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八話 おくりもの
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カイはそれから時々ミシャの部屋を訪れるだけで、あまりミシャと接触しようとはしなかった。
カイはミシャがカイを怖がっていると思っているのだ。
たしかに、カイは怖い。でも、カイはミシャのことを大切にしようとしてくれていることはミシャもわかっていた。
最初に会った時はひどいことをされたけど、カイは本当はあんなことをするつもりもなかったのだろうし、現にあれからカイはミシャになにかしたことはない。
カイは天使としてのミシャに夢を見すぎているのだ。
夕食の時間。カイはミシャが一人で夕食を食べるのは寂しいだろうと言ってともに食事をとっている。
「あの…」
「なんだ」
ミシャは躊躇いがちにカイに話しかけた。
「僕、このままここにいてもいいのでしょうか」
「どういうことだ?」
「僕、なにも出来ないし、何もしてません。それなのに、こんな豪華な部屋に、食事…身の程に合わないと思うんです」
「お前の自己肯定感の低さは考えものだな」
カイは少し考える素振りをした。
「花は好きか?」
「え…?はい、好きですけど」
「城の庭園に空いているスペースがある。退屈ならそこに花を植えて欲しい」
「ぼ、僕お花のお世話なんてしたことありません。お城の庭を僕みたいな素人が」
「空いている場所だと言っただろう。お前が植えなければ裸のままだ」
それならやってみようかな、と思ってミシャは頷いた。
「私はカミュ・グリドリーです。よろしくお願いします。ミシャ様」
「は、はい…よろしくお願いします」
数日後、ミシャは庭師と共に庭園に居た。
庭師とは毎日、陽が落ちてから作業をする約束をした。
「ここがミシャ様の庭です」
「うわぁ…その、とても広いですね」
ミシャが思っていたより庭は広かった。
この広さの庭づくりはなかなか大変そうだ。
「なにせここは王妃の庭ですからね」
「王妃の庭?」
「代々この庭は王妃様が世話をしてきたのです。だから、王妃の庭と」
「えっ…」
ミシャは庭師の言葉を聞いて固まってしまう。
カイはただ空いているスペースがあるとしか言っていなかった。王妃の庭だなんて…
「そんな場所を僕が…その、使ってもいいのでしょうか?」
「え?ミシャ様はカイ様の王妃としていらっしゃったのではないのですか?」
「ち、ちち違います!」
ミシャは首をぶんぶん振った。
ミシャは敵国の捕虜。王妃な訳がない。
今の待遇だっておかしいけど、カイがミシャを天使だと勘違いしているから仕方ない。
でも、まさかミシャが王妃だなんて…
そもそもミシャは男なのに
「しかし、この庭をカイ様が与えられたからには、何かしら意味があるのでしょう」
「意味…」
ミシャはカイのことがよく分からない。
最初は怖くて酷い人だと思ったけど、最近は優しさばかり感じている。
出会った時こそカイは正気を失っていたが、普段のカイは常識人だしミシャのことをいつも気遣ってくれる。
でも、カイがいい人だと分かっていくほどに、どうしてミシャなんかを大切にしているのかわからなくなる。
ミシャなんかを愛しているなんて、異常としか言いようがない。
「ミシャ様はなにか植えたい花はありますか?」
庭師はぼーっとするミシャにさまざまな花の絵が描かれた図版を見せてきた。
「あぁ…えっと」
外に出たことがあまりないミシャにとってはどれも初めて見るものばかりだ。
「これが…」
ミシャはなんとなく目の引かれた花を指さした。
「おや、素敵な花を選ばれましたね。リミネリア。陛下の瞳と同じ紅の花ですね」
「へ…」
そんなつもりはなかったが無意識にカイの瞳の色を選んでしまったのが少し恥ずかしい。
「苗が温室にあるのでとってきましょう」
そう言って庭師が温室に行ってしまった後、ミシャは顔を真っ赤にしてその場に座り込んでしまったのだった。
カイはミシャがカイを怖がっていると思っているのだ。
たしかに、カイは怖い。でも、カイはミシャのことを大切にしようとしてくれていることはミシャもわかっていた。
最初に会った時はひどいことをされたけど、カイは本当はあんなことをするつもりもなかったのだろうし、現にあれからカイはミシャになにかしたことはない。
カイは天使としてのミシャに夢を見すぎているのだ。
夕食の時間。カイはミシャが一人で夕食を食べるのは寂しいだろうと言ってともに食事をとっている。
「あの…」
「なんだ」
ミシャは躊躇いがちにカイに話しかけた。
「僕、このままここにいてもいいのでしょうか」
「どういうことだ?」
「僕、なにも出来ないし、何もしてません。それなのに、こんな豪華な部屋に、食事…身の程に合わないと思うんです」
「お前の自己肯定感の低さは考えものだな」
カイは少し考える素振りをした。
「花は好きか?」
「え…?はい、好きですけど」
「城の庭園に空いているスペースがある。退屈ならそこに花を植えて欲しい」
「ぼ、僕お花のお世話なんてしたことありません。お城の庭を僕みたいな素人が」
「空いている場所だと言っただろう。お前が植えなければ裸のままだ」
それならやってみようかな、と思ってミシャは頷いた。
「私はカミュ・グリドリーです。よろしくお願いします。ミシャ様」
「は、はい…よろしくお願いします」
数日後、ミシャは庭師と共に庭園に居た。
庭師とは毎日、陽が落ちてから作業をする約束をした。
「ここがミシャ様の庭です」
「うわぁ…その、とても広いですね」
ミシャが思っていたより庭は広かった。
この広さの庭づくりはなかなか大変そうだ。
「なにせここは王妃の庭ですからね」
「王妃の庭?」
「代々この庭は王妃様が世話をしてきたのです。だから、王妃の庭と」
「えっ…」
ミシャは庭師の言葉を聞いて固まってしまう。
カイはただ空いているスペースがあるとしか言っていなかった。王妃の庭だなんて…
「そんな場所を僕が…その、使ってもいいのでしょうか?」
「え?ミシャ様はカイ様の王妃としていらっしゃったのではないのですか?」
「ち、ちち違います!」
ミシャは首をぶんぶん振った。
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今の待遇だっておかしいけど、カイがミシャを天使だと勘違いしているから仕方ない。
でも、まさかミシャが王妃だなんて…
そもそもミシャは男なのに
「しかし、この庭をカイ様が与えられたからには、何かしら意味があるのでしょう」
「意味…」
ミシャはカイのことがよく分からない。
最初は怖くて酷い人だと思ったけど、最近は優しさばかり感じている。
出会った時こそカイは正気を失っていたが、普段のカイは常識人だしミシャのことをいつも気遣ってくれる。
でも、カイがいい人だと分かっていくほどに、どうしてミシャなんかを大切にしているのかわからなくなる。
ミシャなんかを愛しているなんて、異常としか言いようがない。
「ミシャ様はなにか植えたい花はありますか?」
庭師はぼーっとするミシャにさまざまな花の絵が描かれた図版を見せてきた。
「あぁ…えっと」
外に出たことがあまりないミシャにとってはどれも初めて見るものばかりだ。
「これが…」
ミシャはなんとなく目の引かれた花を指さした。
「おや、素敵な花を選ばれましたね。リミネリア。陛下の瞳と同じ紅の花ですね」
「へ…」
そんなつもりはなかったが無意識にカイの瞳の色を選んでしまったのが少し恥ずかしい。
「苗が温室にあるのでとってきましょう」
そう言って庭師が温室に行ってしまった後、ミシャは顔を真っ赤にしてその場に座り込んでしまったのだった。
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