忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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五話 甘い悪夢

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 ミシャは夢を見ていた。

 夢の中、ミシャは6歳だった。
 3つ年上の兄と、ミシャは父の目を盗んでこっそり家から飛び出した。

「お兄さま、そんなに走ったら、ミシャはついていけません!」
「でもお父様に捕まったら、飾り飴も買えないぞ」
「うぅ…」

 ミシャは眩しいのが苦手だったから深くマントを被っていた。それでも当たりは明るすぎて殆ど何も見えなかった。

 兄の手だけを頼りにミシャは一生懸命走った。
 なんでか忘れてしまったが、とにかく飾り飴がほしくて仕方なかったのだ。

「ほら、もうすぐだよ!」
「ど、どこ?」

 必死に走ると、急に兄が足を止めた。

「ミシャ、見える?」
「うわぁ」

 飴売りの売店は日陰になっていて、ミシャの目にも、美しい飾り飴が見えた。

「欲しいのを一つ選んでいいよ」
「あ、え、えっと…」

 ミシャは悩んだ挙句に、薔薇の飾り飴を兄に買ってもらった。

 帰り道、ミシャは大事に飾り飴を持って兄と手を繋いで帰った。

 優しい思い出。

 でも、前から走ってきた人にぶつかって、フードが外れてしまってから、思い出は急に苦しみを増す。

 右手に飴を左手を兄と繋いでいたミシャはフードをすぐに被り直すことも出来ずに呆然としていた。

「きゃぁああ!」
「忌子だ!なんでこんな街中に!?」

 街は急にパニックになった。
 兄もミシャも呆然とした。その時はまだ兄もミシャも知らなかったのだ。ミシャが恐ろしく、気味の悪い存在だとは。

 しばらくして、ミシャ達を取り囲んでいた人のなかでミシャに石を投げつける者がいた。

「い、いたっ」
「何をするんだ!」

 一人、二人と石を投げるものは増えていく。
 ミシャは光が眩しくて石が見えず避けることもできない。

「やめろ!」

 兄はミシャを庇っていくつもの石を浴びた。

「お兄さまっ…」

 使用人が駆けつけた時には兄はボロボロになっていた。
 ミシャはごめんね、ごめんね、と兄に謝った。
 兄はそんなミシャの頭を撫でて

「どうしてあんな目にあわなくちゃいけないんだ」

 と、怒りもあらわに吐き捨てたのだった。



 それから数年経ち、学校に通い始めた兄は知る。ミシャが忌子で不幸を呼ぶのだと。
 兄は最初は否定していたが、徐々にそれを受け入れるようになった。

 仕方のないことだった。兄はミシャという忌子の弟がいるせいで孤立し、疎まれた。
 ミシャは兄に不幸を呼んだ。兄がミシャを恨むのも当たり前のことだ。

 でも、ミシャは今でもときどきこうして夢の中で思い出す。ミシャのことを身を挺して守ってくれたあの日の兄を。
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