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二十八話 自己犠牲

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 男の剣が、ルイに向かって振り下ろされる。
 その時、

「ルイ様っ…!」
「え、」

 ルイと剣先の間にセシリオの体が割り込んだ。

「何をっ…」

 ルイは咄嗟にセシリオを突き飛ばそうとしたがぼろぼろの身体は一寸も動いてくれない。

「っ!」

 セシリオが割り込んだことは相手も想定外だったらしい。

 剣がセシリオに突き刺さる、その寸前、相手は剣先を逸らした。

 しかし、セシリオの右腕に剣が突き刺さった。

「っぐぅ…」
「セシリオ様!」

 ルイはなんとか体を動かしセシリオをどかそうとするが、セシリオは頑として動こうとしない。

「…どけ」

 相手が冷たく言い放つ。

「どきません!」
「どいてください!」

 ルイが叫んでも、セシリオは退かなかった。

 男はセシリオを殺すつもりは無いのか剣を引いた。
 ジューン家を敵に回したいものはこの大陸にはいない。

「退け!」

 遠くからそう叫ぶ声が聞こえ、男は去って行った。

「セシリオ様、大丈夫ですか?!」
「はい……少し、痛いですけど…痛いのは、僕にとっては、ご褒美なので…えへへ」

 力なくセシリオは微笑むが、右腕からはだらだらと血が止めどなく溢れていた。

「止血します。じっとしていて、動かないで下さい」

 ルイはセシリオを寝かせ、服を破いてセシリオの腕に巻く。

「僕は大丈夫ですよ、それよりルイ様のほうが…」

 ルイも満身創痍だった。でも、セシリオの出血は大分深刻だ。

「なぜ、僕なんかを助けるために…」
「愛してる人を助けるのは、当たり前のこと…ですよ」

 とろりとセシリオの瞼が落ちる。
 ゆったりとした瞬きはどんどんと目を閉じる時間が長くなっていく。

「決めたんです。ルイ様が愛を知らないなら僕が教えてあげるって」
「もうしゃべらないで…」
「ルイ様…少し、分かりましたか?」
「分かったから、静かに…傷に障ります」
「はい…」

 セシリオはかすかに頷くと、瞳を閉じてもう開けることはなかった。

「…どうして」

 ルイはずっと自分のことを身を挺してまで助けてくれる人なんていないと思っていた。
 いや、違う。今まで自分のことを助けてくれる人なんていなかったのだ。

「セシリオっ…セシリオは無事か?!」
「レン様!こっちです!!」

 駆けつけたレンによってセシリオとルイは病院まで運ばれた。
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