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猫ちゃん落ち込む

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 慶斗の言葉の意味を知ったのはその数時間後だった。

「…この子が猫種の嫁?」
「えっと…はい」

 慶斗の母…慶子は澪を見るなりそう言ったのだ。

「随分と小さいのねぇ。この小さい体でオオカミ種の子どもが産めるの?」
「えと…その」

 澪はあまりにも当たりのきつい慶子にたじろぐことしかできない。

「母さん、この縁談は僕たちから持ちかけたんですよ。それに、今の言い方は彼に失礼です」
「慶斗は本当にいい子ねぇ。早くあなたに似た孫が見たいわ」

 慶子はずいぶん慶斗を可愛がっているようだった。

「母さん、儀式を」
「ええ、分かったわ」

 慶子は澪に近づくと澪の左手を乱暴に取った。

「え…」

 そして慶子は自分の薬指からとった指輪を澪に付けた。

「…澪、これが大神家の結婚指輪だ。オオカミ種の間では先代の妻から次の妻に受け継がれるんだ」
「そう、なんですか…」
「…こんな猫種のΩじゃなくて、オオカミ種のαに渡すと思っていたのに」
「母さん」 

 結婚指輪は夫から贈られるものだと思っていたけど、こんな形もあるんだ、と澪は不思議そうに指輪を見つめた。

「次は俺が父さんから指輪を貰う」
「はい」

 慶子はもう澪には興味がなさそうだった。
 慶子さんちょっと怖いな。
 澪は所在なさげに尻尾を揺らして部屋を出た。

 慶斗の父、北斗は慶子とは違いほとんど言葉をかけなかった。

 事務的に慶斗に指輪を渡すと、
「うまくやるように」
 と言って仕事に戻っていった。

 変なの、と澪は思った。
 澪の家…猫種の家では結婚は一大イベントで親戚みんなで集まって宴をする。それは政略結婚でもそうだ。

 最初はいやいやだった結婚でも宴をするうちに楽しく思えてしまう。猫種の結婚はそんな感じだった。 

(そういえば慶斗さんのご両親、お祝いの言葉も言わなかった)

 狼種がそうなのか、慶斗の家がそうなのか。 

(それとも、僕が猫種だからかな…)

 しょぼんと目に見えて落ち込む澪を見かねたのか、慶斗はぎこちなく澪の頭を撫でた。

「気にするな。ああいう人たちなんだ」
「…はい」  

 頭を撫でる仕草は優しかったけど、子供扱いされているようで少し悲しかった。澪は慶斗の結婚相手なのに。

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