7 / 37
七話 居心地の悪い歓迎
しおりを挟む
数日ほど経って、馬車はゼルトリアの首都、ガロアに着いた。
カイは怯えるミシャに気を使ったのか、あの後馬車を降りて馬に乗ってしまった。
たしかにミシャはカイが恐ろしい。
あんなことをされたのもそうだが、カイはミシャよりも一回りも大きい。
彼にとってミシャをどうこうするのは赤子の手をひねるように簡単なはず。
それに、彼がどうしてミシャを求めたのか分からないのも怖かった。
日光に弱いミシャの身体に気を遣ってくれたのか、馬車から降りたのは夕方ぐらいだった。
「長い距離を苦労させた」
「いえ、大丈夫です」
久しぶりに会話したカイはミシャの手を取って馬車から下ろしてくれた。
もう彼に触られてもそこまで怖くはなくなっていた。
けど、こんなに丁寧に扱ってもらうのは居心地が悪い。
馬車を出ると目の前には豪奢な城が佇んでいた。
アマルティナの優美な城とは違う、堅牢な作りの実戦向きの城だ。
「あ、あの…」
「なんだ」
「その、ぼ…僕をどうするつもりなんですか?僕、何もできません。何の価値もありません。こんなところに連れてきて、どういうつもりなんですか?」
カイは疑問符を浮かべるミシャを見て微笑んだ。
「見ればわかる」
「……?」
カイに手を引かれるまま、ミシャは城の中に入った。そして、目を見開く。
城に入るや否や目に入ったのは、いつだか父の描いた天使の絵だったのだ。
周りを見渡すと、そこかしこに父の絵がある。
中にはほとんどミシャと同じ容姿の天使の絵もあった。
「あれ…」
「あれはお前だろう?」
違う。あれはミシャではない。天使だ。
そう否定するにはあまりに天使たちはミシャに似ていた。
「ずっと探していたんだ…」
「ひ…」
カイが熱のこもった瞳でミシャを見つめた。
「ぼ、ぼく…は、天使じゃないです。ただの、気持ちの悪い、人間で…」
「お前のどこが気持ち悪いんだ?」
カイがミシャの髪を掬ってキスをした。
父以外は誰も触れたがらなかった髪。
それをなんの躊躇いもなくカイは触った。
「あ、ぅ…」
「この世に舞い降りた、俺だけの天使…」
ミシャは熱烈な視線に耐えきれなくて、顔を真っ赤にしてぎゅっと目を閉じ、小鹿のように震えていた。
カイはそれを見て笑うとミシャを抱き上げた。
いきなり高くなった視界が怖くて、ミシャはカイにすがりつく。
「お前のために作った部屋があるんだ」
「僕の、ため…?」
カイはミシャを抱き上げたまま城を歩いていく。
周りにいる使用人らしい人達がちらちらと二人を見てくるので恥ずかしくて仕方ない。
でも、アマルティナにいた頃のような悪意のある視線ではないことに少しほっとする。
ゼルトリアではミシャのような色なし子が呪われた子だとは知られていないというのは本当だったのだ。
「ここがお前の部屋だ」
そう言って連れてこられたのは、それなりに大きな邸宅で育ったミシャからしても大きな部屋だった。
ミシャの身体が日の光に弱いことも知っていたのか、部屋には分厚いカーテンが引かれている。
奥の方には見たこともないような大きなベッドがあり、美しい天蓋が幾重にも垂らされていた。
ベッド以外にも家具は全て凝った装飾のなされた見るからに高価そうなものばかりだ。
「あ、あの、この部屋が全て僕一人だけのものなんてこと、ありませんよね…?」
ミシャは敗戦国の捕虜。
こんな素晴らしい部屋を与えられる理由がない。
「何を言っているんだ?お前の部屋だと言っただろう」
「へ…?だって、こんな部屋…」
「狭すぎるか?気に入らないなら…」
「そ、そんなこと!ただ…あまりにも、豪華過ぎませんか…?」
「お前は俺の天使なのだから、これくらいの部屋、むしろ粗末といっても過言ではない」
ミシャは震えた。本当に、彼にとって自分は天使なんだと。
どうしよう。ミシャは天使どころか、不幸を呼ぶ忌子でしかないのに。
もし、ミシャがカイの思う天使ではないと分かってしまったら……カイは激昂してミシャを…
恐ろしい想像をしてしまい、ミシャは青ざめる。
「どうした?顔色が悪いな。長旅で疲れたのか?今日はもう寝たほうがいいな」
「あ、いや…はい」
疲れたのは確かだったので、ミシャはされるがままにベッドに降ろされた。
「やっと、お前を手に入れることができた…」
カイは恭しくミシャの手を取ると、手の甲にキスをした。
「愛している、ミシャ…」
「ぇ…」
「何か必要なことが有ればそこのベルを鳴らして呼んでくれ」
颯爽と去っていくカイを見つめたままミシャは呆けていた。
カイに名前を呼ばれたのは初めてだった。
彼はいつもミシャのことを、お前、とか天使、としか呼ばなかったから。
『愛している』という言葉が頭の中をぐるぐる巡ってミシャは全然眠れなくなってしまった。
カイは怯えるミシャに気を使ったのか、あの後馬車を降りて馬に乗ってしまった。
たしかにミシャはカイが恐ろしい。
あんなことをされたのもそうだが、カイはミシャよりも一回りも大きい。
彼にとってミシャをどうこうするのは赤子の手をひねるように簡単なはず。
それに、彼がどうしてミシャを求めたのか分からないのも怖かった。
日光に弱いミシャの身体に気を遣ってくれたのか、馬車から降りたのは夕方ぐらいだった。
「長い距離を苦労させた」
「いえ、大丈夫です」
久しぶりに会話したカイはミシャの手を取って馬車から下ろしてくれた。
もう彼に触られてもそこまで怖くはなくなっていた。
けど、こんなに丁寧に扱ってもらうのは居心地が悪い。
馬車を出ると目の前には豪奢な城が佇んでいた。
アマルティナの優美な城とは違う、堅牢な作りの実戦向きの城だ。
「あ、あの…」
「なんだ」
「その、ぼ…僕をどうするつもりなんですか?僕、何もできません。何の価値もありません。こんなところに連れてきて、どういうつもりなんですか?」
カイは疑問符を浮かべるミシャを見て微笑んだ。
「見ればわかる」
「……?」
カイに手を引かれるまま、ミシャは城の中に入った。そして、目を見開く。
城に入るや否や目に入ったのは、いつだか父の描いた天使の絵だったのだ。
周りを見渡すと、そこかしこに父の絵がある。
中にはほとんどミシャと同じ容姿の天使の絵もあった。
「あれ…」
「あれはお前だろう?」
違う。あれはミシャではない。天使だ。
そう否定するにはあまりに天使たちはミシャに似ていた。
「ずっと探していたんだ…」
「ひ…」
カイが熱のこもった瞳でミシャを見つめた。
「ぼ、ぼく…は、天使じゃないです。ただの、気持ちの悪い、人間で…」
「お前のどこが気持ち悪いんだ?」
カイがミシャの髪を掬ってキスをした。
父以外は誰も触れたがらなかった髪。
それをなんの躊躇いもなくカイは触った。
「あ、ぅ…」
「この世に舞い降りた、俺だけの天使…」
ミシャは熱烈な視線に耐えきれなくて、顔を真っ赤にしてぎゅっと目を閉じ、小鹿のように震えていた。
カイはそれを見て笑うとミシャを抱き上げた。
いきなり高くなった視界が怖くて、ミシャはカイにすがりつく。
「お前のために作った部屋があるんだ」
「僕の、ため…?」
カイはミシャを抱き上げたまま城を歩いていく。
周りにいる使用人らしい人達がちらちらと二人を見てくるので恥ずかしくて仕方ない。
でも、アマルティナにいた頃のような悪意のある視線ではないことに少しほっとする。
ゼルトリアではミシャのような色なし子が呪われた子だとは知られていないというのは本当だったのだ。
「ここがお前の部屋だ」
そう言って連れてこられたのは、それなりに大きな邸宅で育ったミシャからしても大きな部屋だった。
ミシャの身体が日の光に弱いことも知っていたのか、部屋には分厚いカーテンが引かれている。
奥の方には見たこともないような大きなベッドがあり、美しい天蓋が幾重にも垂らされていた。
ベッド以外にも家具は全て凝った装飾のなされた見るからに高価そうなものばかりだ。
「あ、あの、この部屋が全て僕一人だけのものなんてこと、ありませんよね…?」
ミシャは敗戦国の捕虜。
こんな素晴らしい部屋を与えられる理由がない。
「何を言っているんだ?お前の部屋だと言っただろう」
「へ…?だって、こんな部屋…」
「狭すぎるか?気に入らないなら…」
「そ、そんなこと!ただ…あまりにも、豪華過ぎませんか…?」
「お前は俺の天使なのだから、これくらいの部屋、むしろ粗末といっても過言ではない」
ミシャは震えた。本当に、彼にとって自分は天使なんだと。
どうしよう。ミシャは天使どころか、不幸を呼ぶ忌子でしかないのに。
もし、ミシャがカイの思う天使ではないと分かってしまったら……カイは激昂してミシャを…
恐ろしい想像をしてしまい、ミシャは青ざめる。
「どうした?顔色が悪いな。長旅で疲れたのか?今日はもう寝たほうがいいな」
「あ、いや…はい」
疲れたのは確かだったので、ミシャはされるがままにベッドに降ろされた。
「やっと、お前を手に入れることができた…」
カイは恭しくミシャの手を取ると、手の甲にキスをした。
「愛している、ミシャ…」
「ぇ…」
「何か必要なことが有ればそこのベルを鳴らして呼んでくれ」
颯爽と去っていくカイを見つめたままミシャは呆けていた。
カイに名前を呼ばれたのは初めてだった。
彼はいつもミシャのことを、お前、とか天使、としか呼ばなかったから。
『愛している』という言葉が頭の中をぐるぐる巡ってミシャは全然眠れなくなってしまった。
3
お気に入りに追加
688
あなたにおすすめの小説

白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。

愛人少年は王に寵愛される
時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。
僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。
初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。
そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。
僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。
そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

【完結】愛してるから。今日も俺は、お前を忘れたふりをする
葵井瑞貴
BL
『好きだからこそ、いつか手放さなきゃいけない日が来るーー今がその時だ』
騎士団でバディを組むリオンとユーリは、恋人同士。しかし、付き合っていることは周囲に隠している。
平民のリオンは、貴族であるユーリの幸せな結婚と未来を願い、記憶喪失を装って身を引くことを決意する。
しかし、リオンを深く愛するユーリは「何度君に忘れられても、また好きになってもらえるように頑張る」と一途に言いーー。
ほんわか包容力溺愛攻め×トラウマ持ち強気受け
シャルルは死んだ
ふじの
BL
地方都市で理髪店を営むジルには、秘密がある。実はかつてはシャルルという名前で、傲慢な貴族だったのだ。しかし婚約者であった第二王子のファビアン殿下に嫌われていると知り、身を引いて王都を四年前に去っていた。そんなある日、店の買い出しで出かけた先でファビアン殿下と再会し──。
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――
ロ
BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」
と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。
「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。
※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる
葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。
王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。
国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。
異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。
召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。
皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。
威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。
なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。
召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前
全38話
こちらは個人サイトにも掲載されています。

お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる