の人を窺い見た。
 街の人は、まるでとても美しく、神々しいものを見たような顔をしてミシャを見ていた。
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