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船旅
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ゆらゆら、揺れてる…
ゆったりとした揺れを感じながらアエテルニアは目を覚ました。
「おはよう。ニア」
「……おはよう」
隣には当たり前のようにテオドアがいた。
狭いベッドに二人で寝ているので身体はぎゅうぎゅうに密着している。
そして、眩しい光の入り込む窓の外には見渡す限り青い海が広がっていた。
テオドアがいきなり旅行に行こうと言い出して、屋敷を出たのは一ヶ月前の話だ。
なんの冗談かと思っているうちに準備は進んで行き、アエテルニアがかつて向かっていた港町で船に乗った。
どこに行くかは聞いていない。
ただ、半年休暇を取ったと言っていたからその間には行って帰ってこれる場所のはずだ。
「おはよー!」
「おはよう…」
扉を開けて、朝から元気なヴィクトルと少し眠そうなルカが入ってくる。
ルカとヴィクトルは扉一枚挟んだ隣の部屋に泊まっている。
ここよりさらに狭い部屋だが、船旅だから贅沢は言えない。教会にいたときの部屋とそこまで変わらないから二人はぜんぜん平気そうだが。
「なぁ、目的地っていつ頃つくんだー?明日?」
「いや、早くても一週間はかかるだろうな」
「一週間?ひますぎ~」
「チェスでもするか?」
「テオが強すぎるからつまんねー」
「じゃあ、俺はポーン無しでもいい」
ヴィクトルとルカはいつのまにかテオドアと仲良くなっていた。父親というのはしっくりこないらしくて、アエテルニアが呼ぶようにテオと呼んでいる。
二人ともアエテルニアのことも愛称で呼んでいるからはたから見れば変な家族かもしれない。
「あ、じゃあさ、俺とルカ対ニアとテオは?テオは五回だけ助言していいけど基本ニアが駒動かせばちょうど良いんじゃね?」
「たしかに。ニアはチェスへたっぴょだもんね」
「ふむ。どうする、アエテルニア」
「え…?」
ぼーっとしていたアエテルニアは話を聞き逃してしまっていた。
「ニア、一緒にチェスしよー!」
「あ…うん。僕、弱いけど大丈夫?」
「大丈夫、俺ボードとってくる!」
「俺は朝食をもらってこよう」
ヴィクトルとテオドアが部屋を出ていき、アエテルニアはルカと二人っきりになった。
「ねぇ、ニア。大丈夫?」
「え?」
「ずっと元気ないし、ぼーっとしてる」
アエテルニアと同じ蛍石の瞳がアエテルニアをじっと見据える。
「ニアはさ、テオのこと好きなの?」
「……どうして?」
「だって、愛し合う人の間にしか子供って生まれないんでしょ?僕らがニアとテオのこどもなら、二人は愛し合ってるってことじゃん。でも、ニアはテオといると苦しそうだから」
「うん、そうだね」
あまりにも純粋な問いにアエテルニアは胸の奥がしくしく痛むのを感じた。
「あのね、ルカ。好きだから…愛してるから苦しいこともあるんだよ。僕は弱いから…愛を守るのが大変なんだよ」
「ふーん…」
これは罪悪感だ。
アエテルニアは思った。
自分が苦しいのも、二人に心配させるのも、テオドアの愛を受け入れられないのも。
ぜんぶ、アエテルニアが弱くて、意固地になってるせいだから。
(ごめんね…)
心のなかでアエテルニアは謝った。
「ニア。ヴィーと二人でこっそり話してたんだけど」
ルカが小さな声でアエテルニアに囁く。
「ニアが本当に苦しいなら、目的地に着いたら逃げちゃおうよ。見知らぬ土地なら、テオも見失うかもしれない」
「っ…」
思わぬ提案にアエテルニアは体を固めた。
「ニアがテオのこと好きなら、一緒に居た方がいいと思う。僕たちも、頑張ってテオと仲良くするよ。僕にはまだニアの気持ちがわかんないから…ニアが決めて」
「ルカ…」
何か口にしようとする前にテオドアが朝食を持って部屋に帰ってきたので、話は終わりになった。
でも、アエテルニアはずっとその話のことばかり考えていた。
ゆったりとした揺れを感じながらアエテルニアは目を覚ました。
「おはよう。ニア」
「……おはよう」
隣には当たり前のようにテオドアがいた。
狭いベッドに二人で寝ているので身体はぎゅうぎゅうに密着している。
そして、眩しい光の入り込む窓の外には見渡す限り青い海が広がっていた。
テオドアがいきなり旅行に行こうと言い出して、屋敷を出たのは一ヶ月前の話だ。
なんの冗談かと思っているうちに準備は進んで行き、アエテルニアがかつて向かっていた港町で船に乗った。
どこに行くかは聞いていない。
ただ、半年休暇を取ったと言っていたからその間には行って帰ってこれる場所のはずだ。
「おはよー!」
「おはよう…」
扉を開けて、朝から元気なヴィクトルと少し眠そうなルカが入ってくる。
ルカとヴィクトルは扉一枚挟んだ隣の部屋に泊まっている。
ここよりさらに狭い部屋だが、船旅だから贅沢は言えない。教会にいたときの部屋とそこまで変わらないから二人はぜんぜん平気そうだが。
「なぁ、目的地っていつ頃つくんだー?明日?」
「いや、早くても一週間はかかるだろうな」
「一週間?ひますぎ~」
「チェスでもするか?」
「テオが強すぎるからつまんねー」
「じゃあ、俺はポーン無しでもいい」
ヴィクトルとルカはいつのまにかテオドアと仲良くなっていた。父親というのはしっくりこないらしくて、アエテルニアが呼ぶようにテオと呼んでいる。
二人ともアエテルニアのことも愛称で呼んでいるからはたから見れば変な家族かもしれない。
「あ、じゃあさ、俺とルカ対ニアとテオは?テオは五回だけ助言していいけど基本ニアが駒動かせばちょうど良いんじゃね?」
「たしかに。ニアはチェスへたっぴょだもんね」
「ふむ。どうする、アエテルニア」
「え…?」
ぼーっとしていたアエテルニアは話を聞き逃してしまっていた。
「ニア、一緒にチェスしよー!」
「あ…うん。僕、弱いけど大丈夫?」
「大丈夫、俺ボードとってくる!」
「俺は朝食をもらってこよう」
ヴィクトルとテオドアが部屋を出ていき、アエテルニアはルカと二人っきりになった。
「ねぇ、ニア。大丈夫?」
「え?」
「ずっと元気ないし、ぼーっとしてる」
アエテルニアと同じ蛍石の瞳がアエテルニアをじっと見据える。
「ニアはさ、テオのこと好きなの?」
「……どうして?」
「だって、愛し合う人の間にしか子供って生まれないんでしょ?僕らがニアとテオのこどもなら、二人は愛し合ってるってことじゃん。でも、ニアはテオといると苦しそうだから」
「うん、そうだね」
あまりにも純粋な問いにアエテルニアは胸の奥がしくしく痛むのを感じた。
「あのね、ルカ。好きだから…愛してるから苦しいこともあるんだよ。僕は弱いから…愛を守るのが大変なんだよ」
「ふーん…」
これは罪悪感だ。
アエテルニアは思った。
自分が苦しいのも、二人に心配させるのも、テオドアの愛を受け入れられないのも。
ぜんぶ、アエテルニアが弱くて、意固地になってるせいだから。
(ごめんね…)
心のなかでアエテルニアは謝った。
「ニア。ヴィーと二人でこっそり話してたんだけど」
ルカが小さな声でアエテルニアに囁く。
「ニアが本当に苦しいなら、目的地に着いたら逃げちゃおうよ。見知らぬ土地なら、テオも見失うかもしれない」
「っ…」
思わぬ提案にアエテルニアは体を固めた。
「ニアがテオのこと好きなら、一緒に居た方がいいと思う。僕たちも、頑張ってテオと仲良くするよ。僕にはまだニアの気持ちがわかんないから…ニアが決めて」
「ルカ…」
何か口にしようとする前にテオドアが朝食を持って部屋に帰ってきたので、話は終わりになった。
でも、アエテルニアはずっとその話のことばかり考えていた。
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