上 下
31 / 33

船旅

しおりを挟む
 ゆらゆら、揺れてる…

 ゆったりとした揺れを感じながらアエテルニアは目を覚ました。

「おはよう。ニア」
「……おはよう」

 隣には当たり前のようにテオドアがいた。
 狭いベッドに二人で寝ているので身体はぎゅうぎゅうに密着している。

 そして、眩しい光の入り込む窓の外には見渡す限り青い海が広がっていた。

 テオドアがいきなり旅行に行こうと言い出して、屋敷を出たのは一ヶ月前の話だ。
 なんの冗談かと思っているうちに準備は進んで行き、アエテルニアがかつて向かっていた港町で船に乗った。

 どこに行くかは聞いていない。
 ただ、半年休暇を取ったと言っていたからその間には行って帰ってこれる場所のはずだ。

「おはよー!」
「おはよう…」

 扉を開けて、朝から元気なヴィクトルと少し眠そうなルカが入ってくる。

 ルカとヴィクトルは扉一枚挟んだ隣の部屋に泊まっている。
 ここよりさらに狭い部屋だが、船旅だから贅沢は言えない。教会にいたときの部屋とそこまで変わらないから二人はぜんぜん平気そうだが。

「なぁ、目的地っていつ頃つくんだー?明日?」
「いや、早くても一週間はかかるだろうな」
「一週間?ひますぎ~」
「チェスでもするか?」
「テオが強すぎるからつまんねー」
「じゃあ、俺はポーン無しでもいい」

 ヴィクトルとルカはいつのまにかテオドアと仲良くなっていた。父親というのはしっくりこないらしくて、アエテルニアが呼ぶようにテオと呼んでいる。

 二人ともアエテルニアのことも愛称で呼んでいるからはたから見れば変な家族かもしれない。

「あ、じゃあさ、俺とルカ対ニアとテオは?テオは五回だけ助言していいけど基本ニアが駒動かせばちょうど良いんじゃね?」
「たしかに。ニアはチェスへたっぴょだもんね」
「ふむ。どうする、アエテルニア」
「え…?」

 ぼーっとしていたアエテルニアは話を聞き逃してしまっていた。

「ニア、一緒にチェスしよー!」
「あ…うん。僕、弱いけど大丈夫?」
「大丈夫、俺ボードとってくる!」
「俺は朝食をもらってこよう」

 ヴィクトルとテオドアが部屋を出ていき、アエテルニアはルカと二人っきりになった。

「ねぇ、ニア。大丈夫?」
「え?」
「ずっと元気ないし、ぼーっとしてる」

 アエテルニアと同じ蛍石の瞳がアエテルニアをじっと見据える。

「ニアはさ、テオのこと好きなの?」
「……どうして?」
「だって、愛し合う人の間にしか子供って生まれないんでしょ?僕らがニアとテオのこどもなら、二人は愛し合ってるってことじゃん。でも、ニアはテオといると苦しそうだから」
「うん、そうだね」

 あまりにも純粋な問いにアエテルニアは胸の奥がしくしく痛むのを感じた。

「あのね、ルカ。好きだから…愛してるから苦しいこともあるんだよ。僕は弱いから…愛を守るのが大変なんだよ」
「ふーん…」

 これは罪悪感だ。
 アエテルニアは思った。

 自分が苦しいのも、二人に心配させるのも、テオドアの愛を受け入れられないのも。
 ぜんぶ、アエテルニアが弱くて、意固地になってるせいだから。

(ごめんね…)

 心のなかでアエテルニアは謝った。

「ニア。ヴィーと二人でこっそり話してたんだけど」

 ルカが小さな声でアエテルニアに囁く。

「ニアが本当に苦しいなら、目的地に着いたら逃げちゃおうよ。見知らぬ土地なら、テオも見失うかもしれない」
「っ…」

 思わぬ提案にアエテルニアは体を固めた。

「ニアがテオのこと好きなら、一緒に居た方がいいと思う。僕たちも、頑張ってテオと仲良くするよ。僕にはまだニアの気持ちがわかんないから…ニアが決めて」
「ルカ…」

 何か口にしようとする前にテオドアが朝食を持って部屋に帰ってきたので、話は終わりになった。

 でも、アエテルニアはずっとその話のことばかり考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

きょうもオメガはワンオぺです

トノサキミツル
BL
ツガイになっても、子育てはべつ。 アルファである夫こと、東雲 雅也(しののめ まさや)が交通事故で急死し、ワンオペ育児に奮闘しながらオメガ、こと東雲 裕(しののめ ゆう)が運命の番い(年収そこそこ)と出会います。

風俗店で働いていたら運命の番が来ちゃいました!

白井由紀
BL
【BL作品】(20時毎日投稿) 絶対に自分のものにしたい社長α×1度も行為をしたことない風俗店のΩ アルファ専用風俗店で働くオメガの優。 働いているが1度も客と夜の行為をしたことが無い。そのため店長や従業員から使えない認定されていた。日々の従業員からのいじめで仕事を辞めようとしていた最中、客として来てしまった運命の番に溺愛されるが、身分差が大きいのと自分はアルファに不釣り合いだと番ことを諦めてしまう。 それでも、アルファは番たいらしい なぜ、ここまでアルファは番たいのか…… ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです ※長編になるか短編になるかは未定です

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

婚約者は俺にだけ冷たい

円みやび
BL
藍沢奏多は王子様と噂されるほどのイケメン。 そんなイケメンの婚約者である古川優一は日々の奏多の行動に傷つきながらも文句を言えずにいた。 それでも過去の思い出から奏多との別れを決意できない優一。 しかし、奏多とΩの絡みを見てしまい全てを終わらせることを決める。 ザマァ系を期待している方にはご期待に沿えないかもしれません。 前半は受け君がだいぶ不憫です。 他との絡みが少しだけあります。 あまりキツイ言葉でコメントするのはやめて欲しいです。 ただの素人の小説です。 ご容赦ください。

僕は貴方の為に消えたいと願いながらも…

夢見 歩
BL
僕は運命の番に気付いて貰えない。 僕は運命の番と夫婦なのに… 手を伸ばせば届く距離にいるのに… 僕の運命の番は 僕ではないオメガと不倫を続けている。 僕はこれ以上君に嫌われたくなくて 不倫に対して理解のある妻を演じる。 僕の心は随分と前から血を流し続けて そろそろ限界を迎えそうだ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 傾向|嫌われからの愛され(溺愛予定) ━━━━━━━━━━━━━━━ 夢見 歩の初のBL執筆作品です。 不憫受けをどうしても書きたくなって 衝動的に書き始めました。 途中で修正などが入る可能性が高いので 完璧な物語を読まれたい方には あまりオススメできません。

エリートアルファの旦那様は孤独なオメガを手放さない

小鳥遊ゆう
BL
両親を亡くした楓を施設から救ってくれたのは大企業の御曹司・桔梗だった。 出会った時からいつまでも優しい桔梗の事を好きになってしまった楓だが報われない恋だと諦めている。 「せめて僕がαだったら……Ωだったら……。もう少しあなたに近づけたでしょうか」 「使用人としてでいいからここに居たい……」 楓の十八の誕生日の夜、前から体調の悪かった楓の部屋を桔梗が訪れるとそこには発情(ヒート)を起こした楓の姿が。 「やはり君は、私の運命だ」そう呟く桔梗。 スパダリ御曹司αの桔梗×βからΩに変わってしまった天涯孤独の楓が紡ぐ身分差恋愛です。

歪んだ運命の番様

ぺんたまごん
BL
親友αは運命の番に出会った。 大学4年。親友はインターン先で運命の番と出会いを果たし、来年の6月に結婚式をする事になった。バース性の隔たりなく接してくれた親友は大切な友人でもあり、唯一の思い人であった。 思いも伝える事が出来ず、大学の人気のないベンチで泣いていたら極上のαと言われる遊馬弓弦が『慰めてあげる』と声をかけてくる。 俺は知らなかった。都市伝説としてある噂がある事を。 αにずっと抱かれているとβの身体が変化して…… ≪登場人物≫ 松元雪雄(β) 遊馬弓弦(α) 雪雄に執着している 暁飛翔(α) 雪雄の親友で片思いの相手 矢澤旭(Ω) 雪雄に助けられ、恩を感じている ※一般的なオメガバースの設定ですが、一部オリジナル含んでおりますのでご理解下さい。 又、無理矢理、露骨表現等あります。 フジョッシー、ムーンにも記載してますが、ちょこちょこ変えてます。

処理中です...