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狼さんと猫ちゃん、仲良し?
しおりを挟む北斗がさった後澪と慶斗だけがのこされた。
なんとなく澪が気まずい気持ちでいると、慶斗がいきなり澪を抱き上げた。
「へ?…あの、慶斗さん?」
「君は無防備すぎる」
ずかずかと歩む慶斗の足は二人の部屋に向かっている。
「む、無防備?」
「君はΩだ。しかも猫種の。兄さんは狼種のαだ。兄さんがそんな人じゃないから大丈夫だったが、もしも襲い掛かられたらお前は抵抗もできないんだぞ」
「襲うって……僕のこと襲いたい人なんていませんよ」
「いる」
ぽす、と慶斗が澪を柔らかい布団の上に寝かせた。
「忘れたのか?俺は君を三日三晩抱いた」
「っ……でも、それは…儀式だったんでしょう?」
「儀式だとしても、興奮しない相手を発情期でもないのに三日抱くことなど出来ない。現に…」
慶斗が澪の首についた華奢な首輪に噛み付いた。
「今だってお前のことを抱ける」
「へ…あっ」
慶斗が澪の着物の合わせを開いた。
「…抵抗、しないのか」
「ん…だって、慶斗さんだから…」
そうは言いつつぺたんと耳を倒して怯えた目で澪は慶斗を見つめる。
「…君は、どうして俺のことをそんなに…好いてくれているんだ?」
「どうして…?」
慶斗は緊張しながら答えを待つ。
「それは…」
澪はじっと慶斗を見つめて言った。
「多分慶斗さんは覚えてないと思うけど、僕、昔に慶斗さんに助けてもらったことがあるんです。その時から僕は慶斗さんのことを追いかけ始めて…ストーカーみたいですよね、ごめんなさい。でもストーカーしようと思ってストーカーしたわけじゃなくて、ただ話しかけようと思っても話しかけられなくて…ともかく、長い間慶斗さんのことを見てたんですけど、慶斗さんはいつも誰にでも優しくて…なにより正しく生きようとしてる人だってわかって、人としても好きになりました。でも、僕は猫種のΩだし、狼種の慶斗さんにはつり合わないって思ってたので、いまこうして結婚できてることも身に余る光栄って言うか…だからときどき慶斗さんに話しかけられても答えられないのはこう、キャパオーバーになってるだけで、無視しようと思ってるわけじゃないんです、ごめんなさい。本当は…本当はすごく好きなんです。あなたの何もかもが」
「….あぁ」
想像の数倍の答えが返ってきて、慶斗のほうがキャパオーバーになってしまった。
「その…ありがとう。俺のことを好きになってくれて。ただ、申し訳ない」
「えっ…?」
「俺の家…いや、俺は君を利用しているんだ」
君は俺のことを正しいと言ってくれたが、それは本当ではない。と慶斗は苦しそうに言った。
「…僕、慶斗さんになら利用されてもいいです」
澪が控えめに慶斗に抱きついた。
「利用っていうのがどういうことなのかは分からないですけど…慶斗さんはきっと悪いことなんてしないです。それに、普通僕を利用しようとしているなら『利用してる』なんてわざわざ僕本人に言いませんよ」
「あ…」
くすりと澪が笑った。慶斗はやはりどこまでも優しくて正直なんだ。
「できるなら教えてくれませんか?利用するってどういうことなのか。僕も協力できるかもしれないので」
「協力…か」
慶斗は少し顔を赤らめる。なんでだろうと澪は首を傾げた。
「…俺は、子作りをしなくてはいけないんだ」
「へ…」
澪は慶斗が赤面した理由がわかった。子作りの協力とは、つまり…
「その、兄さん…は俺の腹違いの兄で、母からすると妾腹の子、なんだ。母は正妻の自分の子供である俺に跡を継いで欲しいらしい。そのためには、俺はαの子供を作らなくてはいけないんだ」
「どうしてですか…?」
「狼種…特に大神家ではαの子供…つまり後継となるものが既にいるものに跡を継がせるんだ」
「だから、慶斗さんが後を継ぐにはαの子供を産まなくちゃいけないんですね」
子供を道具にするみたいで少し可哀想な気もする。けど、家系を継いで行くためにそうした方が良かったのだろう。
「そうだ。俺は君を後を継ぐために利用するんだ」
慶斗は申し訳なさそうな目で澪を見る。
「その…」
澪は気まずそうに目を逸らした。
「僕は慶斗さんとの子供なら欲しいです……慶斗さんは僕との子供は嫌ですか?」
予想外の答えに慶斗は目を見開いた。
「……君は可愛いな」
「ふぇ?」
「狼種のαを産まなきゃいけないのに…君に似た子供が欲しくなってしまう」
澪は慶斗の言葉に顔を赤くした。
「それって、慶斗さんが僕のことすごく好きみたいです」
「今更気づいたのか?」
「えぇ?!」
慶斗が澪に不意打ちのキスをした。
澪は固まったまま何もできなかった。
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