忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

文字の大きさ
上 下
3 / 37

三話 天使の忌子

しおりを挟む
 それから七年後、ゼルトリアとアマルフィアの関係は最悪になっていた。

 かつては絵を送り合うような仲だったのに、今となってはどちらかが今日にも相手に攻め込むのではないのかと戦々恐々されている。

「ミシャ、どうかした?」
「ううん、なんでも…」

 ミシャはというと、相変わらず絵のモデルをしていた。
 ミシャの気がかりは戦争のことより、父の絵のことだった。父の絵は年を経るほど徐々にミシャ本人に似ていっていた。

 父の絵の天使は、髪の色は白く描かれることが多くなったし、肌の色も不気味なほどに白く、なにより顔立ちがミシャそのものだった。

 健康的な小麦色の肌に漆黒の髪で描かれることの多い天使を、不吉とされる色なし子と同じ色で書いたことで父は多くの批判を浴びた。

 しかし、白を神聖な色として崇めるゼルトリアでは純白の天使は人気らしく、それがより一層のアマルフィア内での父の立場を悪くしていた。

「お父様、もうミシャの絵を描くのはやめてください!!!」
「お前はわかっていない、なにも…」

 兄と父がそんな口論をすることもしばしばだった。

 いっそのことゼルトリアに亡命でもしてしまいたかったが、この状況下では気軽に国境も渡れない。

 それに…

「ミシャは今日も美しいな。ほんの少し、首を傾げてみて」
「はい…」

 父のミシャへの執着がそれを許さなかった。父はミシャに陶酔するあまり、ミシャが家の外に出ることを極端に嫌がった。ミシャはもう三年も家から出ていない。
 アトリエにさえも連れ出さず自宅で絵を描いているのだ。

 父のことは好きだし尊敬も感謝もしている。でも、最近の父の様子は病んでいるようで恐ろしい。

 ミシャは徐々に絵の中の自分に苦しめられている気がしていた。
 清らかに、しかしどこか妖艶に微笑む天使の自分。自分はこんな顔をしていたのだろうか。
 ミシャは清らかなわけでもないし、性的にも未熟なはすだった。
 解離して行く自分と天使。それなのに見かけばかりがそっくりになっていく。

「お前さえいなければ」

 兄に、はっきりとそう告げられたとき、自分でもそう思った。

 どうして生まれてきたのだろう。ミシャは周りを不幸にしてばかりいる。
 きっと戦争が起きそうなのもミシャのせいだ。

 ミシャが、不幸を呼ぶ子だから。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛人少年は王に寵愛される

時枝蓮夜
BL
女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

お客様と商品

あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)

ド天然アルファの執着はちょっとおかしい

のは
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。 【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

処理中です...