忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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三話 天使の忌子

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 それから七年後、ゼルトリアとアマルフィアの関係は最悪になっていた。

 かつては絵を送り合うような仲だったのに、今となってはどちらかが今日にも相手に攻め込むのではないのかと戦々恐々されている。

「ミシャ、どうかした?」
「ううん、なんでも…」

 ミシャはというと、相変わらず絵のモデルをしていた。
 ミシャの気がかりは戦争のことより、父の絵のことだった。父の絵は年を経るほど徐々にミシャ本人に似ていっていた。

 父の絵の天使は、髪の色は白く描かれることが多くなったし、肌の色も不気味なほどに白く、なにより顔立ちがミシャそのものだった。

 健康的な小麦色の肌に漆黒の髪で描かれることの多い天使を、不吉とされる色なし子と同じ色で書いたことで父は多くの批判を浴びた。

 しかし、白を神聖な色として崇めるゼルトリアでは純白の天使は人気らしく、それがより一層のアマルフィア内での父の立場を悪くしていた。

「お父様、もうミシャの絵を描くのはやめてください!!!」
「お前はわかっていない、なにも…」

 兄と父がそんな口論をすることもしばしばだった。

 いっそのことゼルトリアに亡命でもしてしまいたかったが、この状況下では気軽に国境も渡れない。

 それに…

「ミシャは今日も美しいな。ほんの少し、首を傾げてみて」
「はい…」

 父のミシャへの執着がそれを許さなかった。父はミシャに陶酔するあまり、ミシャが家の外に出ることを極端に嫌がった。ミシャはもう三年も家から出ていない。
 アトリエにさえも連れ出さず自宅で絵を描いているのだ。

 父のことは好きだし尊敬も感謝もしている。でも、最近の父の様子は病んでいるようで恐ろしい。

 ミシャは徐々に絵の中の自分に苦しめられている気がしていた。
 清らかに、しかしどこか妖艶に微笑む天使の自分。自分はこんな顔をしていたのだろうか。
 ミシャは清らかなわけでもないし、性的にも未熟なはすだった。
 解離して行く自分と天使。それなのに見かけばかりがそっくりになっていく。

「お前さえいなければ」

 兄に、はっきりとそう告げられたとき、自分でもそう思った。

 どうして生まれてきたのだろう。ミシャは周りを不幸にしてばかりいる。
 きっと戦争が起きそうなのもミシャのせいだ。

 ミシャが、不幸を呼ぶ子だから。
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