忌子は敵国の王に愛される

かとらり。

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二話 画家と天使

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 ミシャの部屋は屋敷の奥深くにある。
 そこには、家族と限られた使用人のみが入室が許されている。

 もっぱら訪れるのは父で、兄は滅多にミシャに会いに来ることはない。
 兄はミシャのことを嫌っているから。
 でも、ミシャがセルヴィレア家のお荷物であることは自分でよくわかっているので、それも仕方ない。

「ミシャ、今日も元気かい?」
「はい、お父様」
「じゃあ、今日も仕事を手伝ってくれるかな」
「はい」

 宮廷画家の父はよくミシャを自分のアトリエに連れて行き、モデルにしていた。
 たぶん、わざわざミシャに役割を与えて罪悪感を減らしてくれているのだと思う。

「父様、今はなんの絵を描いているの?」
「受胎告知の絵だよ。ミシャを描くならやはり天使だからね」

 ミシャの体格は華奢なので、強いていうなら天使が適しているのかもしれない。けれど神々しい天使様を自分なんかをモデルにして描いていいのかとミシャはときどき怖くなる。

「この絵はゼルトリア王国に送られる予定なんだ。特別に美しくしないと」

 父はそう言ってミシャの長い白髪を指で梳いた。不気味な白髪を切ってくれる美容師もおらず、父もミシャの髪を切ろうとしなかったから、ミシャの髪はかなり長くなっていた。

「ミシャ、お前は本当に美しい。淡雪のような儚さと、瞳に潜む炎が私を引きつけてやまない。出会った頃のアリエナ…いや、それより魅力的だ」

 ミシャはなんと答えることも出来ずに困ったようにほほ笑んだ。

 母はそれは美しい人だったそうだ。
 上流貴族だった母は肖像画を描きに来た父と身分違いの恋に落ち、兄とミシャが生まれた。

 こんな忌子で気味の悪いミシャが母より美しいわけないのに。

「さぁ、そこに座って」
「はい」

 ミシャは父に言われた通りにしゃがんでポーズを取った。

 父は筆を取り黙々と絵を描いていく。

 アトリエは、屋敷と併設されているが、複数の画家が使用している。
 視線を感じながらもミシャはじっとしていた。

 父以外の画家たちは皆、ミシャを恐れて近づかない。
 ミシャに近づいたり、触れたりすると呪われると思っているのだ。

 画家達がひそひそと話している。
 きっと彼らはミシャに今すぐここから出ていって欲しいのだろう。でも、このアトリエでは父が1番なので、何も言えないのだ。

 ごめんなさい、とミシャは心の中で謝ることしかできなかった。

(あの絵をもらった人は、あの絵を美しいと思ってくれるかな……もし、思ったとして、僕がモデルだと知っても、それでも美しいと思ってくれるのかな)

 そう思いながらミシャは絵筆を動かす父を見つめた。

 その後その絵は無事完成してゼルトリア王国に贈られた。ミシャがまだ十一歳の時だった。

 
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