上 下
13 / 28

狼さんと猫ちゃん、仲良し?

しおりを挟む


 北斗がさった後澪と慶斗だけがのこされた。
 なんとなく澪が気まずい気持ちでいると、慶斗がいきなり澪を抱き上げた。

「へ?…あの、慶斗さん?」
「君は無防備すぎる」

 ずかずかと歩む慶斗の足は二人の部屋に向かっている。

「む、無防備?」
「君はΩだ。しかも猫種の。兄さんは狼種のαだ。兄さんがそんな人じゃないから大丈夫だったが、もしも襲い掛かられたらお前は抵抗もできないんだぞ」
「襲うって……僕のこと襲いたい人なんていませんよ」
「いる」

 ぽす、と慶斗が澪を柔らかい布団の上に寝かせた。

「忘れたのか?俺は君を三日三晩抱いた」
「っ……でも、それは…儀式だったんでしょう?」
「儀式だとしても、興奮しない相手を発情期でもないのに三日抱くことなど出来ない。現に…」

 慶斗が澪の首についた華奢な首輪に噛み付いた。

「今だってお前のことを抱ける」
「へ…あっ」

 慶斗が澪の着物の合わせを開いた。

「…抵抗、しないのか」
「ん…だって、慶斗さんだから…」

 そうは言いつつぺたんと耳を倒して怯えた目で澪は慶斗を見つめる。

「…君は、どうして俺のことをそんなに…好いてくれているんだ?」
「どうして…?」

 慶斗は緊張しながら答えを待つ。

「それは…」

 澪はじっと慶斗を見つめて言った。 

「多分慶斗さんは覚えてないと思うけど、僕、昔に慶斗さんに助けてもらったことがあるんです。その時から僕は慶斗さんのことを追いかけ始めて…ストーカーみたいですよね、ごめんなさい。でもストーカーしようと思ってストーカーしたわけじゃなくて、ただ話しかけようと思っても話しかけられなくて…ともかく、長い間慶斗さんのことを見てたんですけど、慶斗さんはいつも誰にでも優しくて…なにより正しく生きようとしてる人だってわかって、人としても好きになりました。でも、僕は猫種のΩだし、狼種の慶斗さんにはつり合わないって思ってたので、いまこうして結婚できてることも身に余る光栄って言うか…だからときどき慶斗さんに話しかけられても答えられないのはこう、キャパオーバーになってるだけで、無視しようと思ってるわけじゃないんです、ごめんなさい。本当は…本当はすごく好きなんです。あなたの何もかもが」
「….あぁ」

 想像の数倍の答えが返ってきて、慶斗のほうがキャパオーバーになってしまった。

「その…ありがとう。俺のことを好きになってくれて。ただ、申し訳ない」
「えっ…?」
「俺の家…いや、俺は君を利用しているんだ」

 君は俺のことを正しいと言ってくれたが、それは本当ではない。と慶斗は苦しそうに言った。

「…僕、慶斗さんになら利用されてもいいです」

 澪が控えめに慶斗に抱きついた。 

「利用っていうのがどういうことなのかは分からないですけど…慶斗さんはきっと悪いことなんてしないです。それに、普通僕を利用しようとしているなら『利用してる』なんてわざわざ僕本人に言いませんよ」
「あ…」

 くすりと澪が笑った。慶斗はやはりどこまでも優しくて正直なんだ。

「できるなら教えてくれませんか?利用するってどういうことなのか。僕も協力できるかもしれないので」
「協力…か」

 慶斗は少し顔を赤らめる。なんでだろうと澪は首を傾げた。

「…俺は、子作りをしなくてはいけないんだ」
「へ…」

 澪は慶斗が赤面した理由がわかった。子作りの協力とは、つまり…

「その、兄さん…は俺の腹違いの兄で、母からすると妾腹の子、なんだ。母は正妻の自分の子供である俺に跡を継いで欲しいらしい。そのためには、俺はαの子供を作らなくてはいけないんだ」
「どうしてですか…?」
「狼種…特に大神家ではαの子供…つまり後継となるものが既にいるものに跡を継がせるんだ」
「だから、慶斗さんが後を継ぐにはαの子供を産まなくちゃいけないんですね」  

 子供を道具にするみたいで少し可哀想な気もする。けど、家系を継いで行くためにそうした方が良かったのだろう。

「そうだ。俺は君を後を継ぐために利用するんだ」

 慶斗は申し訳なさそうな目で澪を見る。

「その…」 

 澪は気まずそうに目を逸らした。

「僕は慶斗さんとの子供なら欲しいです……慶斗さんは僕との子供は嫌ですか?」

 予想外の答えに慶斗は目を見開いた。

「……君は可愛いな」
「ふぇ?」
「狼種のαを産まなきゃいけないのに…君に似た子供が欲しくなってしまう」

 澪は慶斗の言葉に顔を赤くした。 

「それって、慶斗さんが僕のことすごく好きみたいです」
「今更気づいたのか?」
「えぇ?!」

 慶斗が澪に不意打ちのキスをした。
 澪は固まったまま何もできなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

お世話したいαしか勝たん!

沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。 悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…? 優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?! ※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

人気アイドルが義理の兄になりまして

雨田やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?

真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。 そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。 オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。 ※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。 ※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...